当時の日本には、まだ国産リボンがなかった。西洋からの輸入リボンは高い関税で手に入りにくかった。

『三四郎』は今読むとアンティークな読み物。連載された頃はトレンディー小説で、当時の先端事情が物語の背景に。
本郷三丁目の交差点、百年前には兼安の向こう側に西洋小間物店があった。本郷も兼安までは江戸のうち。

 

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ヴィクトリアン アール・ヌーボー  リボン飾り 銅製 マッチケース

アール・ヌーボー デザインが優美な銅製マッチケースです。 四隅にはユリと思われる植物が綺麗です。上下にはリボン飾りがクルッとかかっていて、ヴィクトリアンからエドワーディアンの頃、おそらくは1900年前後の英国製と思います。

内側には木製ケースが入っていますが、一世紀ほどの年月を経て朽ちかかっており、側面のヤスリも弱くなっているので、銅製のフレーム本体を活かして、内部のマッチ箱は自作してください。

アンティーク ヴィクトリアン アール・ヌーボー マッチケース(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)

 

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ヴィクトリアン アール・ヌーボー  リボン飾り 銅製 マッチケース(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)

それから、クルッとしたリボン飾り、どうもこのデザインはヴィクトリアン終わり頃からエドワーディアン頃に多いように思います。当時のイギリスで流行ったデザインと云うことでしょう。夏目漱石のロンドン留学の頃と重なっております。漱石もロンドンで影響を受けて、『三四郎』に出てくるリボンの話に繋がっていったのではないかと考えています。

アンティーク ヴィクトリアン アール・ヌーボー マッチケース(英国 アンティーク シルバー 英吉利物屋)

このリボン飾りについて少し考えてみたいことがあります。二十一世紀に暮らす日本人の私たちは、この装飾を見て、リボンがクルッとかかって、かわいいなと思われるでしょう。しかしながら、この品が使われていた一世紀ほど前に、当時の日本人が見たとしたら、そう簡単にはピンと来なかった可能性が高いのです。

その手掛かりは朝日新聞に1908年に連載された夏目漱石の『三四郎』にあります。第二章の最後に以下の一節がありますので、まずは読んでみましょう。

『四角へ出ると、左手のこちら側に西洋小間物屋(こまものや)があって、向こう側に日本小間物屋がある。そのあいだを電車がぐるっと曲がって、非常な勢いで通る。ベルがちんちんちんちんいう。渡りにくいほど雑踏する。野々宮君は、向こうの小間物屋をさして、
「あすこでちょいと買物をしますからね」と言って、ちりんちりんと鳴るあいだを駆け抜けた。三四郎もくっついて、向こうへ渡った。野々宮君はさっそく店へはいった。表に待っていた三四郎が、気がついて見ると、店先のガラス張りの棚に櫛だの花簪(はなかんざし)だのが並べてある。三四郎は妙に思った。野々宮君が何を買っているのかしらと、不審を起こして、店の中へはいってみると、蝉(せみ)の羽根のようなリボンをぶら下げて、
「どうですか」と聞かれた。』 (以上、引用終り)

四つ角というのは本郷三丁目の交差点で、向こう側の日本小間物屋というのは、「本郷も兼安までは江戸のうち」の川柳で有名な兼安を指しています。「蝉(せみ)の羽根のようなリボン」という表現は、すさまじい感じで、リボンを見たことがない人にも、リボンがなんたるか説明したい漱石の親切でしょう。

『三四郎』を今読むと、なんともノスタルジックで、アンティークな読み物と感じますが、朝日新聞に連載された頃はトレンディー小説だったわけで、当時の先端事情が物語の背景にあります。

小説の中で、野々宮さんがリボンを買いに、交差点を渡って、向こう側の日本小間物屋に行っていることがポイントです。明治終わり頃まで日本には国産リボンはありませんでした。リボンは西洋からの輸入品で、殖産興業の観点から高率な関税がかけられ、簡単に手に入る品物ではなかったのです。 

ところが、ようやく国産リボンの生産が始まったのが、ちょうど『三四郎』の時代でした。ですから、野々宮さんは西洋小間物屋ではなく、日本小間物屋でリボンが買えたわけです。国産リボンが出始めて間もない時代であったので、トレンディーでない普通の読者向けには「蝉(せみ)の羽根のような」という説明も必要だったと思われます。

写真のアンティークは『三四郎』と同じ時代に作られておりますことから、当時の普通の日本人が見たとしたら、まだまだ馴染みのうすいリボンだったと考えられるのです。 

 

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