ロンドンから北に20マイルほど行くと、サンドリッジとウィザンプステッドという村があり、その二つの村の中ほどにノーマンズランド コモンと呼ばれるフィールドが広がっています。 周りにはパブ Wicked Lady以外には目立った建物はなくて、木々と野原が遠く地平線まで続いているようなところです。 


【ノーマンズランド コモンの風景】

夜になったら真っ暗でちょっと怖いでしょう、その昔には盗賊が出て駅馬車が狙われたそうで、おそらくこの風景は何百年も変わっていないのだろうと思います。

 

【この記事は人気記事ランキングにランクインしました!】

 

【 Wicked Lady はノーマンズランド コモンにある一軒パブです】

Wicked Ladyとは直訳すると「邪悪な淑女」となりますが、この地方で語り継がれている美人女盗賊のことで、本名はキャサリン・フェラーという貴族の娘でした。

 

この地方では17世紀の半ばに、駅馬車が襲われたり、警官が撃たれたり、家に火が放たれたり、あるいは家畜が殺されるといった事件が相次いで、人々を恐怖に陥れました。 それが貴族の娘の仕業であったことに驚きがありました。 そしてキャサリン・フェラーが亡くなってからも、今度はWicked Ladyの亡霊が出たという噂が何百年も絶えることなく今日まで続いているのです。 写真のような名前の一軒パブがあるのも、この地域に伝わる言い伝えが背景にあるのです。
 

【マスクに黒いマント、そして拳銃を手にしたWicked Lady、以前のパブサインはこんなでした】


それでは、何ゆえにキャサリン・フェラーは女盗賊になったのでしょうか。
『Ghosts of Hertfordshire (ハートフォードシャーの幽霊)』(Betty Puttick著)という本を主に参考にして、地元の伝承を調べてみましょう。
キャサリンは裕福な貴族の娘として生まれましたが、彼女がまだ幼い時に父を亡くし、それから数ヶ月してフェラー家当主であった祖父までが、小さなキャサリンとその母親を残して亡くなってしまう不運に見舞われます。

 

【そして現在のパブ Wicked Lady の看板】

フェラー家にはあちこちに相当な財産があり、当時の法によって、まだたったの六歳であったキャサリンが相続人となったのは1640年のことでした。 しかし当時のイギリスは清教徒革命が目前に迫っており、国王派と議会派が互いに反目しあい、国王派の貴族たちは戦争に備えて資金集めに血眼になっていたのです。 フェラー家の財産も世間の関心となり、キャサリンと母親が、遺された財産で静かに暮らしていける状況ではとてもなかったのです。 キャサリンの母親はすぐに国王派のサイモン・フランショー卿と再婚することとなりました。 ところが、新しい生活もつかの間、フランショー卿はクロムウェル率いる議会派軍に敗れて、妻子を残して逃げてしまいました。

それから五、六年の間、キャサリンと母は身寄りを頼って暮らしておりました。 ところがキャサリンが12歳になり、当時の法で結婚できる年齢になると、フランショー卿は財産目当てで、自分の甥とキャサリンを結婚させたのです。 これでフェラー家の相続人であったキャサリンが財産の大部分を失う条件が整いました。 結婚といっても実際にはフランショーは地元のアイルランドに居座ったままでしたし、キャサリンを呼び寄せることもありませんでした。 それでいてキャサリンの財産はお金に変えられ、戦もあって浪費されてしまったのです。

 

さらに数年のうちに母や身寄りも亡くなってしまい、フランショー家からも見捨てられたキャサリンは失意のうちに、生まれ育ったお屋敷に一人で戻ってきます。 このマナーハウスはキャサリンの手元に残った唯一のもので、ノーマンズランドから少し離れたマーキエイトという場所にありました。

【広大な敷地のなかに建つマーキエイトのお屋敷】

その頃からこの地方で女のHighwayman(追剥)が出るという噂が立ち始めました。 当時は貴族階級の子弟が刺激を求めて一時的にハイウェーマンになるということもあったようで、キャサリンが追剥や山賊行為を始めたきっかけは、遊び感覚で刺激を求めた為だとも言われています。 あるいはそれまでのキャサリンの境遇を鑑みて、世間に対する復讐だったという人もいます。 さらには、キャサリンの恋人にラルフ・チャプリンというハイウェーマンがいて、その人の影響を強く受けたとも伝えられています。

三つの説はそれぞれ少しずつ当てはまるのでしょうが、三つめの説はかなり真相に近いかも知れません。 ノーマンズランド近郊で起こる追剥行為も初めのうちは、銃で武装したハイウェーマンが駅馬車を停めて、乗客から金品を奪いながらも、人を殺めることはありませんでした。 ところがあるとき、ラルフ・チャプリンは捕らえられて処刑されてしまう不運に見舞われます。 それを境にして自暴自棄になったキャサリンの違法行為はエスカレートし、強盗殺人そして放火と、世間を震撼させる凶悪化が進んでいったと伝えられているのです。

当時のノーマンズランドは、ロンドンから北の主要都市であるバーミンガムへ向かう幹線道路の通過点にあたっておりました。 イギリスの二大都市を結ぶ幹線であったことから、しばしば金銀財宝を積んだ駅馬車も行き交っていたのです。 ノーマンズランド辺りでは襲撃される恐れがあるという懸念から、駅馬車業者も特に警戒して武装するようになっていきます。

ある晩、ハイウェーマンに襲撃された駅馬車が、勇敢にも銃で応戦して賊に対して発砲を加えたという出来事がありました。 翌朝になってマスクに黒マントの装束で、さらには拳銃まで持ったキャサリン・フェラーがお屋敷まであと少しの所で、愛馬とともに銃弾を受けて息絶えているのが見つかりました。 キャサリンはこのとき二十代半ばでありました。 そして、さては貴族の娘が噂のハイウェーマンであったかと、世間は大騒ぎになったのです。

【キャサリン・フェラーの名前が残るノーマンズランドの道標】

キャサリン・フェラーが亡くなってから、彼女の幽霊を見たという話は、不思議なことに何百年も経った今に至ってもずっと続いています。 百五十年ほど前にマーキエイトのお屋敷が火災で焼けた時、消火にあたっていた人たちの間で、Wicked Ladyが火事場を眺めていたという噂が立ちました。 ヴィクトリア時代の後半には、マーキエイト屋敷にWicked Ladyの幽霊がしばしば出ると噂されていました。 

そして現代になっても、例えば1969年に地元の新聞に掲載されたマーキエイト村への旅行者の目撃談は次のようなものです。 
『It was a clear moonlight night when I saw the ghost clearly. She was about half a mile away. I noticed the clothes she was wearing and saw her disappear into a ditch at the side of the road. When I reached the place where the figure had been, there was no trace. I was told later by a man in Markyate that the ghost of Wicked Lady walked regularly, and that was what I had seen.』

『私がこの目でしっかりその幽霊を見たのは、ある月明りの晩でした。 その女は半マイルほど向こうにいました。 私はその女の服装に気がつきました、すると女は道の脇の溝にすっと消えてしまったのです。 人影が立っていた場所に行ってみましたが、何の跡形もありませんでした。 後からマーキエイト村の人から聞いた話では、Wicked Ladyの幽霊が村を徘徊しているとのこと、私が見たのはそれだったのです。』

Wicked Ladyが最期を遂げてから、数奇な運命をたどった貴族の娘のダブルライフへの想像は人々の興味を駆り立てました。 ある者は彼女が奪った財宝はどこかに隠してあると言いました。 彼女の名前は「FERRERS LANE」としてノーマンズランドに残っていますし、一軒パブ「The Wicked Lady」としても地元に根付いています。 そして次のようなライムも地元では語り継がれています。

『Near the Cell there ia a well,
Near the well there is a tree.
And 'neath the tree the treasure be.』

『隠れ家の近くに井戸がある、
井戸のそばには木が立っている、
そしてその木の下に財宝が埋まっている。』
 

 

 

店主おすすめ 英国 アンティーク 情報 一覧

新着 英国 アンティーク 品物 一覧

英吉利物屋 Twitter  英国 アンティークの気付き、お届けしてます。

インスタグラム: いぎりすもんや 3000名のフォロワー様 いつも👍! ありがとうございます。