物品の販売における売上高の認識(原則説明) 」にて、原則IFRSにおける物品販売の収益認識タイミングは、所有権の移転時であることはお話しました。


原則通りIFRSを解釈すれば、出荷基準を採用することは難しく、着荷基準もしくは先方検収基準へ売上計上時期を変更を余儀なくされそうです。



私見ですが、出荷基準採用の可否に関しては、然るべき時期に一度会計監査人に確認する価値は十分あると思います。


IFRSは原則主義なので、企業が自社にとって開示情報として最も正しいと判断した会計処理を採用すればいいのです。従って、本当に企業にとって出荷基準が妥当言える十分な理由付けがあれば、必ずしもその採用を完全に排除するわけではないとも解釈できるのです。



では、仮に出荷基準を継続適用したいと考えた場合、どのような形で抗弁すべきでしょうか?大別して以下の2つの要素に係る論理的な証明が必要と考えます。


(1)会計不正につながらないことの証明(内部統制)

(2)出荷基準の採用が開示上妥当であることの証明


以下、補足します。



(1)そもそもIFRSの精神としてなぜ出荷基準を嫌うかと言えば、押し込み販売等の売上の過大計上を防止したいからに他なりません。従って、そういった経理操作を防止する仕組みが自社にあるか、すなわち自社の内部統制が有効に機能しているとの心証を監査法人に与えている状態であることが必須です。


(2)日本においては、多くの企業において実務上出荷基準を採用してきましたが、それにはそれなりの理由があるわけです。従って、この理由をきちんと説明したうえで、それが適正であるとの心証を与えられれば、出荷基準採用の可能性もゼロではないと考えます。一例として、以下のような説明が考えられます。


<説明例>

①出荷基準を適用している製商品は大量生産品であり、得意先では数量確認のみをしており、返品はほとんど発生しない。

  ↓

②出荷後、短期間(数日以内)に高い確率で引き渡し、検収がなされている。

  ↓

③出荷基準を変更すると、膨大な作業とコストが発生する

  ↓

上記①、②、③より、収益認識基準を変更するほどの重要性はないと判断している



どうですか?それらしい理由づけにはなっていますよね?尤も、上記(1)(2)で出荷基準の正当性の全てを証明できるわけではありません。


というのも、一般的に物品販売に係る売上計上基準には出荷基準と着荷(検収)基準がありますが、どちらの売上計上基準が保守的かといいますと「収益は控え目に費用は多めに計上」という考え方からいうと後者の方がより遅く売上が計上されるので、より保守的な会計処理と言えるからです。概念フレームワーク「財務諸表の質的特性」における信頼性の中に「慎重性」の記載があります。これは紛れもなく保守主義の原則を指していますので、これを抗弁として出されると難しい状況になります。


このように業務負荷とIFRSの規定のバランスで言えば、最終的には「みなし着荷日に基づく着荷日基準」辺りに落ち着きそうな気がしています。監査法人も監査リスクを負いたくないですからね。

尤も、欧州の開示例を見ますと、IFRS適用後であっても物品販売に出荷基準を採用している企業もあることだけはお伝えしておきます。



ここで私が記載したことは、IFRS適用後においても出荷基準を採用することができるということを何ら保証するものではありません。しかし会計監査人との交渉で少しでも業務負荷・コスト軽減をできる可能性があるのであれば、やってみてはいかがでしょうか?というご提案です。



トモ