がん患者さんでは、1割以上の方がうつ状態にあるという報告があります。
(Oncol Lett 2015;9(4):1509-14)
癌に対するうつの影響
肺癌患者さんでは、うつが有ると、
神経細胞の成長に関与する脳由来神経栄養因子の血中濃度が低下していました。
(Oncotarget 2016;7(52):85975-86)
うつは、癌患者さんのストレスに対抗するホルモン産生を障害し、
免疫力を減少させ、炎症関連サイトカイン産生を増加し、
癌の予後を悪化させる場合があります。
(J BUON 2014;19(1):5-14、J Am Soc Psychosom Dent Med 1977;24(4):106-10)
炎症関連サイトカインにつきましては、前回のブログがご参考になります。
前回のブログでご紹介させていただきましたように、
炎症関連サイトカインを減少させることより、うつが改善する可能性があります。
逆に、うつの治療により、炎症関連サイトカインが減少する可能性がある、
という相互関係は、興味深いです。
うつは、肺癌に対する抗がん剤の治療効果を減少させる場合や、
抗がん剤に対する患者さんの抵抗性を減少させる場合があります。
(J Cancer 2015;6(11):1121-9、Oncotarget 2016;7(52):85975-86)
中等度以上のうつは、乳癌患者さんの生活の質(QOL)や
生存期間に影響を与えるという報告があります。
(Anticancer Res 2017;37(5):2641-7)
うつは、癌の予後を悪化させるという報告があります。
(J Palliat Med 2012;15(1):99-105)
肺癌患者さんでは、うつが無い場合に比較して、
うつが有ると、生存期間中央値が約半分になる場合があります。
(Ann Surg Oncol 2013;20(6):1941-8))
癌に対するうつの治療効果
うつの治療による、癌に対する改善効果の科学的根拠は、
現時点ではまだ不十分であるという報告もあります。
(Cancer Treat Rev 2017;56:16-27)
一方で、うつの治療が、
癌の治療効果や予後に影響を与えるという下記等の報告があります。
うつの早期発見により、癌の予後が改善する可能性が示唆されています。
(MMW Fortschr Med 2015;157 Spec No 2:10)
乳癌、悪性リンパ腫、悪性黒色腫(ほくろの細胞由来の癌)において、
うつに対する精神心理療法により、
患者さんの健康維持のための行動や医療サービスの利用が増え、
ホルモン環境や免疫反応の改善などにより、
予後が改善されたという報告があります。
(Br J Psychiatry Suppl 1996;(30):109-16)
精神心理療法につきましては、
2017年5月19日・20日のブログがご参考になります。
がん患者さんにおかれましても、うつの場合には、
うつ自体の改善や、癌の予後やQOLの改善のために、
早い段階でうつ病の専門医による治療や、
医療体制がそろっている施設であれば、
癌専門の看護師や精神心理療法士も含んだ統合的なケアを
受けられることが推奨されます。
(Lancet Oncol 2014;15(10):1168-76)