うつ病の発症には、
ノルアドレナリンやセロトニンなどの脳内の神経伝達物質の減少が関与している
と考えられていて、薬物治療では主にその増加作用のある薬剤が使用されています。
うつには、それ以外に、
インターフェロンなどのサイトカインが関与している場合があります。
サイトカインとは、
リンパ球などの免疫細胞、繊維芽細胞、血管内皮細胞などの細胞が産生し、
様々な細胞間の情報伝達を行う可溶性タンパク質から成る物質です。
ウィルス感染症のさいに、体内ではウィルスに対抗するために、
免疫細胞からインターフェロンが産生されます。
インターフェロンには、
抗ウィルス作用や、癌免疫反応の増強作用などがあります。
天然型または人工的に合成されたインターフェロン製剤は、
B型・C型肝炎ウィルスによる慢性肝炎の治療のほか、
悪性黒色腫(ほくろの細胞由来の癌)、腎癌、一部の脳腫瘍、
一部の白血病や多発性骨髄腫の治療に使用されています。
興味深い点は、このインターフェロンの副作用として、
うつが生じる場合があるということです。
風邪などのウィルス感染症に罹患した際に、
インターフェロンが産生されることにより、うつになる結果、
身体活動が制限されて体の安静が維持されると考えれば、合理的にできています。
もともとうつ気質のある患者さんが、インターフェロン治療を受ける場合には、
副作用によるうつに対する注意が特に必要になります。
一方で、癌患者さんがうつになった場合、
体内のインターフェロン濃度が上昇していれば、
癌細胞やウィルスを攻撃するために、
免疫細胞が活性化している可能性があるかもしれません。
その他に、がん患者さんのうつには、
炎症反応に関与するサイトカインである
TNF(腫瘍壊死因子)-α、IL(インターロイキン)-1、IL-6などが
関与しているという報告があります。
(Biol Res Nurs 2015;17(3):237-47、J Affect Disord 2013;148(1):57-65、
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 2005;29(2):201-17、
Eur Psychiatry 2008;23(6):421-9)
うつ病に罹患したがん患者さんでは、
血液中の炎症関連のサイトカインの濃度が高いという報告があります。
(Li M et al, Psychooncology 2016 Nov 15 冊子の編集中)
がん患者さんでのうつと炎症反応の程度は相関するという報告もあります。
(Am J Hosp Palliat Care 2016;33(10):942-47、
J Affect Disord 2012;143(1-3):39-46、
Brain Behav Immun 2013;30 Suppl:S58-67)
癌治療により、癌が縮小すれば、体内の炎症反応が軽減して、
炎症関連のサイトカインの血中濃度が下がることによっても、
うつが改善する可能性があるかもしれません。
実際に、関節リウマチの治療薬として使用されていますTNF-α阻害薬が、
うつの改善に有用な可能性があることを示唆する報告もあります。
(Rheumatol Int 2012;32(2):323-30、J Psychiatr Res 2013;47(5):611-6)