怒りの感情を抑え、感情を抑圧することが、
癌の発症や進展に関与している可能性を示唆する下記等の報告があります。
怒りやすい性格は、
心臓血管系疾患など多くの疾患の死亡率を増加させる傾向にあります。
逆に、怒りにくい性格は、
乳癌などの癌の死亡率を増加させるという報告があります。
(Int J Psychosom 1994;41(1-4):34-40、
Acta Neurol (Napoli) 1991;13(4):315-27)
転移性乳癌患者さんの研究では、
予想される生存期間よりも1年以上短期間の生存者では、
ポジティブな感情を伴った敵意を示すことが低い傾向にありました。
それに比較して、予想される生存期間よりも1年以上長期間の生存者では、
強い不安、疎外感、うつ、罪悪感などの、
不快な感情を表現することが多かったです。
さらに、乳癌の長期生存者では短期生存者に比較して、
病気に対する適応が悪く、
精神心理療法を行う治療者に対する態度も悪かったという報告があります。
(JAMA 1979;242(14):1504-8)
2017年5月10日と次回のブログでもご紹介させていただきますが
不安やうつなどの感情は癌に対しても良くないという報告がありますので、
短期生存者と長期生存者の精神心理状態は、一見、逆のようにも想像できます。
しかし、この報告でのポイントは、自身の感情を吐き出せる患者さんの方が、
感情を押し殺す患者さんよりも、癌の予後を良くする、ということのようです。
短期生存者では、感情表現を抑制して良い患者さんを演じること自体が
ストレスになった可能性が考えられます。
一方で、短期生存者では長期生存者に比較して、
癌の進行や転移、合併症等による体調不良が強いか、
治療による有害事象が強い、などのために、
感情表現まで抑制されてしまった可能性もあるかもしれません。
肺癌の確定診断のために行われた胸部生検で、肺癌が発見されなかったヒトでは、
自主性、感情を吐き出すこと、必要な物を求めること、家族の支援、
人生のストレスが無いことが、健康促進に関与していました。
胸部生検で肺癌と診断された患者さんでは、
診断から最初の3か月間は、
もっぱら癌による身体的な状態が精神心理的な要素に影響を与え、
診断から2年後は、癌の組織型と進行度が心身の健康状態に影響を与えました。
(Psychother Psychosom Med Psychol 1990;40(2):70-5)
精神心理状態が癌の予後に関与する可能性とともに、
癌による身体的な状態が精神心理状態に影響を与える可能性を、
常に両面で考える必要があるでしょう。
心身の状態が良くない状況では難しいことと思われますが、
過剰でも過少でもない適度に、ご自身の気持ちを正直に伝え、
感情に基づいた正直な行動をとる作業は、癌対策としても有用かもしれません。
ヒトと接したくない時には、
ペットや、傾聴用に訓練された犬の助けを借りることも一つの方法でしょう。
周囲のヒトには言えないようなご自身の感情を思いっきりぶっつけられ、
まずは、それを理解・共感してくれ、
その後で適切な言葉をかけ、癒し作用のある動作をとり、
さらによりよい反応ができるように
自ら学習してゆくような人工知能を組み込んだ、
ベイマップのような支援ロボットの開発を期待したいものです。