sWitch ◇20 | 有限実践組-skipbeat-

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 こちらはだぼはぜ様 とのコラボ連載、のち一葉のみで連載作です。

 

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■ sWitch ◇20 ■

 

 

 

 

「 キョーコ、その節は大変お世話になりました 」

 

「 こちらこそ、サラ。DWLでは楽しい時間をありがとうございました 」

 

 

 目的通りにまんまと紛れ込むことに成功したサラは、自分に向けてペコリと頭を下げたキョーコを見て、うふふ・・と笑いを漏らした。

 いただきます、と唱えて数分のち、サラが運んできたホットスナックが見事に壊滅。その様を眺めていた蓮が脳内で相変わらずだな、とごちた心の声が聞こえたかのように、キョーコが口を開いた。

 

 

「 サラ、相変わらずゴージャスな食べっぷりね 」

 

「 ・・・そうかしら。うん、でもそうかも。実を言うとここの所ぜんぜん食べられていなかったんだけど 」

 

「 そうなの? 」

 

「 そう、ちょっと事情があってね。でもいま(二人を見つけることが出来て)急にお腹がすいちゃった。あ、私もう少し持ってくるわ。気にせず食べてて 」

 

 

 その食べっぷりにあっけにとられていた社は、軽快な足取りで席を立ったサラに視線を投げ、その後姿を追いかけながら感嘆の声を上げた。

 

 

「 気にせずって、むしろ気になっちゃうんだけど俺。すごいな。なぁ、蓮。体格的にはお前の方が大きいんだから、お前も負けずにこのぐらい食べたほうがいいんじゃないか? 」

 

「 冗談はよしてくださいよ 」

 

「 いや、半分以上本気なんだけど。それにしても、大食いの人を直に見たのって初めてだけど、本当にこんなに食べちゃうんだな 」

 

「 あれ?社さんってそうでしたっけ。ちなみに私はサラが二人目ですよ。一人目って実は先生なんですけど 」

 

「 ああ、クー・ヒズリ。クーが大食漢だってことは噂では知っていたけど、あいにく俺はその現場を目撃する機会には恵まれなかったんだよ 」

 

「 そっか、そうだったんですね。先生ってば本当に凄かったんですよ。出した料理が見る見る無くなっていっちゃって、本当に作り甲斐がありました 」

 

「 それって、以前キョーコちゃんがクーの世話係をしていた時の話だよね? 」

 

「 はい!一番びっくりしたのは50人前のお鍋をペロリと完食されたあと、残ったダシまでおじやにしてお鍋をカラにされたことです。その他にも50人前の辛口きんぴらや、手作りのチョコアイスケーキを召し上がってくださったこともあるんですよ。どれもいい思い出です 」

 

 

 ふと、あの時の光景が脳内の出リフレインしてキョーコの目に涙が滲んだ。

 あんなにたくさん食べていたのに、いま何も口にせずに何日も寝込んだままなのが信じられない。

 

 

「 ・・キョーコ、どうしたの?もしかしたら泣いているの? 」

 

「 あ、サラ。ううん、なんでもないの 」

 

「 何でもないわけがないでしょう、こんなに目が潤んでいるのに。もしかしたら、そっちの彼が何か言ったとか? 」

 

「 やだ、違う!敦賀さんは関係ないわ 」

 

「 え?この人、キョーコと関係ない人なの?じゃあこっちの人がキョーコの知り合い? 」

 

「 そうじゃなくて 」

 

「 ん?どういうこと? 」

 

「 敦賀さんは・・・・。その前に、サラって映画を見たりする?実は敦賀さんは日本で俳優をしていて、社さんはマネージャーさんなの。私たちがいまアメリカにいるのは敦賀さんの仕事の関係で・・・ 」

 

「 あら、観るわよ、もちろん。日本映画と言えば、このまえ観たトラジックマーカーはかなり迫力があって面白かったわ。もう両手じゃ足りないぐらい観に行ったもの 」

 

「 え、本当に? 」

 

 

 キョーコが意外そうに目を大きく見開くと、サラは朗らかに笑った。

 

 

「 嘘を言ってどうするのよ(笑) 」

 

「 それはありがとうございます、マネージャーとしてお礼を言います。その、B・Jを演じたのが敦賀蓮、つまりこいつです 」

 

「 えぇぇぇ?!それ、本当?!ま、まぁ、まぁそうなの?すごいわ!そんなすごい人がいま私の目の前に?!信じられない、嘘みたい。そうだわ!あなたの偉業を称えてこのピザをあなたに捧げるわ 」

 

「 ・・いえ、結構 」

 

「 あら、どうして?これ、いま買ってきたばかりだから温かいし美味しいわよ? 」

 

「 それは、知ってます。俺もさっきそれを食べたばかりなので。お気持ちは嬉しいんですけど、残念なことにもう胃袋に隙間が少しもないんですよ 」

 

「 あら、これ一枚で?そう、それは残念ね。美味しいのに・・・・・。それで?キョーコ 」

 

「 え? 」

 

「 キョーコがいまアメリカにいるのは、こちらの敦賀さんの仕事の関係で、なんでしょ。ってことは、彼氏の仕事に便乗してついてきちゃった、とかなのかしら? 」

 

 

 蓮に提供しようとしたピザを頬張り笑顔を浮かべたサラの言葉に、ぎょっとしてしまったキョーコは自分の目の前で自身の右手を扇のように仰いだ。

 

 

「 ちっ、違うから!敦賀さんとはまだお付き合いしていないから! 」

 

「 あら?あら♡、あら♡、あら♡、まだ、なのね? 」

 

「 っっっ!!! 」

 

「 どうしたの、キョーコ。かわいいお顔が真っ赤っかよ。そっか、そうだったのねー♡ってことは、もしかしたら以前DWLで撮った画像を送った相手っていうのは・・・ 」

 

「 ・・・////っっっ!! 」

 

「 ふふふ、はい、わかりました。もう、わかりやすいんだからー♡ そうすると、まだ、ってことは、じゃあスタートはこれからってことよね。それは楽しみねー!具体的にはいつからなのか聞いてもいいかしら? 」

 

「 いつから・・・って 」

 

 

 本人的には決してからかっているつもりなどないのだろうが、少なくとも楽しそうに笑顔を浮かべているところを見るとサラはだいぶ機嫌が良いらしかった。

 

 それもそのはずだ。何しろ夫からその話を聞いたときから、ジュリエナはいつか二人がそうなってくれたら、とずっと思っていたのだから。

 

 

 息子クオンと寸分違わずシンクロしていたというキョーコ。

 その彼女が息子と結ばれてくれたら、きっと素晴らしい二人になるに違いない、という確信のもとで。

 

 

「 いつから、とかじゃなくて。・・・っていうか、ああもう、なんで私ってば余計なことを・・・。違うの、そうじゃない。私と敦賀さんは全く別の用事でアメリカに来たのよ。ただ、確かに敦賀さんに便乗して私もLAに来たことに違いはないんだけど・・ 」

 

「 キョーコちゃん。別にそれは言わなくてもいいんじゃない? 」

 

「 別の用事?だからそれっていうのが彼の活躍を見守る彼女としての務めってやつでしょ? 」

 

「 だから、そうじゃないのよ、サラ 」

 

「 あら、じゃあどうなのよ、キョーコ 」

 

 

 はしゃぐサラを目前に、蓮の気持ちは塞いでいた。

 そもそも、母がなぜここまでするのかが解らなかった。

 

 

 たしかに、父の事故の件は青天の霹靂だっただろう。

 

 

 社長から話を聞いたときは自分だって己の耳を疑ったし、肝が冷えていくような感覚すら覚えた。

 母もそれと同じか、もしくはそれ以上の衝撃を受けたに違いない。

 

 事故の知らせを聞いて気が動転して

 父の容体を知って焦燥感を覚え

 日々父の傍らで、力弱く横たわったままの夫の姿を見ていくうちに、どうしようもない心理状態に陥って、やがて限界に達したところで一人息子を呼び戻したくなったのかもしれないけれども。

 

 

 たとえ最初はそうだったとしても

 少なくとも、俺の母はそんな線の細い人ではなかったはずなのに。

 

 

 少なくとも、自分が記憶している母の性格は・・・・。

 

 

 

「 ええっ?!明日から3日間、キョーコは一人になっちゃうの?それでせっかくLAに来たのにホテルで過ごすって、そんなの勿体ないわ!あ、じゃあ、こういうのはどうかしら。明日から3日間、私と一緒に過ごすっていうのは。それで私と一緒にDWLに行きましょう♪ 」

 

「 えっ?! 」

 

「 ほら。以前約束したじゃない。二人でキラキラのドレスを着て仮面舞踏会に行きましょうって 」

 

「 あ、うん。でも、私いまそんな気分じゃ・・・ 」

 

 

 けどもしかしたら、母は変わってしまったのかもしれない。

 そういうこともあるだろうと思った。

 

 

 時の移ろいとともに街の景色が変わりゆくように

 5年という歳月が人を変えることは十二分にあり得ることだから。

 

 

 たとえば今、闇を乗り越え、前だけを見ている自分がここにいるように。

 5年という年月の流れは人を変えるに十分事足りる長さだから。

 

 

 

「 キョーコちゃん。行ってきなよ? 」

 

「 でも社さん 」

 

「 俺は悪くないと思うよ。一人でホテルに閉じこもっているよりずっといいと思う。なにより、せっかくアメリカに来たんだから少しは楽しまないと、ね? 」

 

「 でも、社さん、本当に私、いまは・・・ 」

 

「 なぁ、蓮はどう思う? 」

 

 

 話を振られて、蓮は深いため息を吐いた。

 

 この話の流れでは、さすがにダメと口には出せない。

 なにより反対する理由が思いつかなかった。

 

 

「 そうですね。俺としては最上さんにその気がないのなら無理に行く必要はないと思いますけど 」

 

「 ということは、キョーコの気持ち次第ってことよ!ねぇ、キョーコ、行きましょうよ!! 」

 

「 うん、でも私・・・ 」

 

「 行きましょうよ!行けばきっと元気になれるわ!! 」

 

 

 強引すぎる調子でキョーコを誘うサラを見つめて、蓮はひとまず静観してみようか、と思った。

 

 

 どちらにせよ明日から3日間はキョーコを一人にしなければならないのだ。

 その間、母がどんな勝手を振舞ってくるのだろう、と気を揉むぐらいなら、いっそこの展開の方がずっとましだと思えた。

 

 何より、これで判ることがあるかもしれないとも思った。

 たとえば母が、こんな手を使ってまで自分たちに接触してきた理由などが。

 

 

 蓮の中に生まれたこの小さな妥協が、やがて大きく流れを変えることになる。

 

 

 

 

 

 ⇒sWitch◇21


ただいま自転車操業中。ラストまで構成する関係で、次話お届けまでしばし間が開くことになります。


⇒sWitch◇20・拍手

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