sWitch ◇18 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 暑さにやられたのかPCが突然クラッシュしちゃって、予定通りに執筆できませんでした。お待たせしてごめんなさいです。 


 前話⇒【1234567891011121314151617


■ sWitch ◇18 ■





 優しい囁きに揺らされて、キョーコが目を覚ましたのはそれから5時間後のことだった。



「 ・・・・・・さん。最上さん 」



 呼ばれていたことにようやく気付き、おっとりと瞼を持ち上げたキョーコの目にぼんやりと映ったのは蓮の顔。



 あれ?敦賀さんだ


 さっき電話で話したばかりなのに

 まるでタイムスリップしたみたい



 呆けた思考で蓮を見つめながら、キョーコはそんなことを考えた。




「 最上さん、平気?もしかしたら具合が悪い?頭が痛いとか、眩暈がするとか、熱っぽいとか、倦怠感があるとか・・・えっと、あと何だ?何がある 」



 どうやら蓮との電話を切ったあと、キョーコは夢すら見ずにぐっすり過ぎるぐらい寝てしまっていたらしい。


 ふと蓮の肩越しに、蓮と一緒に自分を見つめている見慣れない女性の存在に気付いてキョーコはパッと目を見開いた。



「 Shall we have you medeicine. Or something to drink? 」


「 いえ、そんな 」


「 最上さん? 」


「 大丈夫です。ただ寝ちゃっていただけなので・・・ 」



 制服姿なところを見ると、その女性はホテルの従業員なのだろう。

 おそらく蓮がフロントに頼んでこの部屋のカギを彼女に開けてもらったに違いない。


 キョーコが断りを入れるより先に、蓮が薬も飲み物も不要だと伝えると、その女性は御用の際は何なりとお申し付けくださいねと笑顔を浮かべてから上品な足取りで部屋から出て行った。



「 お、お疲れ様でした、敦賀さん。寝ちゃっていてすみませんでした 」



 ベッドに腰かけたままぺこりとしたキョーコの隣に腰を下ろした蓮は、キョーコの頬と額に手を添えた。



「 最上さん、本当に寝ていただけ?頭が痛いとか眩暈がするとか熱っぽいとか倦怠感があるとかじゃないんだね? 」


「 ・・・くす。それ、さっきも聞きました。大丈夫です。本当に寝ちゃっていただけなので 」


「 本当だね?それならいいんだけど。でも、絶対に無理も無茶もしないように 」


「 はい、しません 」


「 それで、もう動けそうかな?それとももう少し後にしようか? 」


「 いえ、すぐに動けます!! 」



 きっぱりと宣言をしたキョーコはその言葉通り、あっという間に身支度を整えた。






「 え?敦賀さんが運転手なんですか? 」


「 だから俺が運転席に座っているんだけど? 」



 昨夜と同じように移動手段はタクシーだろうとキョーコは予想していたのだが、社とともに正面玄関に降り立ち、ほどなく自分たちの目の前で停車した車に乗るよう社から指示を受けて素直に後部座席に乗り込んだキョーコは、運転席に座っていたのが蓮だったことに気付いて驚いた。


 正直、おかしいと思ったのだ。

 なぜならタクシーにあるはずの行灯が見当たらない車だったから。


 もっとも、タクシー表示はハイヤーには付いていない物だから、ハイヤーなのだろうと納得してからキョーコは乗り込んでいたのだが。



 ところが車はレンタカーで、どうやら社が手配したらしかった。




「 観光地が散らばっているロサンゼルスの場合、一週間100ドル程度でレンタルできる車の方がタクシーより安く済むんだよ 」



 社はそうキョーコに説明したが、実はレンタカー利用にしたのは決して支出を減らすためではなかった。


 もともと、蓮の仕事に関する移動手段はすべてMr.Dが手配してくれていた。

 しかも彼は急に事情が変わったこちらの状況すら理解してくれていて、運転手も車も好きに使ってくれていい、とまで言って用意してくれていた。


 しかしそれを社は丁重に断った。



 理由はいくつかあるが、そもそもタクシーよりレンタカーの方が断然時間の融通が利くということ。

 またクーの秘密保持の件に関して、極力人を介すべきではないという判断に至った、ということの他に、蓮の仕事とプライベートの行動をはっきりと切り離すことで、少しでもキョーコの精神的負担を減らせるのでは、と考えた末でのことだった。



「 それで、キョーコちゃん、申し訳ないんだけどコンビニより先に病院に行っても平気かな?実はジュリエナさんから電話が入ってね。折り入って話があるから来られるなら早めに来て欲しい、って言われてしまったんだ 」


「 え、はい、それは大丈夫です、けど、話・・・って、それは私に、ってことでしょうか? 」



 途端にキョーコは不安になった。

 もし、もう来ないで欲しい・・・という話だったらどうしようと思った。


 実際、自分がクーを見舞ったところで出来ることなど一つもないというのに、自分が足を運ぶことでクーの事故の件が周囲に漏れる可能性は高まってしまうのだ。


 そのメリットとデメリットの差は歴然で、もう来ないで欲しいと言われても何ら不思議ではなかった。



 そんなキョーコの考えを、社は完全に見透かしていた。



「 いや、そういう感じではなかったよ、キョーコちゃん。どっちかっていうと俺たちに話がある、っていう感じだった 」


「 でもそれって、もう来させないでくれとかそういう・・・ 」


「 違うと思う。だいたい、仮にもう来ないで欲しいと言ってくるとしたらそのタイミングは少なくとも今じゃないと思うから 」


「 ・・・それって、今じゃないならいつだと社さんは思うんですか 」


「 4日後、かな。もしそういう話だったら、の話だけどね。次にキョーコちゃんが病院に行ける日、と言い換えてもいい 」


「 それはどうして 」


「 だって、その方が妥当でしょ。居る日と居ない日と両方あった方が納得しやすくなるし 」




 確かにその通りかもしれなかった。

 居ても居なくても同じならリスクが少ない方がいいに決まっているし、実際にそういう日があった方が説得力も増すだろう。



 だとするなら、現時点でしたい話というのはなんだろう。


 キョーコは後部座席で口を閉ざした。





 病院に到着すると、3人は関係者以外立ち入り禁止と書かれた札が立った廊下から特別棟に向かった。もちろん通行許可証は持っている。


 クーの病室に着くとすでにジュリエナは待機していたらしく、彼女はたくさんの機械につながったままの夫の寝顔をクーの傍らで見つめていた。

 クーの頬にはまだ血色もなく、唇すら寒々としている。




 微動だにしない夫を見つめるジュリエナの佇まいはとてつもなく神聖な雰囲気で、それはまるで全ての他者を拒絶しているかのようだった。



 挨拶をしようとしたが、とても割って入れるような雰囲気ではなく、キョーコが病室に入れずにいると、彼女のそれを察した蓮が何の気負いも見せずに半開きの扉をノックした。



「 失礼します 」


「 え?あ、ごめんなさい、いらしていたのね。気づかなくてごめんなさい、どうぞ?キョーコ、レン、ユキヒト 」


「 いえ、俺たちは結構です。行っておいで最上さん 」


「 って、えええっ、えっと、すみません・・・っっ 」



 っっっっていうか、信じられない、敦賀さん!

 私がこれだけ躊躇したっていうのに、まさか敦賀さんの方が迷いもなくノックをするなんて・・・。



 このときキョーコは正直、本気で戸惑っていた。

 普段からの蓮の言動を知っていればこそ、まさか蓮がそんな無遠慮な真似をするとは思ってもいなかった。



 だというのに・・・・・。



 それは、とても不思議な感覚だった。



 確かにその言動は敦賀蓮らしからぬものだったはずなのに

 なぜかそれが妙に自然だった気がした。



 ジュリエナ自身も特に何かを思った風でもなく、その場の雰囲気に変化もない。



 おそらく、自分が同じことをしたら間違いなくいたたまれない空気感が生まれただろうに、そうならなかったのは、それをしたのが敦賀蓮だったからだろうか?それとも・・・。




 キョーコが感じたその違和を、社もまた同じように味わっていた。



 夫婦水入らずの空気感、とでも言えばいいだろうか。

 眠りについたままの夫と、夫の目覚めを待つ妻がいる二人きりの病室は、容易に他人が相居ることを許さない雰囲気を醸していた。


 だというのに

 その閉ざされた空間を、こうも容易く蓮が開いてみせるとは。



 しかもこんなに自然に。

 不自然なほど自然に。



 理由など、わかるはずもなかった。


 ただ社にはたった一つだけ分かることもあった。



 たぶんこの出来事を誰かに話したところで、キョーコ以外の誰からも共感を得られることはないだろう、ということだけは。




 この場で二人が感じた違和は

 それぐらい些細で微細で繊細なものだった。






 ⇒sWitch◇19 へ続く


ここまで、と決めていた内容まで入れるとあり得ない長さになってしまうので切りよくさせていただきました。やばい。ちょっと焦・・・。

いや、いつものことか。


ちなみに、アメリカと日本は運転免許の共用が出来ないそうで、アメリカで運転するにはアメリカの免許を取得する必要があるらしいのですが、そもそも運転免許に関しては原作での設定があやふやなので、まいっか、と自分に都合よくスルーいたしました。

どうぞ寛大なご理解を。



⇒sWitch◇18・拍手

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