恋をするなら ◇13 | 有限実践組-skipbeat-

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 遠藤様からの弊宅訪問キリ番34000リクエストの続きをお届けです。


 前話はこちら⇒【101112



■ 恋をするなら ◇13 ■





 このあとどうなったかというと、事態はたちまち収束を迎えた。

 その経緯を簡潔に説明するとこうである。


 玄関を飛び出していったキョーコは、けれど追いかけて来た蓮にすぐさま掴まって、しかし状況が気になるというのは蓮も同じだったため、出来る限り近くに行ってみようと二人は再びバイクに乗り込んだ。


 銃声は変わらず響いていた。しかしその頻度は先ほどよりだいぶマシになっていた。

 ほどなく組が所有するビルが見える所でバイクを降車した二人は、正面入り口ではなくビルの裏手を目指して徒歩で現場に近づいた。


 通り一つを隔てた場所までたどり着いた所で辺りを見回す。すると車や電柱、果ては近所の塀の陰に隠れて10数名の見慣れない男たちが御園井組ビルを睨みながら未だに発砲している所だった。御園井組からも然り。



 あいつらが不破組か、と蓮が考え、キョーコが現状認識した次の瞬間、急にパトカーのサイレンがけたたましく叫び始め、それを合図にまるで蜘蛛の子を散らしたように不破組は退散していった。



 彼らが居なくなったことでキョーコと蓮は一目散にビルに駆け出し中に入った。撃ち合い直後というタイミングだったこともあって組員たちはすぐキョーコに気付き、慌てて二人を受け入れてくれたのだ。


 このあとの彼らの会話はこうだった。当然と言えば当然だろうが、やはり多少の混乱がなくもない状態だった。



「 早く中に入って、キョーコちゃん!! 」


「 ありがとう!みんな・・・社さん、無事なのっ?! 」


「 お嬢さん、どうしてここに・・・って、誰? 」



 キョーコからの問いかけで1階と2階に分かれていた組員たちがキョーコの周りに集結する。

 2階にいたのだろう松島が、階段を駆け下りながらキョーコに向かって話しかけるもすぐに疑問符を浮かべた。


 それには応じずキョーコがせわしなく社の姿を探していると、メイクが施されているキョーコの顔が初見だった御園井組の組員たちは、順番に釘付けになりながら唖然とした様子で目を見開いていった。



「 え? 」


「 誰? 」


「 あれ?一瞬キョーコちゃんだと思って招き入れちゃったけど、君、誰? 」


「 むかっ、私は最上キョーコです!たかがメイクしたぐらいで失礼よ、光さん! 」


「 ふえぇぇぇっ?キョーコちゃんんん??うっそぉぉぉ?! 」


「 嘘じゃありません 」


「 本当に本人ですよ 」


「 ってか、お前ら何やってる!警察が到着する前に銃を戻せ!でないと違う意味でぶち込まれるぞ 」


「 あっ、そうでした 」


「 やばい、やばい 」


「 あぁぁ、いたぁ!!社さん、無事? 」


「 当然だろ・・・・・・っていうか、何でキョーコちゃんがここにいるんだ。・・・の前に、なにその顔。えらく可愛くなっちゃって 」


「 どき♡ え、可愛い?えへ。実は今朝、京都観光で着物を着たとき、プロがメイクを施してくれてねっ・・・ 」


「 へぇ、そう。ちゃんと京都観光していたんだ。それで?・・・・・・どういう経緯でこの子をここにわざわざ連れて来たんだ、蓮!!言ったはずだぞ、俺は。俺が良しと言うまで戻って来るなと!! 」


「 もちろんそのつもりでしたよ。あなたが意味深な着信さえ残さなければね 」


「 何だよ、意味深な着信って 」


「 いまから3時間近く前、俺の携帯にあなたから着信が入りました。覚えていないとは言わせませんよ、これが証拠です 」


「 ・・・・確かに、そのようだな 」


「 契約時間外の着信だったこともあってもし万が一のことがあっても困ると思い、彼女をここまで連れてきました 」


「 万が一のこととは? 」


「 あ、分かった!つまり金だろ。若頭がどうにかなっちゃって、成功報酬5千万が受け取れなくなったら大損だもんな。ということはお前が敦賀蓮か 」


「 そうですけど 」


「 え、5千万ってなに?それ何の話?雄生さん 」


「 え?えっと・・・ 」


「 言っときますけど残念ながら理由はそれだけではありません。社さんの身に何かあったとき、最後のお別れが出来なかったら最上さんがまた泣いて暮らすことになると思ったからです。それだけは絶対避けたいと思ったからこその到着です 」


「 俺に何かあったら・・・って、余計な世話だ!ぴんぴんしてるわ 」


「 ええ、そのようで安心しました。こうなるとむしろ3時間近くも撃ち合いしていたという事実の方に驚きが隠せません。それにしても、銃って意外と当たらないものなんですね。ビルについた銃痕は仕方ないとしても、御園井組組員にも、そして不破組組員にも何の被害もなかったように見受けられますから 」


「 まぁ、向こうは腕前の問題だろうが、こっちはそういう風にしたからな 」


「 社さん、それどういうこと?だって松島さんがいるのに 」


「 違う。いるからこそ、だよ 」



 御園井組で刃物や銃火器を管理している松島の射撃の腕前は相当だった。そもそも学生時代には間違いなくオリンピック選手になれるだろう、と言われていたほどだったのだ。


 とはいえ、それは松島だけに言えることで、基本的に銃は人がすぐ使えるような代物では決してなく、武器として役立てるにはそれなりの射撃訓練をする必要があった。


 しかしそのために組員たちを、韓国やグアムにある実弾仕様の射撃場に行かせて練習させるのは費用と時間がかかり過ぎる。



 だから御園井組は山を所有していたのだ。


 組が所有している山は、登山をするような山とは違って木々ばかりが生い茂った山林のようなものである。当然資産としての価値は薄く、しかしもちろん私有地なので他人が勝手に入ってくるようなこともない。

 従って、たとえ銃声がしたとしても猟師が撃ったと言えばいくらでも誤魔化すことが可能だった。



 その山をも管理しているのも松島である。

 そして組員たちは全員、その山で松島の指導のもと、みっちりと射撃訓練を受けていた。松島曰く、全員そこそこの腕前になったらしい。



 その松島がいたのに意図的に不破組に被害を与えなかったとはどういうことなのか。


 もちろん、日本では銃を所持しているだけで違法だから、それで誰かを殺めるなど以ての外。その点に関しては良かったと本気でキョーコは思っていたけど。


 でも松島がいるからこそ、と答えた社の言葉の意図については、キョーコにはさっぱり理解出来なかった。




 徐々に大きくなっていったパトカーのサイレンがやがてすぐそこまで近づいて、ついにはビルの目前で停車した。

 警察車両から次々と降車した警察官が、いの一番に御園井組に足を向ける。


 社はキョーコと蓮に別室へ行くよう指示を出した。

 つつましく呼び出しベルを鳴らした警察の応対をしたのは3人の若い衆。つまり、石橋ぃズたちである。



 ピンポーン。


「 へーい、お疲れさんです。どうかしたんですか? 」


「 実はこの辺りで銃を撃っている人がいる、という通報が入りましてね。それで聞き込みを開始したところなんですが・・・。こちらにお心当たりのある方はいらっしゃいますか? 」


「 えぇぇ、危ないな、銃?そんなの違法やないですか。そんなの知らんですわ、さっぱり分からんですわ。なー、お前らはどう? 」


「 いやいや、それどころじゃないから!俺は祭りの準備で忙しくててんてこまいなんや、ホンマ 」


「 右に同じくデス 」


「 ・・・・・そうですか。では何かお気づきのことがありましたらご一報ください 」


「「「 御意~ 」」」



 芝居がかった態度の石橋ぃズたちを見て、そう簡単に首を縦に振るはずもないか、と警察はあっさり引き下がった。


 恐らくこんな所で問答をするより周辺住民から聞き込みをした方が早い、と考えたのかもしれない。



 壁一枚を隔てた隣の部屋で聞き耳を立てていたキョーコは大きな不安に襲われた。


 周辺住民の誰かが、もし今回の事を証言してしまったらどうしよう。そうなったら間違いなく、組員たちは逮捕されることになるだろう、と思った。




 しかし、この事の顛末を先に言ってしまうと、御園井組にお咎めは一切なかった。



 もちろん、警察は周辺住民への聞き込み調査を入念に行った。繰り返し、繰り返し、何度もしつこく。

 だがその都度近所の人たちは重ねてこう証言し続けた。



「 銃撃戦だぞ、銃撃戦!撃っていたのは不破組の奴らだ、間違いない!けど、撃たれていたのが誰なのかは分からなかったな 」


「 銃を撃ったのは不破組よ。間違いなくヤクザ同士の争いだったと思うわ。・・・え?相手がどこの組だったか?さぁ、それは良く分からなかったわ。知らん組の連中よ 」




 のちにこの話を聞いた社は

『 人をどれだけ懐柔できるかがヤクザの腕の見せ所なんだ 』

 と、静かに微笑んだという。




 警察が誰に聞いても、何度確認しても、銃撃戦をしていたのは不破組と知らん組。そういう証言しか出てこなかったことや、オリンピック級の狙撃手がいたのに不破組に直接的な被害が無かったこと、また周囲に防犯カメラなどもなく、御園井組関与の証拠をつかむことが出来なかったことから、御園井組の検挙を警察は断念。


 その件に関する警察の調書には



 不破組と知らん組の銃撃戦



 と、記されたとか、されなかったとか。



 結果、不破組は知らん組との連中と撃ち合いをしたことから、銃刀法違反で十数名が逮捕されるに至った。とはいえ、逮捕されたのは組長の倅を含む逮捕要員たちである。


 逮捕要員とは、組長や幹部に代わって警察に逮捕される役目を持った、主に未成年者のことを言う。


 ヤクザをしていると社会不在はつきもので、逮捕・拘留されることは良くある。場合によっては長い懲役になることも。


 その際、組長や幹部クラスが抜けてしまうとそれが大きなダメージとなって、シノギに支障が出るなど組織の統制が取れなくなるだけでなく、組長や幹部の不在を狙って対立組織が攻め込んで来る可能性なども跳ね上がる。


 それを避けるために用意されているのが逮捕要員というやつである。



 今回、不破組の一人息子ショータローが逮捕要員となったのは、未成年者だからに違いない。


 未成年者の逮捕要員というのは組にとって強力な存在なのである。なにより少年法で守られているため、仮にお務めをすることになっても刑は非常に軽く、刑期も短いため戦列復帰もバカ早い。加えて刑務所での服役経験は彼らにとっても勲章になるため、ある意味win-winだと言えた。



 実は最近になってまた不破組が御園井組にちょっかいを出し始めたのも、6年前の抗争で逮捕されていた組員たちが戻って来たことが要因だと思われた。

 頭数が揃うと抗争が再発するのはヤクザの世界ではごく普通にあることなのだ。



 恐らく不破組にとって、今回の件はどちらに転んでも損は無し、だったのだろう。



 御園井組組長の一人娘キョーコとの婚約が成立しても

 不破組組長の一人息子ショータローが逮捕されるに至っても。



 御園井組にとっては迷惑千万でしかなかったが。





 後日。



「 これでやっとしばらく落ち着いた日々が過ごせそうだな 」



 お気に入りのペレ・フラウに腰を下ろした社が、優雅にコーヒーを口に含みながら安堵のため息を吐き出した。



「 でも社さん。それって6年後にはまた大変なことになるかも・・・ってことじゃないの? 」


「 そうかもな。ま、その時はその時だ 」


「 そうそう、その時また頑張ればいいんです。そんなことより、警察がさっさと不破組を取っ捕まえてくれたおかげで心置きなく祭りの準備が出来て有難いっす 」


「 確かに、サクサク進んで助かるよな 」


「 そんなのんきなことを言って!今からだってもし誰かが御園井組のことを警察に話して、この中の誰かが逮捕されちゃったらどうするつもり?! 」


「 そうなったらそうなったでちゃんと服役しますよ。結果的に若頭さえ残ってくれたらそれで俺たちは良いワケですから 」


「 そうそう。社さえ残っていれば大丈夫なんですよ、お嬢さん 」


「 社さんさえ?どうしてですか、松島さん 」


「 どうしてって、社は御園井組の若頭だから 」


「 若頭だから?どうして若頭だといいの?むしろ幹部の松島さんとか椹さんが残るべきじゃないんですか?だって、例えば光さんとか雄生さんとか慎一さんとかが逮捕されちゃったら、若い衆をまとめる必要なんて無いんだし。もちろん私は、社さんが居なくなるのは嫌だけど 」


「「「「 ・・・・・・ 」」」」


「 もしかして、若頭って若い衆をまとめる人って意味だと思ってます?お嬢さん 」


「 思ってますよ、光さん。だってそう辞書にあったもの。若頭とは、若い衆の筆頭となる者のことだって 」


「 ちょっと待っ、なんで辞書? 」


「 なんでって、社さんがそう教えてくれたから。俺に聞くんじゃなくて、判らない言葉があったらまず辞書を引きなさいって。そうすれば大体の意味が分かるからって 」



 健気に社の言葉を遂行していることを褒めて欲しかったのか、光に向かって笑顔たっぷりに胸を張ったキョーコを見て、社は明るい笑い声をあげた。




「 あはははは、そういえばそう言ったことがあったなー 」


「 え?なに、何か違うの? 」


「 いや、安心したわ、俺。キョーコちゃんの俺たちに対する理解力がその程度で 」


「 え?社さん、それってどういうこと?つまり辞書のそれは間違ってるってことよね?じゃあどういう意味?若頭って、本当はどういうこと?! 」


「 さー、なんだろうねー 」


「 もったいぶらないで教えてよ! 」


「 そんな大事なことはー・・・・・教えてあげないよ、ジャン♪ 」


「 もう、ふざけてないで教えてよぉ! 」






 ⇒14 へ続く


後半、蓮くんの出番がなかった・・・。

ちなみに若頭って、私もずっとそう思っていました。違うって知っていました?



⇒恋をするなら◇13・拍手

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