恋をするなら ◇12 | 有限実践組-skipbeat-

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 遠藤様からの弊宅訪問キリ番34000リクエストの続きをお届けです。


 前話はこちら⇒【1011



■ 恋をするなら ◇12 ■





 もうすぐ組が所有するビルが見えてくるはず。

 その距離まで近づいたところで蓮は違和感を覚えてバイクを急停止させた。



「 え?やだ、どうして止まるんですか、敦賀さん!!事務所はもうちょっと先なのに 」


 タンデム乗車のキョーコが蓮の背後でそう訴えて来たがそれには反応せず、辺りを見回した蓮は違和の正体に気付いて眉をしかめた。



 どういうことだ?人っ子一人いないじゃないか。



 真っ昼間だというのに歩道にも車道にも人影が一つも見当たらない。さながらそこは街並みをリアルに再現した映画のセットのようだった。


 訝しみながら蓮がバイクのエンジンを切るとさらに辺りが静かになった。そんな中。

 耳を澄ますと、小さなものが激しく何かに体当たりしているかの様な、そんな音が間髪入れず続けざまに鼓膜に届いた。



 それは聞きなれない音だった。

 敢えてそれを表現するなら、まさしく乾いた音、という感じ。


 具体的な例を挙げるなら、例えば大きな体育館で、保護マットを引かずに誰かが誰かを背中から落としたような。

 例えば分厚い木製ドアを、誰かが拳で思い切りよく叩いているかのような。


 そんな乾いた音だった。



「 ・・・と、あんたたち!ちょっとあんたたちっ、そんなところにいつまでも居たら危ないよ。今すぐUターンするか、こっちにおいで! 」


「「 え 」」



 見ると通り沿いの一軒の家から、玄関扉を細く開けた中年の女性が低い姿勢を保ちながら二人に声を掛けていた。

 その女性の顔にキョーコは見覚えがあった。一瞬、誰だったっけと考え、すぐにそれを思い出した。



 そうだ、おかみさんだ!



 このまえ社が連れて行ってくれた小料理屋のおかみさんに違いない。

 よくよく見てみれば通りの向こうに店の看板がある事に気付ける。


 なるほど、だるまやは店舗と自宅がひと続きの建物なのだなとキョーコは思った。



「 危ないから、こっちにおいで 」



 慌てた様子の手招きに、蓮とキョーコは顔を見合わせ、目で意思疎通を図ってから揃って一歩を踏み出した。腰をかがめて歩きなさいと、青ざめた表情を浮かべていたおかみさんが激しいジェスチャーで訴える。



 その理由はすぐに分かった。玄関にお邪魔してすぐ、おかみさんが教えてくれたのだ。

 今なお響いている乾いた音は、銃声であるということを。

 それを聞いて蓮も、もちろんキョーコも驚いた。



「 銃声?この音、銃声なんですか? 」


「 そうだよ、だからね、いま通りの向こうに近づくのは危険なんだ。可能なら迂回して目的地を目指すか、あるいは日を改めるかした方が良いよ 」


「 銃声?そんなまさか、どうして・・・ 」



 キョーコは信じられなかった。


 銃と聞いてある思い出がキョーコの脳裏に甦る。



 あれは社と暮らし始めてどのぐらいたった頃だろう。

 少なくとも、母親恋しさに夜、枕を涙で濡らさなくなった頃だったように思う。


 その頃、キョーコは毎夜の如く社と任侠映画を鑑賞していた。



 理由は、ヤクザとは何たるか、を知るためだった。




 亡くなってしまった母の代わりに、今度は父が面倒を見てくれることになった。

 けれどその事実は口外してはならないと約束させられた。

 理由など判るはずもなかった。


 しかもその時はまだ抗争の火種がくすぶっていて、キョーコの身の安全を守るために彼女が自由意志で外に出ることは固く禁じられていた。



 お葬式に参列することも、お墓参りもダメだという。



 最後だというのに母にお別れを言えなかったキョーコは毎日泣いて暮らした。


 それまでキョーコはヤクザという言葉自体は聞いたことがあっても、具体的にヤクザがどういう存在かに関してはほぼ無知な状態だった。


 だから自分の父親が御園井一志という名で

 職業はヤクザだと教えられても

 それをどう受け止めたらいいのか全く判断出来なかった。



 それを察したのだろう

 キョーコの気持ちが落ち着いた頃、社が任侠映画を観ようと言い出した。



「 にんきょう? 」


「 これは辞書にもよるけど、任侠とは、弱いものを助け、強いものをくじき、義の為には命を惜しまない気風だとある。つまり俺や組長・・・キョーコちゃんのお父さんのことを指す。それがヤクザってやつだ。けど、最初に言っておく。一応こういう映画は参考にしかならないことを肝に銘じること。なぜなら任侠映画は過剰に描かれたヤクザ像だから 」



 そう前置きした社は、それから色んな任侠映画を見せてくれた。

 中でも彼のお気に入りは「仁義なき戦い」だったと記憶している。


 様々な物語をさんざん二人で見たけれど、映画の中のヤクザはみな拳銃を携え、何かというとガンガン撃ち合う。それが妙にカッコよく思えて、ある日キョーコは本物の銃が見てみたいと社にねだった。

 ・・・が、当然ながら社の答えはノーだった。



「 最初に言っただろ、キョーコちゃん。任侠映画に登場するヤクザは過剰に描かれたものだって。そもそも拳銃は所持しているだけで何年も刑務所に入ることになる重大な禁制品。そんなものを俺が持っているわけがない 」


「 ・・・本当に? 」


「 当然だろ 」



 そう言って社は頑なにキョーコの願いを退けた。

 結局、社から銃を見せてもらったことは一度もない。


 でも本当はたった一度だけ、キョーコは本物の銃を手にしたことがあった。



 あれは夏の事だったと記憶している。

 思うように外出できないキョーコを可哀想だと思ったのか、その年の夏にキョーコは社と、組長の代理のつもりだったのか幹部の松島と三人で、組が所有している山へキャンプに出掛けたことがあった。


 当然私有地のため一般人が入って来ることはなくて、だから久しぶりにキョーコはのびのびと体を動かしていた。


 松島は、御園井組で刃物や銃火器などを管理している幹部だ。

 それがどういう流れでそういう話になったのかはもう記憶が定かではないのだが、少なくともキョーコから見せて欲しいとお願いした事だけは間違いなかった。


 あの日、あのとき。

 松島がどういう思惑でキョーコの願いをかなえてくれたのかは分かりようもない。が、ともかくその日、松島はキョーコの目の前に銃を一丁出してくれた。



「 ・・・持ってもいい? 」


「 持つだけならね。ただし、この事は誰にも内緒に。もちろん社にも。なぜなら銃は許可なく所持するだけで犯罪。撃てばさらに重い刑罰が加わるものだから 」


「 ん、わかった 」



 拳銃は思ったよりも小さく、想像よりずっと軽かった。

 たぶん、一キログラムも無かったのではないだろうか。


 弾は入っていないということだったけれど、その割には表現しにくい重量をキョーコは感じていた。



 もしかしたら、それが人を殺めることが出来る道具だということを、映画を通して知っていたからかもしれない。


 以後、キョーコが社に銃を見せてとおねだりする事は一度もなかった。

 それは、実際に銃を手にした事でやっと理解できたからかもしれない。


 それを所持するだけで罪になるという重さを。



 分別が付く年齢になった今、キョーコはこう考える。

 そんな武器をたとえ持っていたとして、一体それを日本のどこで使うのか、と。



 銃を持っている事の意味を、キョーコは見出すことが出来ない。



 だからこそ銃声が響いているという現在の状況がキョーコには信じられない。


 しかし一般人が禁制の銃を持っているはずもなく

 そして自分は御園井組が禁制の銃を所持していたことを知っていた。


 従って間違いなく、いま辺り一帯に響いている銃声は、少なくとも御園井組が関わっているに違いないと思えた。



 キョーコは眉間に皺を寄せた。


 禁忌の品だと知っていて

 所持しているだけで罪に問われると知っていて


 撃てば更に重い刑が科せられると知っているのに、なぜ銃撃戦なんて・・・・・。




「 どうして?社さん・・・・・ 」


「 社さん?おや、若いお嬢さんに見えるのにひょっとしたらあんたは社さんと知り合いなのかい? 」


「 え?えっと、あれ?・・ああ、そっか。メイクを落とさないで来ちゃったから? 」


「 うん? 」


「 おかみさん、私です。数日前に社さんと個室にお邪魔させていただいたとき、私は高校の制服を着ていました 」


「 え?・・・っっ・・・えええっっ?!嘘だろ、あのときの子なのかい?びっくり、驚いたね。全然気づかなかったよ。へぇ、なんだ、こんなキレイな子だったのかい。なるほどねぇ、だとしたら不破組の倅がすり寄って来たって話は本当だってことなんだ 」 ←聞き方によっては失礼


「 へ? 」


「 いやね、こうなるかもってことは御園井組の組員さんたちが事前に教えてくれていたんだよ。それで、その話を御園井組は断るから、もしかしたら抗争待ったなしどころか、一気に抗争に入るかもってね 」


「 え・・ 」


「 それを聞いて頭が痛くなったよ。楽しみにしている祭りの前だっていうのに。これでもし誰かに何かがあったらと想像したらね、それだけで心配でたまらないよ」



 そう言って肩を落としたおかみさんを見てキョーコは唇を結んで意を決した。するとそれまで黙っていた蓮が口を開いた。



「 おかみさん。大丈夫、私が止めてきます! 」


「 え? 」


「 そもそも私のせいなんですよね、話を聞くと。だったら私が行かないと! 」


「 最上さん、ダメだ!!そんな危ないこと、ダメに決まっているだろう!絶対にだめ 」


「 大丈夫。敦賀さんに迷惑はかけません。歩いて行きますから 」


「 そういう問題じゃない!銃撃戦に一般人が飛び込むなんて無茶を通り越し過ぎている! 」


「 平気ですよ。だって一般人を狙うのはヤクザのご法度ですから 」


「 バカ言うな!その君と婚約したいって言って来ている以上、君はもう一般人とはちょっと違う立場なんだよ 」


「 あ、そうですよね。私もそう思います。だとしたら余計に見て見ぬふりなんて出来ませんよね 」


「 ・・・っ・・・ああ言えばこう言う。どっちにしても許可できない 」


「 敦賀さんから許可をいただかなくても別にいいです。だってこれは私の問題ですから 」


「 違う。俺の問題だよ!せっかく社さんがどうにかしてくれようとしているのに、メイクをしている君の顔を見て相手が本気になっちゃったらどうしてくれるんだ。それこそ話がこじれてややこしい事態になるかもだろ! 」


「 ・・・は? 」


「 って、なに言ってるんだ、俺は。いやいや、そうじゃなくて、取り敢えず・・・ 」


「 あのさ、二人の話の腰を折って申し訳ないけど、その敦賀さんって人の言う通りだと私も思うよ、キョーコちゃん。一般人はヤクザのご法度。その通りなんだろうね。でも、不破組はそうじゃないからダメなんだって、社さんが言っていたんだよ。だからもし銃撃戦が始まったら家から出ないようにして欲しいって。御園井組の皆さんはそれを一軒一軒、この辺りの家全部に頭を下げてお願いに回ったんだ。だから、誰もいなかっただろう?道路には人っ子一人 」


「 ・・・っっ・・・ 」



 そういうやり方は、礼儀を通す社らしいやり方だと思った。

 そんな話を聞いたらますますじっとしていられなくなってしまった。


 組員全員で、なんて。


 しかも今は組員だけじゃなく周囲の住民にまで迷惑が掛かってしまっている。

 組長の娘である自分のせいで。

 そんな現状を知ってしまったら・・・・



「 余計に引っ込んでなんて居られないわ!! 」


「 最上さん!! 」



 制止しようとした蓮の腕をすり抜け、キョーコが外に飛び出した。


 あっという間の出来事におかみさんは飛び上がるほどびっくりして、蓮がキョーコの後を追いかけ出て行ってすぐ、おかみさんは玄関先に置いてあった電話の受話器を持ち上げた。






 ⇒13 へ続く


日本にいると銃声なんて聞く機会はありませんけど、いまはYouTubeでそれが聞けるからすごいですよねw



⇒恋をするなら◇12・拍手

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