2020年6月10日:パート3

 22時30分。四万温泉の旅館の部屋。少し前に大浴場から戻って来た。施設内の新型コロナ感染防止対策は、徹底している。浴場に履いていったスリッパまで消毒する念の入れようだ。

 平日にもかかわらず、駐車場には、群馬ナンバーの車がズラリと並んでいた。「愛郷ぐんまプロジェクト〜泊まって応援キャンペーン」は、ここでも威力を発揮しているようだ。旅館の玄関口で、旧知の社長と女将に再会。先代の父の時代からお世話になっているその社長が、開口一番、こう言った。

 「知事、今回のキャンペーンには、本当に感謝しています。これが無かったら、大変でした。うちでも感染防止対策を徹底していますが、今後は新しい生活様式を踏まえた新たなビジネスモデルが必要だと痛感しているんです。私たちも、色々、知恵を絞っていこうと話し合っています。」

 旅館に到着したのは18時近く。部屋に入る前に、しばらくレトロ感の漂う温泉街を散策した。四万温泉の魅力は、「美人の湯」と呼ばれる柔らかい泉質と四季折々の美しい景色。窓を開けて清流の音を聞いているだけで、心が癒される感じがする。

 四万温泉の名所と言えば、県の重要文化財にも指定されている旅館「積善館」(せきぜんかん)だ。日本最古の木造湯宿建築で、本館は宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」の舞台のモデルになったとも言われている。

 その積善館に向かう途中で、4人の子供を連れた30代くらいのご夫婦と遭遇。会釈を交わした。男性のほうが、「お疲れ様です。視察か何かですか?」と声をかけてくれた。

 「実は、先週の金曜日から、県独自の観光振興キャンペーンを打ち出しているものですから、その制度をPRするために、県内の温泉を回っているんです」と答えた。すると、こんな言葉が返って来た。

 「いや、私もその制度を使って来ました。(宿泊費の補助は)子供にも適用されるんですよね。普段、家族6人で旅行する機会は、なかなかありません。だから、今回の県の事業は、とても有り難いです。先着30万人だと聞いて、早くしないと終わってしまうと心配になりました。急いで宿を予約したんですよ。」

 子供たちの嬉しそうな表情を見て、「このキャンペーンを断行して良かった」と思った。喜んでいる人もいれば、批判的な見方をする人もいるだろう。大事なのは、こうやって直接、県民の声を拾うことなのだ。

追伸:国会議員時代、四万温泉には何度も足を運んだ。後援会の挨拶回りで立ち寄ったり、県政報告会をやったりした。選挙中には、遊説カーの横で街頭演説も炸裂させた。が、考えてみると、四万温泉に泊まるのは、20数年ぶりかもしれない。

 今回の県内観光支援キャンペーンは、知事である自分にとっても、生まれ育った群馬県の魅力を再発見する絶好の機会だ。

         <夜のライトアップに映える積善館>

 

     <四万川の強い水で数万年かけて作られた四万の甌穴>