2013年12月22日

 夜11時。 自宅の居間でパソコンを起動させた。 現時点で、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)をめぐる総合科学技術会議事務局と医療・健康戦略室の事務レベルの調整はついていない。 

 この連休明けに、菅官房長官と直接会って協議することになった。 菅長官との関係は大事だ。 どんな結果になるにせよ、きちっと話し合ってスッキリ決着させたい。

 今回のSIPをめぐる議論は、来年1月以降に改めて話し合うImPACTの制度設計にも深い関わりがある。 大袈裟でなく、今後の日本の科学技術イノベーション政策の方向性を決める重要な論点が含まれている。 冷静に、論理的に、正確な議論の内容と経緯をこのブログに残しておきたい。  

 医療分野の研究開発関連予算を一元的に執行する新独立法人、いわゆる日本版NIHを創設する法案が、次期通常国会に提出される。 実際にこの組織がスタートするのは再来年(?)になるだろう。 調整のポイントは、SIPの500億の予算から、これから立ち上がるNIHという組織に「何割の予算を拠出すべきなのか」だ。 医療・健康戦略室は4割を出せと主張している。 対して、こちらは2割が適切だと反論している。

 事実、科学関係予算のうち、いわゆる重点8分野の合計額の中で、ライフサイエンス分野の予算額の割合は、約2割で推移している。 重点8分野とは、「フロンティア」(宇宙、海洋等)、「社会基盤」(防災、交通等)、「ものづくり技術」、「エネルギー」、「ナノテクノロ ジー・材料」、「環境」、「情報通信」、「ライフサイエンス」を指す。

 たとえば、平成24年度(最新)のデータは以下のとおりだ。

(1)フロンティア 1688
(2)社会基盤 2932
(3)ものづくり技術 321
(4)エネルギー 4901
(5)ナノテクノロジー・材料 883
(6)環境 1261
(7)情報通信 1245
(8)ライフサイエンス 3201
(9)システム改革等 3411
(10)基礎研究/人材育成 17083
合計 3兆6926億円

 上記のうち、(9)、(10)は分野が不明なので除外し、(1)~(8)を合計すると、1兆6432億円となる。 すなわち、3201億円(ライフサイエンス)÷1兆6432兆円=19.5%ということになる。 これが最もシンプルで、説得力のある「SIPから日本版NIHへの拠出は2割」という主張の理由だ。

 この事実を健康・医療戦略室に伝えたところ、向こうの事務方から反論のペーパーが送付されて来た。 「SIPから日本版NIHへの4割拠出の根拠」が具体的な数字で示されたのは初めてだ。 改めて読み返しながら、いわゆる「官僚の知恵」に感動した。(笑) 

 ひとことで言うと、SIPが関連する予算の4割以上が医療分野であることを示すために、ある条件下の数字を巧みに組み合わせている。 申し訳ないが、相当、無理があると思う。 後ほど詳しく説明するが、SIPの対象を「アクションプランのうちの科学技術振興費のみに限定する」というのもおかしい。  

 この健康・医療戦略室の反論ペーパーは、科学関係予算のうち、重点8分野の合計額の中でライフサイエンス分野の占める割合が2割であるという事実は認めつつ、「そもそもこの統計の数字を使うことは不適切だ」と指摘している。 その理由はこうだ。  

『この予算額中には、高速増殖炉「もんじゅ」の保守費、海洋調査船の 燃料費、独法の施設の老朽化対策費、人件費等の固定的経費といった「戦略的イ ノベーション創造プログラム(SIP)」の対象たり得ない予算も包含されている。したがって、この予算に占める割合を使用するのは不適切だ』と。

 この一節を読みながら思った。 「優秀な医療・健康戦略室のスタッフだもの。全てを分かった上で言ってるんだろう、な」と。 そんなことを言い始めたら、ライフサイエンス分野(3201億円)にも、農業、食品等のNIHとは無縁の研究費や人件費、施設整備費が含まれているではないか。 科学技術関係予算(8分野)という分母が多目に書かれているというなら、ライスサイエンス予算という分子も多目に計算されているのだ。

 この統計は、全ての分野に対して同じような考え方で集計したもので、ライフサイエンス分野の比率を恣意的に小さく見せようとしたものではない。 長年使われてきた統計だ。

 あ、お湯が沸いた。 この続きは次回のブログで。

追伸:科学技術イノベーションにおける医療分野の重要性は、十分に認識している。 まだ始動していない「日本版NIH」の成功も心から望んでいる。 安倍政権の要であり、個人的にも大好きな菅官房長官の意見も尊重しなければならない。 が、それでも、健康・医療戦略室の事務方が言い続けている「健康長寿分野は全体の4割以上なのだから、SIPの予算の4割を最初から自分たちに回せ」みたいな考え方には、違和感を覚えざる得ない。

 考えて見て欲しい。 科学技術予算には、医療分野の他にも、エネルギー、インフラ、地域資源(農林水産業、ものづくり)等の重要な課題があるのだ。 日本の重要な科学技術予算の約半分が医療分野だと最初から決めつけような思考があるとすれば、直感的にも「バランスを欠いている」と思う。


fs山本一太オリジナル曲「素顔のエンジェル」「マルガリータ」「かいかくの詩」