夕方。田中均外務審議官、藪中アジア・大洋州局長を含む5名の外務省チームが平壌に向かったというニュースが飛び込んできた。政府の「極秘ミッション」をNHKがスクープしたということのようだが、真相は分からない。意図的にリークされた可能性もある。

 

 その後の報道によれば、この交渉は、中国政府の仲介によって実現したらしい。北朝鮮サイドが、6者協議を目前にしたこのタイミングで日本政府との接触を打診してきたというのは、悪くない兆候かもしれない。核廃棄や拉致、ミサイル問題を含む総合的なテーマについて、北朝鮮高官と意見交換をするという。先日、拉致議連のメンバーが北朝鮮側と非公式な接触をした際に持ち出された「日本にいる拉致被害者の家族を平壌空港で帰す(?)」というプランについても、話し合われることは間違いない。

 

 公式であろうが非公式であろうが、誰がどう交渉しようが、また舞台設定がどうであろうが、それは大した問題ではない。要は、拉致問題や核問題の解決に結びつけばいい。もちろん、中途半端な譲歩は禁物だ。特定船舶入港禁止法案の審議は粛々と進める。「対北朝鮮外交カードを考える会」としては、あくまで今国会での成立を目指す。その方針は変わらない。(メンバーは皆、同じ意見だと思う。)

 

 ひとつ気になること。それは、このミッションのメンバーの中に(しばらく潜伏していた?)あの田中均外務審議官が含まれていることだ。田中氏が今回の交渉に同行するということは、「政府の対北朝鮮ルートが相変わらず(田中ルート)しかない」ということを証明しているようなものだ。この訪朝は(もしかすると)田中氏が自らの北朝鮮人脈を後任の藪中氏に譲り渡すというプロセスかもしれない。

 

 断っておくが、田中均審議官には個人的に何の恨みもない。田中氏には田中氏の外交官としての理念や日朝関係正常化にかける思いがあるのかもしれない。が、日本政府が、日本という国の安全保障に重大な影響を及ぼす(日本国民の命にかかわるような)対北朝鮮外交において、1人の外交官の個人的なパイプ(人脈)やその判断に過度に依存することのリスクについては以前から指摘してきた。田中審議官のようなタイプの外交官が(少なくとも表舞台で)北朝鮮との交渉を取り仕切るような構図は、外交戦略という面でも、国益の上でも(いろいろな意味で)間違いなくマイナスだ。これだけはハッキリ言っておきたい。これを契機に、田中流の「官僚の立場を逸脱した、個人のヒロイズムとナルシズムに裏打ちされた言動」が復活しなければいいのだが…。