R5技術士試験解答例Ⅲ-2[水道事業の基盤強化](R6.6.5更新) | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

令和5年度 上下水道部門Ⅲ-2 水道事業の基盤強化

 

【問題】 

日本の水道は、人口減少に伴う給水収益の減少や水道事業者の技術者不足に加え、高度経済成長期において集中的に整備してきた水道施設の老朽化の増大が顕著となっている。また、耐震化の遅れや多数の水道事業者が小規模であり経営奇岩が脆弱である。これらの課題を解決し、将来にわたり、安全な水の安定供給を維持していくためには、水道事業の基盤強化を図ることが急務となっている。

 上記の状況と改正水道法による国の基盤強化の基本的な方針を踏まえ、水道分野の技術者として、以下の問に答えよ。

(1)水道事業の持続性を確保するために、技術者としての立場で多面的な観点から検討するべき課題を3つ抽出し、それぞれの観点を明記した上で、課題の内容を示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題から最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)全問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じるリスクと解決策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

 

 

【解答例】                                                 

1 水道事業の基盤強化に関する課題

(1)人口減少に伴う給水収益減少への対応

人口減少、水需要減少により料金収入が減少している。一方、物価の高騰、高度成長期に建設した水道施設の更新時期到来等により支出が増大している。このため、社会環境の変化に応じた経営戦略の見直しが課題になっている。

(2)水道施設の老朽化への対応

水道施設の老朽化が進んでいる。水道施設の事故、これに起因する断水は、市民生活に甚大な影響を及ぼす。このため、水道施設の適切な維持・修繕と計画的な更新を実施することが課題になっている。

(3)技術者不足への対応

人口減少により技術者が減少し、水道施設の設計・施工・維持管理の実施が困難になっている。このため、必要な人員を確保するとともに、省力化に繋がる取組みを推進することが課題になっている。

2 最重要課題とその解決策

前述の課題のうち、人口減少に伴う給水収益減少への対応は、事業経営上、必要不可欠であることから、これを最重要と位置付けて解決策を示す。

(1)適切な資産管理の推進

水道施設台帳を作成する。具体的には、工事図面、完成図書、資産台帳、維持管理簿等の資料を作成・保管する。その上で、水道施設台帳の電子化を図り、維持管理情報の一元管理と有効利用を促進する。

水道施設の維持・修繕を行う。具体的には、管路、構築物、設備の定期的な点検・調査を実施する。能力低下、機能不全、劣化、漏水の有無等を把握する。機能評価を行い、修繕の必要性、実施時期を判断した上で修繕を行う。耐震性が不明の水道施設は耐震診断を行い、適宜、耐震補強を実施する。

老朽化した水道施設を計画的に更新する。具体的には、水道施設の経過年数、材料材質、設置環境、機能評価の結果等を踏まえて更新の必要性と実施時期を見極める。水道施設の重要性、事故時の影響等を踏まえて更新優先順位を決定する。その上で、水道システムとして機能を維持できるよう、適切な範囲を設定した上で更新を行う。

また、将来に渡って水道施設の健全性を維持できるよう、水道施設の維持・修繕・更新等に必要な費用、料金改定の必要性と実現性を踏まえた料金収入を算定し、アセットマネジメントを実施する。

(2)広域連携の推進

施設の共同化を図る。具体的には、水源、取水場、浄水場、水質試験センター等の共同設置・共同利用を行う。広域連携する地域の水需要予測、水道施設が有すべき供給能力等の検討を行った上で、地域間を結ぶ連絡管等を整備し、施設の統廃合を進める。

管理の一体化を図る。具体的には、水道施設の運転管理、維持管理、水質管理、総務系事務等に係る業務を共同で実施する。浄水場等において遠方監視制御装置や監視カメラの設置・改造を行い、複数の水道施設の運転管理を1か所で集中管理する。水道施設の点検、水質検査、各種システムの開発・運用等の業務委託を共同で実施する。

事業基盤の更なる強化と地域間の料金格差の解消が必要になる場合は、経営統合、事業統合を進める。

(3)官民連携の推進

民間事業者が有する技術と人材を最大限に活用し、執行体制の強化と業務の効率化を図る。具体的には、DBO方式やPFI方式を採用して水道施設の設計、建設から運転管理、維持管理までの一連の業務を民間事業者に発注する。安定的で自由度の高い事業運営を民間事業者に委ねる場合は、ウォーターPPPを実施する。

3 解決策により新たに生じうるリスクとその対策

解決策を実施した後、急激な人口流出等の想定外の事象により、事業運営が困難になる可能性がある。このため、一連の解決策をPDCAサイクルにより継続的に改善し、潜在的なリスクを予見した上で適切な予防策を実施する必要がある。

また、解決策に携わる技術者の不正や法令違反により、公衆の安全や健康が損なわれる可能性がある。このため、倫理研修等を実施し、組織内で技術者倫理を周知徹底する必要がある。

 

【感想】

この問題は、昨年の選択科目Ⅲー1と、同じような内容です。

昨年の問題は、以下のようなものでした。

 

我が国の水道事業においては、人口減少等に伴う水需要の減少や施設の老朽化に伴う更新需要の増大など、経営環境が厳しさを増している。このような中で、将来にわたり安定した事業経営を継続するため、抜本的な改革等の取組を通じ、経営基盤の強化と財政マネジメントの向上を図ることが求められている。

収支を維持することが厳しい事業環境の水道事業体において経営戦略の改定を検討するとともに、持続可能な水道事業の運営を担う技術者として、以下の問いに答えよ。


今年と同じくテーマは、水道事業の基盤強化です。

昨年の問題は、リード文において、①人口減少等に伴う水需要の減少、②施設の老朽化に伴う更新需要の増大、という2つの課題しか明示されていません。このため、残り1つの課題は、給水収益の減少、技術者の不足、経営戦略の改訂等、何を書いても大丈夫な感じです。それから、課題に対する解決策についても、基盤強化と財政マネジメントという言葉あるので、資産管理については言及した方が良さそうですが、それ以外は、何も指定がないので、ある程度、何を書いても良さそうです。逆に、何を書けばいいのか分かりにくい問題でした。

ところが、今年の問題は、リード文に、①人口減少に伴う給水収益の減少、②水道事業者の技術者不足、③高度経済成長期において集中的に整備してきた水道施設の老朽化の増加、という課題が提示されています。これを課題として提示するべきだと一目瞭然です。さらに、水道法改正を踏まえた解答作成を指示されています。このため、広域連携、官民連携、適切な資産管理の推進という3つの取組について述べる必要があります。

 

【出題された背景や狙い・解答に繋がるポイント】

リード文に示されている通り、将来に渡って安全な水道水を安定供給するため、水道事業の基盤強化を図る必要があります。これを具現化するため国が水道法を改正し、①関係者の責務の明確化、②広域連携の推進、③適切な資産管理の推進、④官民連携の推進、⑤指定給水装置工事事業者制度の改善を法制化したものです(表1参照)。このことが当該テーマの出題された背景になっています。

リード文には、①人口減少に伴う給水収益の減少、②水道事業者の技術者不足、③水道施設の老朽化の増大等の課題が提示されています。このため、これらを課題の観点に掲げて解答を作成すれば良いです。その上で、これら課題の解決策として広域連携、官民連携、適切な資産管理等を提示し、それぞれの内容をコンパクトにまとめることが解答を作成する際のポイントになります。

 

【当該テーマについて上記以外で勉強するべき事柄】

水道事業の基盤強化に関する問題は、令和4年度の選択科目Ⅲで出題されており、2年連続で同じテーマが出題されたことになります。こうした本質的なテーマは、来年度以降も選択科目Ⅲだけではなく必須科目でも出題される可能性があります。このため、広域連携、官民連携、適切な資産管理については、今後も引き続き勉強するべきです。

特に官民連携は重要です。令和5年6月、内閣府が「PPP/PFI推進アクションプラン」を策定し、このプランの中でウォーターPPPを推進したからです(図1参照)。ウォーターPPPは、水道・工業用水道・下水道分野において従前から存在するコンセッション方式(公共施設等運営事業)に管理・更新一体マネジメント方式を加えた官民連携方式です。管理・更新一体マネジメント方式は、上下水道施設の維持管理と更新事業を民間に委ねるもので、コンセッション方式の前段階に位置付けられています。こうしたことを踏まえて官民連携の導入検討について内容を整理しておくと良いでしょう。

 

【参考資料】

・改正水道法等の施行について

https://www.mhlw.go.jp/content/000645603.pdf

・PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年度決定版)(令和5年6月2日内閣府)

https://www8.cao.go.jp/pfi/actionplan/pdf/actionplan_r5_2.pdf

・ウォーターPPP導入検討の進め方について(国土交通省)

 https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001619239.pdf

 

 

このため、このブログでご紹介した昨年の解答例(こちら)を、そのまま書いたら合格点をもらえると思います。

 

 

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