アイリスNEOの発売日が近づいてきました
それでは試し読みいってみましょう~
試し読み第1弾は……
『指輪の選んだ婚約者5 蜜月の騎士と不機嫌な公子様』
著:茉雪ゆえ 絵:鳥飼やすゆき★STORY★
無事に結婚式も終わり、指輪で結ばれた近衛騎士・フェリクスとの甘い蜜月を楽しんでいたアウローラ。そんな彼女のもとに、フェリクスの姉であるルナ・マーレに子供が生まれたという嬉しい知らせが! 得意の刺繍をお祝いに携えて駆けつけたアウローラは、癇の強い赤子に大層気に入られ、臨時の乳母をすることになってしまい……!?
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(……なんか、さむい)
時は、黎明。
ひんやりと冷たい空気に沈む、紫色の暗がりの部屋で、アウローラはぼんやりと身震いした。
寝台の上が妙にスカスカして寒く、目が覚めてしまったのだ。
鳥の羽の詰まったデュベはすばらしい贅沢品で、彼女をやわらかく温めていたが、それでも足りない。隣にあるはずのぬくもりを感じようと、アウローラは無意識に、そちらの方へ指を伸ばした。
しかし、指先は冷たい宙を掻く。
(……ない)
白い手がぱたりと、なめらかな肌触りのシーツに落ちた。そこにあるはずの体温はいつからいなくなったのか、シーツにはもはや、なんのぬくもりも残っていない。
(……なんでいないの?)
む、とアウローラが口をへの字にしたその時、パタンと小さく戸が鳴った。
音のした方に向かって、アウローラがこてんと寝返りを打つと、音の主はパタパタと足早に、アウローラへと近寄ってくる。
「……すまない、貴女が起きる前に戻ってくるつもりだったのだが」
ほわりと魔術の明かりが点る。そうして覗き込んできた美貌に、アウローラは息を止めた。
至高の青玉よりもなお麗しい、ふたつの青い双眸。すっと通った鼻筋と、薄く上品な形をした唇。なめらかな額と顎。それらが、神話の時代の美神のように、極めて均整の取れた位置に配置されている。どうやら湯を使ってきたらしく、その面差しを覆う月の光を煮詰めたような銀の髪は、濡れて額と首筋に張り付いていた。
そして何より、その表情がいけない。世間では『冷たい』『無表情』と語られる彼の表情は今、横たわるアウローラに向かって『愛しい』と、視線の力で雄弁に語っていた。
そんな、衝撃的な美貌の持ち主はもちろん、アウローラの麗しの旦那様、フェリクス・イル・レ=クラヴィスその人である。
(ああああああ、至近距離で見るのは、し、心臓に、悪い!!)
滴る色気に当てられて、寝ぼけた意識が一瞬ではっきりする。アウローラは真っ赤になって、ぱくぱくと口を開け閉めした。
「ど、どちらへ……?」
「ひと鍛練して、湯を浴びてきた。……タウンハウスは眠れないか?」
「いいえ、寒くて目が覚めただけです……」
デュベの中でもごもごと答えたアウローラの横に、フェリクスはするりと潜り込む。
鍛練と湯で温められた体は殊の外温かく、その温度は当然のようにアウローラに寄り添って、硬直したままの彼女の体を抱き寄せる。
「まだ日の出前だ」
「え、あの、」
引き寄せる仕草に、夜のような色めいたものを感じとり、体温が跳ね上がる。アウローラはあわあわとして彼を押し返そうと胸を押したが、横になったままでは踏ん張りも利かず、かえって縋りつくような仕草になってしまった。
「……誘っている?」
「ちが、違いますっ! きょ、今日は、ルナ・マーレ様のところにお邪魔する約束ですから! いまはだめ!」
耳元で囁かれ、アウローラは慌てて首を振った。初々しい新妻の必死な姿に、フェリクスは小さく喉を鳴らして笑う。
「……分かっている。もう一眠りしよう」
フェリクスがふわりと笑い、アウローラの額と頬、鼻の頭に口づける。最後にはもちろん、ゆっくりと唇を重ねた。それは優しくやわらかく、けれど長く触れていて、アウローラが息苦しさを感じる頃にようやく、ゆっくりと離れていく。
「では、おやすみ。……ローラ」
「お、おやすみ、なさい……」
アウローラをギュッと抱きしめると力を緩め、フェリクスは瞳を閉じた。
彼の目蓋に影を作る、銀色の睫毛を見つめながら、アウローラはどきんどきんと走る心臓を必死でなだめようとして、上手く行かずに体を丸めた。
(そ、そろそろひと月、経つのに、ぜんっ、ぜん、慣れないぃい……)
はふん、アウローラは熱い吐息を漏らした。
――アウローラがフェリクスに嫁いだのは、冬の終わりと言っても良いほどの、春の初め。野の小さな花がようやくほころび、愛らしく花開き始めた頃だった。
それからもうすぐ、ひと月が経つ。
しかし、アウローラはフェリクスのいる生活に、なかなか慣れることができなかった。
何しろ、夫となったフェリクスは、クリームたっぷりのケーキの上にはちみつを掛けて、さらに砂糖漬けのスミレを飾ったような、凄まじい甘さで新妻に触れるようになったのである。
朝晩どころか、昼であっても、挨拶と同時の口づけはお約束。隣に立てば、当たり前に腰を抱かれる。午後のお茶では彼女を膝に乗せようとし、更には「あーん」とケーキを差し出してくる始末。隙あらば愛を囁こうとし、髪やら頬やら触れたがる。
そしてその情熱は、もちろん夜にも、新妻の上にたっぷりと降り注ぐのだ。
(フェリクス様が素敵すぎて、頭が真っ白になるのよ……!)
隣から聞こえる健やかな寝息を恨めしく思いつつ、アウローラはじたばたと悶えた。
髪を切ったフェリクスが、好みのど真ん中なのもいけない。彼女に触れようとする時の彼の、骨ばった指先の触れ方が、壊れ物に触れるように優しいのも。朝も昼も夜も、愛称を呼ぶ声が、ひどく甘いのも。
アウローラは恨めしげに、隣のフェリクスを見上げ――その穏やかな寝顔に魅入って、慌てて寝返りを打った。
(こ、これ、一生慣れないのでは……?)
――アウローラは少々途方にくれて、天井を睨んだ。
~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~
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