8月4日はアイリスNEOの新刊発売日
今月は人気作の続巻が登場です
早速試し読みをお届けしますよ~
試し読み第1弾は……
★刺繍を愛してやまない若奥様に旦那様から刺繍禁止令が!? 完全書き下ろしの第7巻!!★
『指輪の選んだ婚約者7 騎士の故郷と騒乱の前夜祭』

著:茉雪ゆえ 絵:鳥飼やすゆき
★STORY★
近衛騎士・フェリクスが新設された部隊の隊長に大抜擢!! 賑やかな旅路となった新婚旅行の余韻も残る中、突然告げられた辞令に戸惑いを隠せないアウローラ。その一方で、彼女にも隊員たちの衣装に施す刺繍の依頼が! フェリクスたちのために奮闘するアウローラだけど、無理を重ねたことで、フェリクスから刺繍禁止令を出されてしまって……!? 大人気シリーズ、完全書き下ろしの第7弾!!
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「王立第一騎士団近衛騎士隊……、と、特別小隊、隊長?!」
「ああ」
――時は、夜会の十日ほど前に遡る。
夕餉の後の語らいも入浴も済み、あとは寝るばかりとなった夫婦の寝室で、アウローラは夫に手渡された書面を見つめ、ぶるりと震えていた。
「このシーズン後、から?」
「そうなる。公に発表となるのは、『最後の夜会』の日の日中の式典でだな」
社交のシーズンももうすぐ終わるというこの時期、昼夜の寒暖差は大きくなり、時には暖炉が必要なほどに冷え込むようになってきた。とは言えここは侯爵家のタウンハウス。部屋は適度に温められ、部屋の主たちが寒さに震えることはない。
しかし、アウローラは己の目をこすり、手の中の紙片を睨むともう一度震えた。
そこには何度見ても、このように記載があったのだ。
フェリクス・イル・レ=クラヴィス
聖暦一八七二年の十一の月より
ウェルバム王立第一騎士団近衛騎士隊特別小隊長への異動を命じる
裏返そうが斜めから見ようが上下を回そうが、公式文書用の活字で確かにそう書いてある。
紙面の上には王家と軍の紋章が刻まれ、末尾には王太子と、軍のトップにあたる第一王女の記名もある。紙を明かりにかざせば、軍や政府の正式書面に必ず入っているという偽造防止の魔術紋の透かしもあり、正式な書面であることは疑いようもない。
(この若さで……隊長?)
アウローラはちらり、自分の向かいに腰掛けて寝酒の入った小さなグラスに口をつけている夫を見やった。カーテンの隙間から差し込む月の光に照らされた美貌は、相変わらずの冴えと秀麗さを誇っている。婚姻を経て、今までの怜悧な美しさに落ち着きが加わり、今まで以上に魅力的になったと評判の彼はグラスを傾ける手首の角度さえ端正で、まるで名工の手による彫刻のようだ。
「ローラ?」
ぼんやりと夫に見入ったアウローラを、歩み寄ったフェリクスが覗き込む。紫味を帯びた青玉のような瞳に真正面から見つめられ、アウローラは我に返って誤魔化すように視線を泳がせた。
彼は口の端で小さく笑うと、そっぽを向いたままのアウローラを軽々と持ち上げ、膝に乗せて座り直す。彼女の手から紙面を取り上げると後ろから柔らかく腕を回し、その身体を優しく抱きしめた。
その熱を受け止め、アウローラはいつの間にか無意識に止めていた息を吐き出すと、全身の力を抜いて夫の胸にもたれかかる。薄い寝間着越しの体温が溶け合い、フェリクスもまた息をついた。
「お、おめでとうございます……! 驚きました……!」
「ありがとう」
「……でもその、二十四歳で隊長職に就かれるのは、とても早いですよね?」
その問いかけにフェリクスは大きく頷くと、アウローラの頭頂部にこつんと顎を乗せた。
小隊長と呼ばれる地位は、ウェルバム王国の近衛騎士隊の中ではかなりの上位職だ。何しろ近衛騎士隊は人員が少ないため、隊全体を統括する隊長・副隊長のすぐ下に小隊が所属しているのである。王太子の護衛を務めるセンテンスが第一小隊の副隊長を務めていることは、彼が乳兄弟であるが故の特例で、その他の小隊長や副隊長は皆、ベテランと呼んで差し支えない経験豊かな騎士たちである。最も若い者でも、三十の半ばは越えているのだ。
(その中で『小隊長』、しかも『特別小隊』? これってとんでもなくすごいことなのでは……!)
赤くなったアウローラの頬を、フェリクスの骨ばった手の甲が優しく撫でる。それにはっと我に返って、彼女は夫の膝から下りると寝間着の裾をつまみ、優雅な礼をしてみせた。
「改めて、ご就任おめでとうございます。この年齢での小隊長就任は大変な名誉、なのでしょう? フェル様が優れた騎士でいらっしゃると存じておりますもの。妻として、誇らしく思います」
(……でも待って、もしかして、年配の人には厳しい危険な任務があるってことでもある?)
膝を折って頭を下げながらそんなことに思い至って、アウローラはにわかに顔を曇らせた。
「ローラ」
どんよりした空気に気がついたのか、フェリクスの腕がアウローラを再び持ち上げ、くるりと回す。膝の上で向かい合うように座らされ、アウローラは慌てて笑顔を取り繕った。
しかし、コツンとフェリクスの額が合わせられ、偽りは許さないと言わんばかりの青い瞳が真っ直ぐにアウローラの心を射抜く。
「……そう、心細い顔をしないでくれ」
アウローラは目をそらして夫の肩口にすり寄った。ぐずる子供をなだめるように、フェリクスの唇が額、こめかみ、鼻筋、唇へと次から次へ降ってくる。
「確かに、小隊長となるには私の年齢では少々不足だ。何かあるのではと貴女が不安に思う気持ちも分かる。私も聞いた時は耳を疑った。……だが、残念ながら妥当な人選だと、将軍閣下方に太鼓判を押されてしまったので、仕方なくお受けしたのだ」
「妥当、なのですか?」
アウローラは思わず身を起こした。身を離されたフェリクスはどこか残念そうに、アウローラと視線を合わせる。言葉の代わりに眼差しで続きを促せば、フェリクスは小さく息を吐いた。
「聞けば、貴女も納得するだろう。……殿下方が私をこの地位に据えたのは、近衛に属する魔法騎士の中で、『魔法』に関する事件の経験が最も豊富な者が私だったからだ」
「ま……魔法?」
「詳しいことは夜会の日にでも折を見て、殿下御自らご説明くださるそうだ。――ローラに力を借りたいこともあると仰っていたが……」
「……わ、わたくしに?」
アウローラの耳に、聞き捨てならない言葉が届く。
(わ、わたしの力……って刺繍、よね? と、『塔』に入れ、とか、言わないわよ、ね!?)
一体あの殿下は何を言い出すのだろう。
ひと時前とは全く違う緊張に、アウローラの頬がひくりとひきつった。
*
……そんなわけで。
人事が正式に発表されたこの日、アウローラとフェリクスは夜会に顔を出すなり、あちらこちらから山ほどの挨拶や祝福を受けることとなったのだった。
~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~
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