『翡翠の森の精霊師』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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こんにちは!

いよいよ明日は一迅社文庫アイリス7月刊の発売日です!
ということで、本日も試し読みを実施いたします(≧∇≦)

第2弾は……
『翡翠の森の精霊師 夢見る竜と男装の乙女』

著:瀬川月菜 絵:鈴ノ助

★STORY★
とある事情から男しかなれない精霊師として、翡翠の森で暮らしている男装の少女キーラ。彼女はある日、思ってもみない危機に陥っていた。それは、近くの村娘との縁談で! 絶対に結婚できないキーラは、森から旅立とうと決意するも、資金がなく途方にくれていた。そんなとき、副都での高額依頼が舞い込み、喜び勇んで飛びついたけれど……。上手い話には裏があり、キーラは事件に巻き込まれてしまって――。
秘密だらけの男装乙女の精霊ラブファンタジー。

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「守護隊隊長ヴァーツラフ・オルガネイアだ。これから君の警護をする。よろしく頼む」

 分厚い皮に覆われた手は初めて触れる感触で、鍛錬の積み重ねがわかるようだった。
 するとそれまでずっと険しかった顔に笑みが浮かんだ。

「青くなっておどおどしているだけかと思ったら、意外としっかりしているんだな」

 報酬のことだと気付いてキーラは赤面した。がめついやつだと思われたに違いない。小さくなるしかないのをヴァーツラフはますます笑う。

(守護隊の隊長さんなんだからきっと恐ろしく強くて厳しい人なんだろうけれど……そうやって笑ってると、なんだかちょっと、ほっとする……)

 父はあまり笑わない人だった。いつもむっつりと黙っていて、キーラが風邪気味だったり体調不良であっても、食事を作ったり掃除したりという仕事をおろそかにすると声を荒げて怒る激しいところがあった。
 だから男の人の笑顔で思い出すものは、あまり多くない。翡翠の森近くに住む人や精霊師を頼ってやってくるお客様でも、笑顔を見て安心感を抱くことはなかったように思う。
 自分でもよくわからない心の身じろぎを気に留めつつ、キーラは尋ねた。

「あの……具体的にはどう協力すればいいんですか?」
「証人になってほしい。いまある証拠でこれまでの悪事を追求しようと市長を裁判にかける予定なんだが、君にはそのとき証言台に立ってもらいたい」
「裁判の日までもうしばらくあるから、その間ルークくんには市長に見つからないよう隠れて過ごしてもらうことになる。準備があるから、ちょっと待っていて」

 そう言ってローゼンは部屋を出て、数分してから麻袋を持って戻ってきた。

「これ、潜伏中に着てもらう服の一枚目。着替えは順次届けさせるから」
「はい。……あ、僕の荷物!」

 麻袋の中から現れた箱型の背負い鞄を見つけて、キーラは泣きそうになってしまった。

「大事なものなんです。失くすと大変なところでした。仕事道具も、今日の仕事の報酬も入っていたんです」
「そうか。誰も手をつけていないはずだが、後で中身を確認しておいてくれ。まずは着替えをしてほしい。その後君が隠れる家に連れていく」
「わかりました」

 どんな変装が準備されたのか、キーラは麻袋に詰まっていた布の塊を取り出す。

(……なんでこんなピンクの服、………………!!?)

 服を広げて、絶句した。
 腰を締める幅広のリボン。袖は肩から手首にかけてゆったりとして、絞られた袖口にはきらりとボタンが光る。腰から下は二本に分かれておらず筒状になって広がっていた。

「これっ、こ、これ……っ!」

 激しく動揺するキーラに向かって、ヴァーツラフは重々しく頷いた。

「君は精霊師。そして精霊師は男だ。なら君を女性に偽装すれば、市長の目をしばらく誤魔化せるはずだ」

 男装している女である自分が、男として女装する?

(嘘だ――!?)

 真相を知らない彼らにとっては簡単でも、真実は混迷を極めている。ピンク色の婦人服を握る手を震わせていると、ローゼンが場違いなほど明るく笑った。

「ちなみに君が隠れ住む家はこのヴァーツラフの家だよ」

 キーラは石になった。

(は…………はいぃっ!?)

「俺の家は住宅街にある。住民の目があるから、怪しい人間がいればすぐ知らせてもらえる。防犯にはうってつけだ。ああ、一人暮らしだから気兼ねしないでいい。俺も日中は仕事だ」

(気兼ねするに決まってる――!)

 目の前がぐらぐらしてきた。男装した上にさらに女装して、この上見知らぬ男性と一時的に二人暮らし。
 ああけれどこれは全部、お金に目が眩んだ自分が悪い。

「…………着替えるので、出て行ってもらえますか……?」
「わかった」
「同じ男としての情けだ。外に出ているよ。終わったら呼んで」

 二人が扉の向こうに消え、冗談半分で覗くこともないとわかると、キーラは深く項垂れて自分の運命を呪った。

(こんな形で女の子の格好をしたくはなかった……)

 扉の死角になるところに座り込み、机の陰で手早く服を脱ぎ捨てて柔らかい色のそれを手に取ると、ため息が漏れた。
 とても可愛らしい女物の服だったことが悔やまれてならなかった。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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