『指輪の選んだ婚約者3』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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第1弾は……
『指輪の選んだ婚約者3 花嫁修業と騎士の最愛』

著:茉雪ゆえ 絵:鳥飼やすゆき

★STORY★
再びの社交シーズン。刺繍好きの伯爵令嬢アウローラは、指輪で結ばれた美貌の近衛騎士・フェリクスとの逢瀬を楽しみに王都に向かっていた。
ところが、彼に出会えた喜びもつかの間、侯爵家の次期奥様としてアウローラは、王宮で花嫁修行をすることになってしまい……!?
大人気シリーズ、完全書き下ろしの第3弾!!

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「……え?」

 クラヴィス侯爵家の『貴婦人の客間』にて。フェリクスによって強制的に連れてこられたアウローラは、フェリクスの姉であるラエトゥス公爵夫人――ルナ・マーレ・エル・ラ=ラエトゥスとクラヴィス侯爵夫人の前で、ぱかんと少々間抜けに口を開けた。

「わ、わたくしが、ですか?」
「ええ、どうかしら? というかほとんど決定事項なのだけれど」
「アウローラさんならできると思いますのよ、妃殿下の侍女」

 ホホホホホ。ルナ・マーレは扇を口元に高笑いをし、クラヴィス夫人はにっこりと、有無を言わさぬ笑みを浮かべる。アウローラは背を震わせ、ごくりと喉を鳴らした。告げられた言葉の思いがけなさ、己の身に起こる日があろうとはついぞ思わなかったその内容に、背中をつう、と冷たい汗が滴っていく。
 社交界の大輪の花と名高い二人の美女はアウローラを見ると挨拶もそこそこに、満面の笑みでこう、切り出したのだ。

『王太子殿下のご婚礼までの間、王宮で王太子妃殿下の臨時侍女をしていらっしゃいよ』と。

 仰天も仰天、想像もしたことのないその言葉に、アウローラの口は開きっぱなしになった。
 伯爵令嬢であるとは言え、自分は田舎貴族であると考えているアウローラからしてみれば、王宮で働くなんて畏れ多いことだ。粗相をしない自信はないし、本音を言えば、そんな恐ろしげなところで働くよりは、刺繍をして暮らしたい。

(……そもそもわたしに王宮の侍女仕事なんて務まるのかしら?)

 アウローラは想像してみる。
 きらびやかな王宮で高貴なる人たちに仕え、お茶を淹れたり、衣装を選んだり、話し相手になったりする、自分の姿を。

(ご衣装を選ぶお手伝いならできるかもしれないけど、それ以外はどうかなあ……)

 どうにもこうにも、話し相手になろうとして、話題を提供できずにつまらぬ顔をされる自分しか思い浮かばない。アウローラは引きつった笑みを浮かべ、一応の抵抗を試みた。

「で、ですが、王宮侍女……は、そう簡単になれるものではないと聞いておりますが」

 何しろ、王宮で働く侍女と言うのは、貴族令嬢に許された数少ない職業のうちで最も格の高いとされるものである。それに、王族の近くに侍るという職務上、爵位持ちの家の出であることが必須で、後ろ盾も必要である。経歴もきれいなものでなければならないし、一定レベル以上の教養や行儀作法の習得も欠かせない。その上、王宮勤めになれば結婚などにも有利なので希望者も多いという、狭き門なのだ。
 しかし、アウローラのその言葉はルナ・マーレに軽やかに一笑に付された。

「ホホホ! アウローラさんはポルタ家の令嬢で、更にクラヴィス家の後見があるのですから、怖いものなどございませんわ!」
「お作法などもちゃんとしてらっしゃるもの、アウローラさんなら大丈夫よ。それにこれはね、アウローラさんのためでもありますの」

 ちらり、クラヴィス夫人が流し目をくれて、アウローラは長椅子の上で姿勢を正した。隣に座っていたフェリクスも居心地が悪そうに、もぞもぞと座り直す。

「アウローラさん、貴女、あまりお友達がいないでしょう」
(うっ)

 唐突に痛いところを突かれ、アウローラは無意識に心臓を押さえた。
 刺繍をするために社交を疎かにして生きてきたアウローラである。仕立屋界隈には知人も居るし、故郷に帰れば親戚もいるが、この年頃の貴族の娘が持つべき、同じくらいの年頃と階級の同性の友人は、ほぼいない。
 それは、大貴族に嫁ぐ予定の貴族のご令嬢としても、もちろん伯爵家のご令嬢としても、致命的な欠点だった。何しろ貴族社会は情報社会。情報を制する家が権力を制する世界である。

「去年、フェルと婚約したばかりの頃に、お若い娘さんのいるお友達にね、アウローラさんのことをそれとなく聞いてみたことがあったのだけれど、あまり知っている方がいなくてね。ポルタ家の幻のご令嬢、なんてお話もあったのよ」

 それって要するに、お知り合いが少ないってことでしょう?
 ニコニコと告げられる言葉がザクザクと突き刺さる。アウローラは目眩を感じながら、左様ですねと同意するしかない。

「だけど、お友達を増やすって、なかなか簡単なことじゃあないでしょう。皆が他所向けのお顔をする夜会では相手が信用できる人かどうかなんて分からないし、わたくしたちがアウローラさんを連れ回すのも良いけれど、それだとどうしても、偏りが生まれてしまうし……」

 ふう、と悩ましげな吐息を漏らしてから、クラヴィス夫人はにっこりと笑顔になった。ポン、と愛らしく手を合わせ、はしゃいだ声を上げる。

「それでね、わたくしひらめいたのよ! 王宮で、王太子殿下の婚礼準備のために二十歳前後の侍女・女官を募集していたわ、って! 通常の侍女・女官だとそう簡単に辞められないけれど、臨時なら期間限定だし、歳の近いお友達を見つけるのには、最高の機会なんじゃないかしら!」

 わたくしも第二王妃様のお輿入れの時に三ヶ月だけ侍女をして、たくさんのお友達を増やしたものよ、と侯爵夫人は胸を張る。

「俺は反対です」

 しかし、少女のような母親に、フェリクスは顔をしかめて答えた。

「どうして? 王宮に勤めることを許されるのは、ちゃんとしたお家の娘さんばかりよ? お友だち候補にピッタリでしょう」
「王宮は口さがない人間の多い場所です。彼女の心が傷つくようなことがあったらどうするのです。それに、婚礼に際して城内はいつもより人の出入りが格段に多い。警備は常より厚く敷かれていますが、危険がないとは言いきれません。アウローラが怪我をするかもしれないではありませんか」
「過保護ねえ」

 息子の言葉に呆れてクラヴィス夫人は肩をすくめる。しかしフェリクスは片眉を跳ね上げ、言葉を重ねた。

「過保護で何が悪いのです」
「あらやだ、自覚あるのね。でも、貴方が一番知ってるでしょうけど、王宮は今、ここ数年で一番の警備態勢でしょう? やっぱり過保護よ。わたくしでさえ、入城にびっくりするほど時間を取られてよ。あっちを向いても騎士、こっちを向いても騎士だもの」
「……だからこそ、です」
「何よはっきり言いなさい」

 ルナ・マーレが顔をしかめてそう言えば、フェリクスの美貌は陰り、そのおどろおどろしさも神代のものとなる。冥府の王のような面持ちで、彼は口を開いた。

「現在王宮に詰める騎士の九割以上は、性別が男です」
「そうね」

 何を当たり前のことを、と女性陣は首を傾げ、フェリクスを注視する。

「特に、現在臨時で増員している警備兵は第二騎士団の者たちで、彼らは十割、男です」
「でしょうね」
「一方、アウローラはこんなにも可憐な女性です」
「はい?」
(フェリクス様、一体、何を……?)

 突如語りだしたフェリクスに、アウローラはポカンとして顔を向けた。周囲は訝しげに眉を寄せる。そんな周りに構うことなく、フェリクスは百戦錬磨の政治家の如くに声を張り上げた。

「だと言うのに、騎士団慣れしていて、荒ごと含め、多少のことでは動じません。馬も平気で剣にも怯えず、騎士の厳しさや無骨さ、怪我、むさ苦しさにも耐性があります。この見た目でです!」
「まあ、ポルタ家は騎士団持ちの家柄だものねえ。当主夫人も騎士だし」

 ポルタ家の女主人が、さほど身分は高くないが優れた女性騎士であることは、広く知られている事実である。盗賊を征伐し、暴れ馬を取り押さえ、町の乙女たちから数多の武運を祈られ、貴族の令嬢にハンカチを贈られたことさえあったという、凛々しき女性騎士だ。

「騎士とは憧憬を受ける職業ではありますが、厳つさや荒々しさから怯えられることも多い人種です。女性に怖がられることも少なくない。特に貴族令嬢には、騎士を苦手とする者も少なくありません」
「まあ、それも一面かしらね?」

 ピンと来ない顔をしつつ、ルナ・マーレは同意した。ある程度容姿も選抜基準に含まれている近衛騎士ではそうないが、美丈夫以外の多くの騎士は、その殺気や男臭さで、若い女性に敬遠されたり恐れられたりすることも、少なくないのは事実である。

「怯えどころか友好的な態度を見せる彼女を、王宮に詰める騎士共の群れに放り込むなど、子羊を狼の群れに投げ入れるようなもの」
「うん?」
「野郎共が彼女に色目を使ったら、私は血の雨を降らせない自信がありません」
「お前は一体何を言っているのよ」
(いやいやいやいやほんとに何を言ってるんですフェリクス様!?)

 ポカンと口を開けたルナ・マーレとアウローラの前で、フェリクスは厳しい顔をする。

「寝言は寝てから言いなさいよ」
「どこが寝言ですか。非常に可能性の高い懸念です。こんなに愛らしいアウローラが妙な男に目をつけられないはずがないのですから」

 クラヴィス夫人は自分のまろい頬に手を当て、ふう、と息を吐く。

「とは言ってもねえ、短期間に効率よく伝手を作るには、最高の方法だと思うわよ。あとねえ、フェルが何を言おうとも、貴方はまだ旦那様ではないのだし、結局のところ決めるべきはアウローラさんご自身だと思うけど?」
「ぐ」

 フェリクスの喉がおかしな音を立て、ルナ・マーレがうんうんと頷く。
 確かにそれはそうだ、とアウローラも膝の上で指を組んだ。あくまで二人は婚約者であり、身内ではない。アウローラの行動を制限する権利はまだ、フェリクスにはないのだ。

「それに、今回わたくしがアウローラさんを推薦したのは、お嫁入りの準備のために王宮入りする『次期王太子妃』の侍女よ。未婚女性、それも王族にお嫁入り直前のよ? 下手な男性が近づけるわけないじゃあないの。そんなこと、近衛騎士であるお前が一番良く知ってるでしょうに」

 ねえ、と母親は娘を見やる。その視線を受けた娘は「ねえ?」と流し目をくれて、アウローラは頬を染めた。性別など関係なく、美しい人の流し目から繰り出される破壊力は凄まじい。

「どう、アウローラさん? 花嫁修業の一環として王宮に上がってみない? 分かっていらっしゃるだろうけれど、貴族の妻たるもの、人脈づくりは最も大切なお仕事のひとつ。避けて通ることはできない道ですわよ。王宮侍女のお仕事はきっと、学ぶことが多いだろうと思うのだけれど」

 うぐぐ。言葉に詰まったアウローラは深く息を吸い、目を閉じた。
 花嫁修業、と言われて思い返すのは昨年の秋。二人並んで参加した、豊穣祭の精霊行列での決意だ。
 どうして自分なのだろうなどと言わず、口下手だと言っていた彼が懸命に自分に想いを伝えようと努力してくれている――努力しすぎたのか、生来そういうところがあったのかは分からないが、最近は思いを伝える時、ちょっと饒舌に過ぎるくらいだけれど――ことを、ちゃんと受け止めようと決めた。その好意に恥じない人間になりたいと思った、あの時の気持ちだ。

(――そうよ、わたしったらたった半年の冬の間にすっかり忘れて。フェリクス様が好きだって言ってくれる自分を信じて、ちゃんとしようって誓ったじゃないの。立派な侯爵家の花嫁になるために頑張るって決めたじゃない!)

 彼女が目を閉じていたのは、ほんの数秒のこと。けれど次に瞳を開けた時、アウローラの心は決まっていた。森の色をした瞳は決意と輝きを宿して、隣で心配げに彼女を見守っていたフェリクスの、青玉のような瞳を見上げる。

(そう、これは花嫁修業なのよ!)

「……フェリクス様、わたくし、頑張ってみようと思います」
「アウローラ!?」

 アウローラの発言が思いがけなかったのか、フェリクスは思わず漏れたような声を上げた。

「だが、王宮に勤務などすれば、趣味を楽しむ時間などはほとんど持てないぞ」
「た、確かに、刺繍に掛ける時間は減ってしまうと思うのですけれども、でも……」

 フェリクスが突いたその一点、そこは確かに、アウローラの決意を鈍らせる要因ではあった。大好きな刺繍を我慢しなければならないことは、とても、とてもつらい。でも。

「……わたくし、胸を張ってフェリクス様の隣に立てるようになりたいのです。誰にも恥じない、こ、侯爵夫人になりたいのですわ」

 はにかみつつ、アウローラはそう言った。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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