一迅社アイリス編集部

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こんにちは!

今週末には一迅社文庫アイリス3月刊の発売日!
待ちきれないあなたに、試し読みをお届けですラブラブ

試し読み第1弾は……
『転生乙女は恋なんかしない~三角関係ご遠慮します!!~』

著:小野上明夜 絵:松本テマリ

★STORY★
尊敬する上官に捨てられ、好きになった王子に振られ……前世で散々な目にあい、今世は静かに暮らすと決意した異能の少女フルール。
俺様上官の転生者・ナイトレイの「お前が欲しい」攻撃にもめげず、森にひきこもっていた彼女の前に現れたのは、前世からナイトレイに心酔していた美女・ライラックで――。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 スターリー王国の中央部。そこに広がる美しい森は、夏の終わりの陽光を受けて、翠緑の海という名に恥じぬ輝きを発している。
 もっと秋が近付けば森の木々の多くを占めるセラッタもプラナスも紅葉し、春や夏とはまた違った趣を見せる。だが、その季節折々の姿がもっとも美しいとフルール・ティーナは思っていた。

「今日もきれいだよ、みんな」

 木々に先んじて紅葉したような色の髪をなびかせ、木々に話しかけながら歩くエプロンドレス姿の少女。翠緑の海に隠れ住むフルールは、五十年前にはフレイアという名で呼ばれていた。現在と同じく十五歳で死んだフレイアの人生を反面教師とし、今生でこそ恋などという愚行と縁を切って生きていくと決めている。

『ありがとう、フルール』
『フルールもきれいだよ』

 植物と言葉を交わし、時には彼らの力を引き出して戦うことも可能なフルールに、森の緑は口々に話しかけてくれた。前世にて「外れ」の中でも孤立していた時でさえ、植物たちは彼女の味方だった。その恩に報いるため、生きていこうとも決めている。

「うん、そうだね、おねえちゃん。でも、おねえちゃんだってきれいだと思うよ?」

 さり気なく言い添えたのは、一見少年のような黒髪の少女ビビである。不安定ながら未来視という強力な能力を持つ「外れ」であり、数ヶ月前からこの森でフルールと一緒に生活し、毎日の見回りにもこうして同行している。

「ありがとう、ビビ。ああ、ついに倒れてしまったのね。お疲れ様……」

 途中、立ち枯れて久しいセラッタの大木が川に沈み込むように倒れていることに気付いたフルールは、かさかさに乾いた木肌を労るようにそっと触れた。続いて周りの木々に頼み、彼らが伸ばした枝に倒木を預け、森の地面へと横たえる。
 放っておくと水の流れが変わってしまい、付近の植物たちの生育に影響が出るためだ。地面へ引き上げておけば、やがて菌類などによる分解が始まり、腐葉土の一部になって森へと還っていく。
 前世で髪に挿されたあの花も、本来ならば自然に枯れ落ちて、仲間たちの養分となるはずだった。群生する花の死生観は人間とは異なるとはいえ、胸の痛みがぶり返したのは、隣の存在感のせいだろう。
 ちらとそちらに眼をやりかけたフルールに、反対側のビビが話しかけてきた。

「やっぱりすごいね、おねえちゃんの力……」

 場所に依存する。フルールの性格上、植物の力を限界まで絞り出して枯らすような真似はできない。一定の制約があるとはいえ、この森のように緑あふれる環境であれば、フルールの能力は強大だ。ビビの能力も強大ではあるが、意識的に発動できない不確定要素が大きすぎて、そのために一度は彼女を珍重した大人たちに捨てられた過去を持つ。

「そうだね。前世に比べれば、少しはましになったと自分でも思ってるの。だって前世の私って、本当に救いようがないものね」
「……おねえちゃんは本当に、それさえなければ、いいおねえちゃんなのにね……」

 また始まった。隙あらば前世の自分を卑下するフルールに、ビビがため息を零した時だった。

「……すまんな、ビビ」

 彼女たちの隣を歩いていた背の高い男が、フードの下から謝罪する。彼の名はナイトレイ・バルクス。前世名はアルカード。かつては「外れ」を統率して王家に弓引いた闇の王の顔が歪んでいるのは、苦手な陽光がまぶしいからではない。

「どうしてナイトレイ様が謝るんですか? 私が少なくとも戦闘では使えない小娘だったのは事実ですし、そのくせ傲慢で身のほど知らずで、おかげでジェラール様に前世と今生で二回も」

 振られた、と笑顔で言いかけたフルールは紅い眼に黙って見つめられて舌の動きを止めた。アルカードであれば傲岸に見下すだけだった視線には、生死を乗り越えたことによる後悔の翳りが差している。

「……お前がこのように面倒な、いや、扱いの難しい性格になってしまったのは、全て私たちの……いや、私のせいだからな」

 長いまつげを伏せて物憂げにつぶやく様に、一瞬眼を奪われた。フルール及び配下たちに対する態度は様変わりしているものの、ナイトレイの容姿はアルカード同様、物語に出てくる吸血鬼のような貴族的な美形である。
 昼間の森の中で見ても美しい男なのだが、月光を弾く姿は格別だ。前世にて幼いフレイアが、神様が来てくれたと誤解したのも無理はないほどに。
 ジェラールの生まれ変わりであるジェランド王子が今生でも婚約者を見初め、結ばれたあの夜。行き場のない花嫁として山の中で泣いていた際、ナイトレイの腕に強く抱き締められたことを急に思い出してしまった。

「ところで、フルール。お前が大事にしている森は本当に美しいな」

 うっすらと赤面していたフルールは、いきなり話題を変えられてはっとした。あなたのほうが、と言いかけて、埒もない言葉を飲み込む。

「あっ……、ありがとうございます!! この森を作る植物たちは、私の家族も同然ですからね」

 五十年前の世界でアルカードたちが起こした反乱は成功こそしなかったものの、彼らの行動は「外れ」に対する世間の認識を幾分書き換えた。おかげで苛烈な差別は鳴りを潜め、「外れ」と分かった時点で住む場所を追われるようなことはなくなったが、奇異の眼で見られるのは事実である。特に田舎であればあるほど、その傾向は強い。
 フレイアは能力ゆえに両親に捨てられ、アルカードの庇護下に入らざるを得なかった。そのせいもあって一層アルカードに依存していた。
 転生したフルールは自分から両親と距離を置き、この森に隠れ住んでいる。両親のことも愛してはいるが、前世からフルールの味方である植物たちは、両親以上に心の通う大事な家族なのだ。自身を褒められても額面通りに受け取らないフルールであるが、森を褒められれば素直に誇らしげな気持ちになれた。

「いつだって翠緑の海はきれいですけど、名前どおりの緑の美しさは、春から夏が最高だと思います。生命力に満ちて、まるでエメラルドでできているみたい……」

 木漏れ日を降らせるクレナタの大木を見上げて微笑むフルールであるが、ナイトレイはクレナタではなく、光のシャワーを浴びる彼女を見て瞳を細めた。

「ああ、申し訳ありません。ナイトレイ様は、迂闊に上を見ないほうがいいですね。ごめんなさい、私ってば、本当に気が利かなくて」
「……いや」

 毎度の卑下をさえぎって、ナイトレイはしみじみと言った。

「ドレス姿もよかったが、普段のお前が一番いいな。赤い髪が淡い緑に染まった光に透けて、とてもきれいだ。その姿を見るだけでも、昼間に顔を出す甲斐がある……」

 心からの賛辞を浴びて、フルールは一瞬、返す言葉に詰まった。そんなことをアルカードの転生体に言われている現実が、いまだに信じられない。

「……な、なんですか。明るいうちに押しかけてきては、しょっちゅう火傷をして、痛い痛いってわめいているくせに……」

 血に干渉する能力も吸血鬼に近いナイトレイは、太陽が弱点であるところも吸血鬼そのものなのだ。この時間はばさばさ翻して格好を付けるためのマントとは別に、怪しげなフードが欠かせないのはそのためである。
 そもそもナイトレイが住んでいるのは翠緑の森でも、その近辺でもない。スターリー王国の片田舎、なんとかいう彼の友人が治める領地なのだが、その土地を手に入れるための努力を支払ったのはナイトレイであるそうだ。前世と容姿に変化のないナイトレイは、五十年前の悪行を覚えている人間に見つからぬよう、表向きの代表者を立てる必要があったとか。
 五十年前のナイトレイであるアルカードには、部下はいても友人などいなかったと記憶している。そういうところも前世の反省を踏まえ、変わったのだ。変わりすぎて少々情けなく感じられる部分も多いが、中でも一番違うのはフルールに対する態度だろう。

「確かに太陽は気に食わんが、日が暮れたらお前はもう寝てしまうではないか。わざわざ起こすのも忍びないしな」

 植物たち同様、太陽の動きに合わせて寝起きしているフルールである。仕方がないだろうと愚痴るナイトレイを、フルールは素っ気なく突き放した。

「そもそも、あなたが来たって起きませんけどね。何度も言いましたけど、私、もう二度とあなたの部下になる気はないので」

 毎日毎日飽きもせずにナイトレイたちがフルールの元へと足を運ぶのは、前世では怯えるばかりだった力を自在に使いこなすフルールを、再び部下とするためである。表向きは、今でもそうなっている。

「うぐっ」

 容赦のない言葉に、ナイトレイの長身ががくりと折れた。紅い瞳に、一瞬凄絶な光が過ぎる。
 表面上は弱体化していても、「外れ」を率いる帝王の魂と能力は健在だ。射程距離が狭く、連発できず、血液を持たない植物には効果がないが、人間を含めた動物には無敵の能力。前世のフルールを殺した、力。

「ナイトレイ様、だめ! 堪えて!」

 冷たいものを覚えたビビが制止の声を上げ、フルールも一瞬構えを取ったところに、真ん中分けの茶色い髪をなびかせた若者がだかだかと走り寄ってきた。ナイトレイの部下の中でも、もっとも熱烈に彼を慕うヴァニシュだ。邪魔しないように遠巻きにしていた他の部下たちも、不穏な空気を感じて集まってきている。

「おいフルール、貴様ァ!! この間助けてもらった恩を、もう忘れたのか!!」

 ナイトレイがフルールを助けた。すなわち、今生でもまた、ジェラールの転生体に相手にされなかった時の記憶が蘇る。前世と今生を通して一番美しく着飾ったフルールに目もくれず、王子様は別のお姫様の手を取った。
 恋の喜びと引き換えに忘れたはずの痛みが息を吹き返す。胸を締めつける感情から逃れようとすると、自然に口調が冷たくなった。

「それは……、別に、私が助けてほしいと頼んだ訳ではないですし」
「なんだと!」
「よさんか、ヴァニシュ!!」

 激昂するヴァニシュを、今後はナイトレイが止めた。部下が率先して怒り出したせいもあって、その眼は穏やかさを取り戻している。

「……フルールの言うとおりだ。私が私の意思で、彼女を助けに行った。付き合わせたお前たちには、悪かったがな」

 素直に謝られると、別種の痛みがぎゅっと胸を締めつけた。だが、それを認めてはいけない気がして、フルールは押し黙っていた。
 唇を噛み締める姿を誤解したようである。ナイトレイの視線がフルールの腹部に落ちた。前世にて彼女は自らの力でそこを貫き、最後にはナイトレイの前身アルカードによって体中の血液を沸騰させられ、焼き殺されたのだ。

「――私のほうこそ、前世でお前にした数々の仕打ちを覚えていながら、このようにぬけぬけと訪ねてきてしまって申し訳ない。嫌な顔をせずに会ってくれるだけで、嬉しいと思わなければな。少なくとも、今はまだ」

 自嘲的に片頬を歪めたナイトレイが、ばさりと華麗にマントを翻す。

「だが、お前を諦めた訳ではないからな、フルール! 必ずやお前を、私の……!!」
「……私、の?」

 知らずごくり、と喉を鳴らしたフルールが繰り返すと、ナイトレイは意味もなくばさばさとマントを打ち鳴らして、

「部下に! そう、部下にしてみせる!!」
「ナイトレイ様、そこは遠慮しなくていいのでは……?」

 小粋な口ひげを生やした紳士であるオーウェン・ダーナーが苦笑しながら進言した。

「はぁ……、本当に、生身の女相手は、面倒だな……」

 オーウェンの弟でありながら、兄と違ってまるで身なりに構わないデメル・ダーナーも、腕に抱えた顔のない人形を優しく撫でてやりながらため息を零した。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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