最高裁平成20年6月4日大法廷判決(第7版26事件)

 

(前提)

 国籍法3条1項は、出生時に認知されていない場合は日本国籍を取得できないが、出生後、父母が婚姻し準正子となった場合には、日本国籍を取得できると定めている。

 

(事例)

 婚姻関係にない日本国籍の父とフィリピン国籍の母との間に日本で生まれたX、平成15年、出生後父から認知されたことを理由に国籍取得届を提出した。しかし、国籍法3条1項は、「婚姻及び認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であったときは、法務大臣に届出ることによって、日本の国籍を取得することができる」と規定していたために、Xは、国籍要件を備えているとは認められないとの通知を受けた。国籍法3条1項は違憲であると主張した。

 

原判決破棄、国の控訴棄却

 

(判旨)

国籍法31項の規定が日本国民である父から認知された準正子に日本国籍の取得を認める一方で、同じく日本国民である父から認知されただけの非嫡出子に日本国籍を取得することができないという区別をもたらし、それが「憲法14条1項に違反する」と主張する。憲法10条は、国政取得の要件をどのように定めるかについて「立法府の裁量判断」に委ねているが、「日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別」が立法府の裁量権を考慮しても「そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差別として」憲法14条1項に違反する。」そして、「日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位」であり、さらに父母の婚姻により準正氏になるか否かは「子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄」であって、「このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要である」。

 「国籍法3条1項は、国籍法の「基本的な原則である血統主義を基調としつつ、日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結びつきの指標となる一定の要件を設けて、これらを満たす場合に限り出産後における日本国籍の取得を認めることとしたもの」と解される。同項制定当時の社会通念や社会的情況の下では、父母の法律上の婚姻を「父との家庭生活を通じた我が国との密接な結びつきの存在を示すもの」とし、それには「相応の理由」があり、当時の諸外国における国籍法性の傾向に鑑みても、「認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには、上記の立法目的との間に一定の合理的関連性があった。」しかし、家庭生活や親子関係の実態からの社会通念及び社会的状況の変化に加え、国際化の進展に伴った国際的交流の増大、「我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約」の諸規定や諸外国の法制による差別解消の傾向と言った「我が国を取り巻く国内的、国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると、準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて、前記の立法目的との間に合理的関連性を見出すことがもはや難しくなっている。」そして、日本国籍の取得の可否に関する「差別的取扱いによって子の被る不利益は看過しがたいものというべきであり、このような差別的取扱いについては、前記の立法目的との間に合理的関連性」を見出しがたいといわざるを得ず、「国籍法が、同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず、父母の婚姻という、子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り、生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は、今日においては、立法府に与えられた裁量権を考慮しても、我が国との密接な結びつきを有する者に限りに国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用して」おり、「その結果、不合理な差別を生じさせているものと言わざるを得ない」。

 国籍法3条1項を違憲としても、準正氏の届出による国籍取得をも否定することは立法府の合理的意思として想定しがたい。すると、平等取扱いの要請と父母両系血統主義を踏まえれば、出生後認知されたにとどまる子についても、日本国籍の取得を認めるほかない。

 

※要約

①旧国籍法3条1項によれば、婚姻していない男女から生まれた子が出生後に日本国籍を取得するためには、認知及び婚姻が必要である。

②婚姻していない男女から生まれた子が胎児認知をされている場合は、生来的に日本国籍を有する。

③婚姻していない男女から生まれた子が出生後、認知されただけの場合は、日本国籍を有しない。

④旧国籍法3条1項は、(ア)胎児認知か、出生後認知か、で区別があるほか、(イ)出生後認知だけか、認知と婚姻もあるかで区別をしている。

⑤旧国籍法3条1項は、立法目的が合理的根拠を有するが、立法目的と区別に合理的関連性がなく、違憲である。

 

出題 予備試験択一H29