以前寺にひとりで泊まることがあって(離れにはひとり堂守がいた)、酒を飲みながら食堂兼居住スペースでテレビなぞを見ていたんだけれど、食堂から本堂に行く途中左側に自分の寝る場所があり、テレビも見飽きたのでその部屋へ行こうとしたら本堂に続く廊下なのでそっちが見えるんだけれど、夜であるから当然真っ暗である。もちろん本堂にはお骨などがあり些か気味が悪いが、別段それ自体は寺の日常であって、そう考える方がおかしいと思い直した午前2時過ぎ。寝る準備をしながら部屋でゆったり本を読んでいると本堂からポクポクポクポクと木魚の音が聞こえてきた。

 

 

本堂の闇が不気味だから自分がいる部屋の襖を閉じていたけれど明らかに木魚を叩く音である。しかも規則正しく叩いている。自分がいる場所から木魚までの距離は20メートルもないくらいで、部屋を出て廊下を左に少し進めば漆黒の闇がひろがる本堂、しかも本堂までにある戸は開いていて仕切りという仕切りはなく少し進んでかがめば確認できるがそんな勇気は生まれた病院に忘れてきた。右へ行けば先程までいた食堂で、そこには来客用に居酒屋のようなビールサーバがあり、いくらでも飲めるようになっている。私はササっと食堂に行き怖いから食堂のドアをちゃんと閉め、勝手に来客用のビールをその辺にあったグラスに目一杯入れ、飲み切ってはまた注いで飲み干すを繰り返した。

 

 

でまあこれはさすがに私の神経が昂っていたための幻聴だと思うけれど、その寝る部屋に戻って慄いていたら外で複数の人が歩く音がし始めた。離れにいる堂守はとっくに寝ている。ガラスドアと障子のみで外と隔てられている私は障子をバサッと開け、勢いでガラスドアを開けると凍てついた外気が部屋に入り込んできて足音はピタリと止んだ(ように感じられた)。闇の中に墓地が広がっているだけである。戸を閉め、幽霊が入ってこないようきちんと鍵をし、障子も閉め、またビールを呷り、勢いで寝た。もうその頃には木魚も止んでいたかもしれないが、恐怖心は続いていた。

 

 

翌日、木魚が鳴っていたことを寺の人間に伝えると、あそこは猫や狸も入るからそれでしょうと一笑に付された。こちとら真剣に話しているのになにを笑っとんねん。

 

 

居酒屋のビールは泡で誤魔化してるけど、ひとりでガバガバ飲んでいたのでその一夜でビックリするくらい泡立たないビールの注ぎ方うまくなった。