あの子は真面目な生徒だ。
友達とも揉め事を起こさず、
学校の校則だってちゃんと守ってる。

教室にいる時
ずっとひとりぼっちでいることもなく
みんなと仲良くやっている。

不器用なところはあるけど
努力家で
強くて、優しい子。

周りからの評価は
嬉しくて
ちょっと得意げな気持ちにさせつつも
誰にもそれを勘付かれないよう
なるべく爽やかにその場を閉めようとする。

だけど
その後一人で過ごす時間が訪れては
その時の出来事を鮮明に思い出すべく
事細かに記憶を掻き集め、
もらった言葉をひとつひとつ思い出しては
余韻に浸る自分がいる。


そんな時
周りのものから
自分という存在を認めてもらえる喜びに浮かれていると
どこか奥底から、それを否定してしまいたくなる
もうひとりの自分という存在に気づく時がある。

お前なんて本当は
皆から認めてもらえるような存在なんかじゃない。
お前なんて弱い存在だ。
お前なんて本当の努力家でもない。
優しくなんかもない。
他人に対して嫉妬を抱くこともあれば
他人の失敗すらも望んだりするような
醜い心を持っている…。

そんな声が聞こえてくる。

その繋がりが自分を苦しめてきたじゃないか…

人との繋がりが自分という存在を認識させ
周りから必要とされることで
己の存在意義を見出す。

それとは裏腹にその繋がりが
時には、己に悲しみを与え
時には、己に怒りを起こさせ
時には、己に醜い感情を抱かせ
己を苦しめる。

そう。
繋がりがあるからこそ
この世界を生きることそのものに
絶望を感じるんだ。

人と人はいつの時代も争い合い
人の心を利用し
道具のように
おもちゃのように
平気で人の心を傷つける。
それは国外だけの話じゃない。
この国においても言えることだ。

毎日のように人間の愚かなる行動が誰かにとっての
大切な存在を奪い、傷つける。
学校、仕事場、家、街中…ありとあらゆる場所
人間同士の関わりが形成する社会において証明されていること。


所詮
人間なんて誰もが他人同士であるからこそ
他人のタカラモノなどに価値を示さない。
人と人が理解し合あえるなど到底思えない歴史、現実が
今目の前にあり、この先も変わらず続く未来を予感する。

この国のどこに
世界のどこに
平和があるというのだ。

大切なものがあればある程
愛情を注げば注ぐほど
それを失った時、深い哀しみが心を支配する。
何かを失う度にまた何かを愛し
何かを愛する度にまた何かを失う。

命あるものはいずれ終わりが来る。
何かを失う度に心が押し潰されるくらいなら
そんな繋がりなど断ち切ればいい。
大切に想うからこそ苦しくなるんだ。

永遠などないからこそ
繋がりに苦しむことはない。

いっそひとりになり
ただ、生を全うすることに従えばいい。
生きることそのものに最初から意味など何もなく
生きることそのものに意味を与えるのは
いつも人間の勝手な都合によるものだ。
もっと、自然に任せればいい。

大切なものを失うこと。
誰かに自分を理解してもらえない、見てもらえないこと。
成績が良くないこと。
不登校であること。
怪我で苦しむこと。
お金がないこと。
夢が叶わないこと。
将来に悩むこと。
いつかは終わりが来ること。

それが
とてもちっぽけなものに感じる自分がいることを
ある時から気づいていた。

誰かから必要とされる時
誰かから愛される時
歩み寄る者を拒絶し
その手を振りほどきたくなる自分の存在を。
それでも何度も何度も何度も
歩み寄ってくる者に対してこそ
傷つけてしまいたくなる。
またさらにそう思う自分に苦しみ
「もう、ひとりにしてくれ」と心を閉ざし
自ら孤独の道へと足を踏み入れる…

愛情の喪失は…
人の心を変えてしまう。
特に心が純粋である時期に
命は尊いだけではなく
ちっぽけなものだと知れば
透明な心は何色にでも染まり得る。

家族がいること、友がいること、恋人がいること、
自分を支えてくれる仲間との繋がりが
この現実世界に希望の光を照らしてくれると信じる
自分がいるからこそ

それを全て否定しようとする
とても冷たい心を持ったもうひとりの自分を
これまで敵のように感じていた。

だけど今になって思うのだ。

皆が知らない
この冷たい心をもった自分がいてくれるおかげで
まだこの現実において
大切な何かを諦めないでいられるのかもしれないと。

自ら、一度は完全に絶とうとした
この現実を。