第7章 韓国ドラマ映画
258.ムービング❷
 
 
前回のレビュー記事はコチラ

 

遅まきながら『ムービング』やっと残り11話を1週間以上掛け視聴完了しました。
9話まで破竹の勢いで視聴したこのドラマ、後半なぜコレ程視聴が遅くなったかと言うと主な理由のひとつは私の相棒・家内のせいです(笑)。
 
毎度ながらドラマ視聴は私自身のルーティンとして惰性で鑑賞して居るKBSのホームドラマと異なり、家内と一緒に鑑賞するミニシリーズ(一般の韓ドラ)を観るモチベーションは相棒つまり家内と一緒に観ると言う行為に支えられて居ます。
16話〜20話、1話70分近くも有る長〜い韓ドラ、一種「苦行(くぎょう)」に近いモノが有りますからどうしても1人では挫けがちです。2人で観るからこそ最後まで完走出来るのです。

 

 

しかし、あるキッカケで彼女に裏切りが生じてひとり先に進んでしまった場合、私が「苦行」を継続するモチベーションは思い切り下がります。
 
そのキッカケは
❶私が夜、たまたま人と会って帰りが遅くなった時、
❷誘惑に弱い家内が昼間ガマン出来ずひとりで観てしまう場合
などですが、そうなるとその時点で私のドラマ視聴がストップしてしまいます。
 
ひとりでいつか観れば良いやと思うと案外ほったらかしになりませんか?
この間、未視聴に終わって居るドラマ『社内お見合い』『未成年裁判』…など数多くが大体そのパターンです。
勿論一緒に観始めて私ひとりリタイアするパターンもありますが。

 

 

逆に最初から家内が興味なく私が1人で観始めたドラマ『賢い医師生活』『サイコだけど大丈夫』『私たちのブルース』『私の解放日誌』などの方が途中リタイアせず最後まで視聴、レビュー記事を書けたりします。そもそもレビュー記事を書くタメに観て居る面が多いですが。
 
先に家内に観られてリタイアしてしまう理由は肝心な箇所のネタバレを聞いてしまうせいも有ります。
知ってしまうと(な〜んだ。こんな展開か…じゃあまぁ後でも良いや)と思ってしまう事って往々にして有りますよね。
 
でも今回は韓国でムーブメントを起こし瀕死のディズニープラスを救った救世主のこのドラマの人気の理由をトコトン探らなくては…と言う使命感が有ったので、速度は多いに遅くなりましたが最後まで見届けました。

 

 

最後まで観た感想は表裏一体、「世界観が奥深くて映像が凝ってたな〜」と言うプラス面と「暴力の応酬が酷くて観るのが苦痛だったな〜」と言うマイナス面です。
前半部分の高校生たちの成長と初々しいロマンスが殺伐とした雰囲気を和ませてくれましたが、その親たちの物語で過去に戻るや次第に観るに堪えない暴力が増えて行って、最後は現実世界での『ドラゴンボール』かよと思う程のバトルの応酬。

 

 

ハン・ヒョジュチョ・インソンのロマンスは美しかったです。
リュ・スンリョンの朴訥(ぼくとつ)で不器用なロマンスもイケてました。
しかしながら当初からそうですが、普通なら死んで居るであろう過剰な暴力が如何に多い事か。人間では有りません、完全にターミネーターです。
元々言葉も過激で放送禁止用語が頻出して居ましたが、コレでは地上波放送はムリでしょう。
暴力の水位が高過ぎて子どもたちとは一緒に観たく有りません(モトより彼らは興味無しですが)。

 

 

他の評価はどうだろうかと韓国ドラマの名の有るライターさんたちの評価を見ると2023年で最高のドラマだと大絶賛。
確かに世界観が奥深く、ヒューマンドラマとして見応えは有ります。
登場人物の生い立ち・人生過程を丁寧に描きました、しまいには敵の人生過程まで。
全ての描写にムダが無く全てのストーリーが繋がって居ます。
 
現在から過去に遡ったり戻ったりを繰り返し緩急(かんきゅう)の調節が絶妙で、映像が映画の如く凝っているので最後まで吸い込まれます。
原作マンガの作家カン・プル氏がシナリオを担当したと言いますからストーリーが丹念に練られて居ます。世界観のブレが有りません。
 
そして全編を通して溢れる最も重要なテーマとして描かれた『家族愛』
このドラマを一貫して貫くこのテーマがどのキャラクターにも、果ては敵で有る共和国の超能力者にまで満ち溢れて居ます。

 

 

このドラマが韓国で人気爆発する理由が分かります。日本で喩えれば『ワンピース』やその他人気マンガをそのまま実写化したイメージなのでしょう。チープな作りで無しにふんだんな予算を使い細部まで拘ればファンの満足度は多いに高まります。
その分、原作を知らない日本での人気は韓国でのそれには及びません。
作品を通してしか判断出来ないので仕方がないとも言えるでしょう。
ネットフリックスに比べディズニープラスの加入者が圧倒的に少ないと言うハンデも存在する事でしょう。

 

 

しかし、私が後半ドラマ視聴に於いて戦意喪失した一番の大きな理由は、彼らが戦う『敵』の存在に有りました。
13話でチラッと見せる描写に始まる仁義なきバトルの相手は、紛れもなく「北」の勢力です。
特に16話からは現実離れした南北間の暴力の応酬が延々と続きます。収容所の描写なども痛々しく描かれます。

 

 

南北が対峙して居る現在の状況下では充分有り得る展開では有りますが、延々と共和国が悪者に描かれる展開が気分の良い筈は有りません。
ムンジェイン文在寅政権の頃の『愛の不時着』で描かれた共和国への友好的描写は何処へ行ったやら、ユン・ソクヨル政権の共和国への「主敵宣言」に合わせたかの様に共和国側は血も涙も無い冷酷なステレオタイプの国家・戦士に描写されます。

 

 

その中でも共和国で良心を持つ人物が2人居て最後にアクションを起こしますが、現在の韓国の意図が反映された人物だと言え、当然ですが韓国の論理に沿ってドラマが制作されて居る事を思い起こさせます。

 

私の様なウリハッキョで教育を受けた共和国側寄りの立場の人間に取って、このドラマはエンタメとして軽く視聴出来ない『反共・反共和国』プロパガンダドラマの如し、ユン政権の共和国政策への忠実な表現者の様で、笑い飛ばす事が困難な「苦い後味」が残ります。

 

 

このドラマを視聴した何も知らない視聴者は共和国への嫌悪心が大きく巻き起こる事間違い無しでしょう。
否、韓ドラファンはフィクションの「耐性」が付いて居るので大丈夫ですか?日本の視聴者、韓国の視聴者のご意見を聞きたいです。
私はウリハッキョ出身者なので自称「共和国代表」としては観るに忍びません。
悪の化身で有る共和国の超能力者たちがイヤイヤながら自分たちの家族の為に身を賭して戦う姿、闘いたく無いと苦しむ人間らしい姿を描いたのがせめてもの救いです。
 

 

この様に、現実世界を色濃く反映して居るので一部私の様な立場の人間には視聴に支障が有る事を断りつつ、莫大な予算を掛けて人間を深く描いたこのドラマ、最終回のエンドロールまで長編映画を観る様な醍醐味が有り、韓国でのムーブメントも頷けます。
このドラマが韓国で人気を博した理由を分析して見ましょう。

 

❶人気ウェブ漫画原作と言う事でファンのみならず、原作を観ない大人も耐え得るクォリティを保った点。
❷一度に2編~3編公開で構成、ドラマへの没入度に加え、「ムービング」飢餓感を煽る配信方式にした点。
❷しっかりしたストーリー展開。
❸超能力をアイテムにしたうえ、現実で本当に起きるような事を展開させて現実性を与えた点。
 

 

❹ここに俳優たちの熱演・名演技まで加わり完璧な作品を誕生させた点。
❺ 空を飛んだり、細かい感覚を持ったり、電気を自由自在に使用、またさらに強力な再生能力がある、どんなに傷つけても怪我をした部位はすぐに再生されるなど、様々な能力を持ったキャラクター人物が個性的な点。
❻奇妙な超能力を持った彼らが一般人たちの間に混ざって生きていきながら国政院のミッションをこなすという設定が韓国視聴者にカタルシスを与える点。

 

 

❼加えてマーベルの「アベンジャーズ形式」にした点も「ムービング」をより多彩に楽しませるポイントになったと思われます。 個々人のストーリーと共に「超能力」にまつわる人物たちの話が広がり、様々な話を作り出します。
ひとつの作品の中に青春、ロマンス、ファンタジー、アクション、ヒューマンなど様々なジャンルが混ざっており、これをしっかりとした構成で見せてくれた点が「ムービング」の成功要因と見られます。
一言で、韓国で人気の『マーベル』シリーズの特徴を余す事なくシンクロして居ると言えるでしょう。

 

 

最後に、韓国でこの様に『ムービング』が大ブームを巻き起こす前提とも言える本家本元『マーベル』が、何故日本ではさほど盛り上がらないのかを分析したいと思います。
 
マーベル映画は日本でなぜ受けないのでしょうか?
勿論、日本でも総集編である『アベンジャーズ』1は35億円、2は26億円、3は34億円、4は55億と好調で、『ドクターストレンジ』や『スパイダーマン』など人気のあるキャラクター作品はよく売れていると言いますから全くウケないワケでは有りませんが。

 

 

この問題を探るべくネットサーフィンしてとある記事を発見、とても首肯しました。
どストライクの回答を与えてくれる記事なので以下、一部引用します。
 
映画は子供から流行します。
それは配信時代においてあえて映画館という場で勝負する体験がより共感型・体験型になっていくほど、今後も強くなる傾向だと考えます。
個人的にはマーベル映画作品も学問的に興味ありますし、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『約束のネバーランド』など自分で見たいものが結構あるのですが、妻子供を置いて1人で映画館にいくのは休日ゴルフ並みにバツの悪い。
個人の趣向性のある映画は配信で個別に視聴しつつ、映画館体験に優先されるのは子供が楽しめて、なおかつ自分もまあまあ楽しめるもの。

 

 

そうなると以前はジブリでしたし、最近はコナンやクレヨンしんちゃん、そして『天気の子』や『鬼滅の刃』です。
日本では1990年代からジブリが家族の映画館習慣を導いてきました。
では子供に刺さるマーベル映画が日本で実現できるのか、というと日本にはヒーローものが過当競争にあり過ぎる、というのが難しい理由だと思っています。
前述のようにすでに多くの国民的キャラクター、ヒーローが大量にある日本映像業界では(特に日本映画の年間上映本数は米国900本、中国900本に対して、日本1200本。10分の1にも満たない市場パイを大量の映画が食い合っている状態です)、なかなか付け入るスキがない、というのが実情でしょう。
マーベルヒーローの主人公は基本的には「おっさん」であり、外国人。

 

 

アンパンマンから戦隊、ライダー、そして鬼滅の刃とヒーロー像をたどってきた子供たちに、いきなりその新しい消費を飲み込ませるのは難しいなと感じます。
この国だけが、子供たちが違うものを味わい、違うものに惹かれ、そのまま育っていくのだなと思います。
 
(引用 世界一の映画マーベルMCUがなぜ日本だけ売れないのか|世界でエンタメ三昧)

 

 

なるほど、アニメが牽引する日本の映画界のトレンドと連動するとは多いに納得が行きます。
以前と違いエンタメに於いて「アメリカ産」「ハリウッド産」に対する畏怖と憧憬の念が薄れ、洋画が低迷して居る現状とも連なるモノが有るのでしょう。
決して人気が全く無いワケでは有りませんが絶対的存在で無くなって居ると言う。
この問題、語るとキリが無いのでこの位にしますが、様々な点を示唆してくれ面白いです。
裏を返せば韓国での「マーベル」人気と「ムービング」人気は日本の鏡写しだと言えるでしょう。

 

 

ともあれ、深奥な世界観を持つこのドラマ、間違い無しに近日『ムービング』第2シーズンがリリースされる事でしょうから要チェック間違い無しです。
 
最後にアメリカCIAの新たなる動きが描かれましたが、シーズン2の主敵が「共和国」では無く「アメリカ」で有ります様に…と固く祈りながら、取り留めの無い文章を終えます。いつもながら長文失礼しました。