外債という名のアヘン(1)
壮大な無駄遣いに理由があったように、イスマイルは単なる浪費家ではなかった。イスマイルは、イスマイルなりのビジネスモデルを考えている。
特定の銀行家、商人、イスマイルらエジプトの資産家たちが共同で出資し、独占的な利権を保有する開発会社を設立する。
開発会社の株主でもある銀行家、商人は開発会社が欧州で発注する物資の購買契約で手数料を受け取る。
利権と手数料の代償としてイスマイルは銀行、商社に決済口座を開設し短期資金の融資を受ける。開発会社の配当、開発プロジェクトの収入を、借入金の返済に充てる。
利払いと償還の期限に縛られ、トルコの勅許状が必要な短期債券や長期外債の発行よりも機動的に資金を調達でき、何よりも自由裁量の余地がある。
ムハンマド・アリは長期の資金に依存しなかったし、サイードもイスマイルも初めから外債の発行を嫌っていた。
経済合理性にかなった健全なプロジェクトであれば、完成の暁には開発会社に収益をもたらす。
しかもエジプトの国庫は、開発資金を賄ってなお余りある歳入を得ていた。ムハンマド・アリが長期資金を必要としなかったようにイスマイルには、最初から長期資金に依存する意図もその必要性もなかった。
スエズ運河の掘削。