今週は木・金と2日間日本美容外科学会(JSAPS)に行ってきました。

 

目新しい発表は少なかったのですが、新しい知見は得られなくても、これまでの疑問が解決したり、治療のヒントが得られるなどの成果はいくつかありました。

 

 

 

 

統計を取ると、日本における美容治療の施術数で最も多いのは何といっても二重などの目の美容形成手術ですが、その次に多いのがリフト手術なのだそうです。

 

ただし、従来の本格的なフェイスリフト手術は圧倒的に少なく、糸を使ったリフト治療が大部分を占めます。

 

糸を使ったリフト治療は、比較的簡単な施術でありながら高額な治療費を請求できるので、美容外科にとってはドル箱的な存在です。

 

治療効果よりも売り上げを重要視する美容外科クリニックにおいては、糸によるリフト治療はなくてはならない治療メニューです。

 

 

 

 

しかし、その一方で糸によるリフトでは、訴訟に発展するトラブルが数多くで起きています。

 

「治療費が高い上に効果がほとんどなかった」、「治療後に顔にひきつれが残った」、「治療後に痛みがなかなか消えない」などの報告例が後を絶ちません。

 

収入にはなるものの、クレームが生じる確率が高い治療でもあるようです。

 

 

 

 

 

収入面だけを考えればクリニックにとって糸のリフトをやらない手はないのですが、当院では今までのところ一般の患者様に対して糸のリフトを行ったことはありません。

 

私と同じように、信念をもって頑なに糸のリフトを行わないドクターは少なくなりましたがいまだに存在します。

 

私が尊敬する某先生もその一人で、心強い味方だと感じています。

 

 

 

 

 

私は糸のリフトを全否定するつもりはありませんし、即効性という点から糸のリフトをそれなりに評価しています。

 

インフォームドコンセントをしっかり行った上であれば、1~2本の吸収糸を補助的に使ったタルミ治療はありかなと思っていますが、具体的な方法を決められずにいます。

 

私の頭の中ではある程度結論は出ているのですが、今のところそれをすぐに始めるつもりはありません。

 

 

 

 

実は、糸によるリフトが世に広まり始めた15年前、アプトス・ワプトスと呼ばれた治療が日本に伝えられた時、いち早くその講習会に出席したことがありました。

 

数十万円という超高額な講習費を払い、わざわざ大阪まで新幹線に乗って出向いて最先端?といわれた治療のレクチャーを受けてきました。

 

数十万円の講習費を払った上に、1本数万する糸をたくさん購入したのですからすぐにでも患者様向けに治療を始めたいところでしたが、結局私はこの治療を取り入れることはしませんでした。

 

 

 

 

その問題点は効果の持続性にあり、しかも当初使われた糸は非吸収性だったため、効果が無くなったあとは糸の残骸だけが顔に残るという欠点がありました。

 

効果は1年くらいで無くなるので、効果が無くなったらまた糸を入れることをずっと繰り返していかなければならず、気が付けば顔の中に糸が100~200本も埋め込まれているというような人も多く現れました。

 

当時の糸によるリフト治療は、顔の中に糸がたくさん残ってしまうことに対して抵抗のない患者さんと医師の双方が存在して成立する治療でした。

 

糸の材質は心臓手術で使用されるものと同じで体には害はないという宣伝文句でしたが、いくら有害でない物質であったとしても、顔に異物を何十本~何百本も入れて平然としていられる神経は私にはありません。

 

私と同時期に講習会に参加されていたドクターには、その後糸のリフトの第一人者として有名になられた人もいて、今でも全国から患者さんをたくさん集めていらっしゃいます。

 

 

 

 

 

美容外科医にとって、新しい治療は早く始めるほど患者さんを多く集めることができるメリットがありますが、後で不都合が発覚した時に非常に困るというデメリットもあります。

 

もちろん不都合を生じた場合一番困るのは患者さんであり、医師は責任をもって対応しなければなりません。

 

ブームが去ってその治療法が下火になったとしても、一度始めた治療を「あの治療法は良くないからやっぱり止めました」と途中で投げ出すことは無責任です。

 

私が非吸収性の糸のリフトを行わなかった最大の理由は、糸が残ることによって今後登場するかもしれない治療を受けられなくなる可能性があると判断したことです。

 

糸自体が直接有害ではなくても、糸があることによって他の治療を享受できなくなることは大きなマイナスです。

 

私が過去にアプトス・ワプトスを行っていたとしたら、その患者様に対してサーマクールやウルセラリフトを現在勧めることはできなかったわけです。

 

使用する糸が非吸収性の糸から吸収性の糸に代わって状況は変わってはきましたが、それでも機器によるタルミ治療に力を入れている当院としては糸のリフトに対しては慎重にならざるを得ません。