「今日はママの都合で臨時休業らしいよ」

居酒屋Sの常連飲み仲間Tから連絡をもらって、私は彼女と2人で仕方なく玉宮の日本酒居酒屋で飲んでいた。

不完全燃焼気味の私はとっさに彼女に提案してみる。

どっかでおでんでも食べないか?
その日はしとしとと雨が降り、岐阜の10月にしてはかなり肌寒い気温。おでんを理由にそろそろ今いる店を出たかった。

私達は早速ネットで居酒屋検索を始める。
地元岐阜の居酒屋情報など、見慣れた店ばかり。
もちろんおでんを出すお店は沢山あるが、どれも最近の玉宮っぽい現代居酒屋のみ。
小綺麗なだけで胸躍るような酒場ではない。
そんな検索ページの片隅に、行った事のない店の名前を見つけた。
「おでん まさ」
食べログにさえ情報が出ていないそのお店は、玉宮地区から少し離れた柳ヶ瀬地区にある。
わずかなネット情報だが、その風貌からかなり気になる店だった為、雨の中、歩いて向かう事にした。

廃れ気味の柳ヶ瀬地区にあって西側の地区は、さらに廃れた場末の空気が半端ない。
その西柳ヶ瀬地区からさらに一本入った薄暗い場所に「おでん まさ」の看板を発見した。
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アルミサッシの引戸を開けて暖簾をくぐる。

先客は無し。
大将が1人で日ハムX広島の日本シリーズを見ている。
一瞬失敗したかな…と思いながらもカウンターのみの狭い店内の中央に座った。

カウンター上には美味しそうに湯気を立てるおでん鍋と、なぜか大量に積まれたオイルサーディンの缶詰。
周りを見渡すと、所狭しとマジックで書かれたメニューの張り紙が踊っている。
この昭和な雰囲気に少し楽しくなってきた。

手元のオススメ地酒のメニュー版を見ると、地元の地酒三千盛と久保田百寿、上善如水の三種のみ。
とりあえず三千盛とおでんを三種、土手煮を注文した。

飲み慣れた三千盛の冷やを喉に流し込みながら、付き出しを摘む。
程なくメインのおでんが出された。
定番の味噌ではない。関西風の透き通った出汁が染み込んだ大根が美味い。
続いて土手煮。スジ肉だ。
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土手煮にはこのスジ肉とモツの2種類があるが、私は圧倒的にスジ肉土手煮が好みである。
鍋で長く煮込まれ、ホロホロっと柔らかくなったスジ肉を頬張るのは至福の時間である。
臭みもなく、しっかりと脂抜きしてあるスジ肉土手煮は今まで食べてきた土手煮の中でも五本の指に入ると思う。

大将に話を聞くと、この店は今年で26年。
思っていたより若い店だったが、この西柳ヶ瀬地区で数々の人間ドラマを見てきたであろう大将の話は興味深かった。
途中で入店してきた常連と思わしき方とは、ドラゴンズの黄金時代の懐かし話に華が咲き、入店から1時間後には、通い慣れたような居心地を体感していた。

最後に頼んだのはぎんなん焼き。
珍しい醤油で炒められたぎんなんだ。
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焦げた醤油の香りを楽しみながら、ぎんなんのコクを味わい、三千盛を流し込む。
まだまだ岐阜にもこんな店が生き残ってるのだと嬉しくなった。

お腹も心も満たされ、そろそろお暇しようとしたその時、大将が一言。

「ぎんなんはちゃんと外側舐めてから食べた?」

…と。どうやら醤油味の理由は、外側の焦げた醤油を舐めて一杯、中身を食べて一杯の二重のお楽しみの為だそうだ。
そんな事も知らない私達がそれを聞かされた時、すでにぎんなんの殻が皿に山積みになった後だった。

「大将、先に言ってくれなきゃ。次回はちゃんと舐め舐めしてから食べるよ。次来る理由が出来た」

笑い声の中、私達は店を後にした。

「おでん まさ」は月曜定休で日曜営業してくれてる。
日曜営業の居酒屋は貴重な存在だ。
毎週日曜が来るたび、行く店に困っていた私達の定番の店のひとつになりそうである。

食べログ情報がないのでぐるなびで。
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