ガットの機械的性質についての考察 | .

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ガットの命は短くて 引っ張られことのみ 多かりき


ナイロンガットは初心者や女性向き


ガットの物理特性(機械的性質)を考える上で、下の東レの資料は大変参考になります。この中の最もガットの性質に影響があるヤング率に注目して下さい。この線図で傾きが急なほどヤング率が高くなります。

ポリエステルの方が、この数値がナイロンに比べて2~5倍くらい大きいのです。

つまり、ポリエステルが固く伸びにくいと言うことです。だから、ボールはナイロンガットに比べ飛びにくくなります。またスイートスポットで打てば殆どラケットに振動を生じませんが、ここを外したとき、ポリエステルの場合の方が衝撃が大きく振動も強くなります。その振動を手で減衰することを考えれば、初心者や女性にはポリエステルをおすすめできません

ただ引っ張り強度が少し高いので、ポリエステルの方が切れにくいでしょう。ポリエステルはボールが飛びにくい反面、ガット面が変形しにくいので、ハードヒッターやボールコントロールを重視する方には適しています。もし、一般的なプレイヤーがポリエステルを選ぶ場合は、その中で最も柔らかいと言われているガットを選ぶのが無難だと言えます。


東レ・モノフィラメント株式会社の製品紹介

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ヤング率(縦弾性係数) ヤング率=応力/ひずみ[N/mm2] 引っ張ったときの物質の伸びにくさを表す数値です。
つまり、この数字が大きいほど、一定の力で引っ張ったときに伸びにくいということです。逆の表現をすれば、この数字が大きいほど、一定の伸び(ひずみ)を生じさせるとき、大きな力(応力)を必要とします。一般的には、この数字が大きいと固い、小さいと柔らかいとか言って表現されています。

固いガットは振動が減衰しにくく、この面から見ても初心者、女性、年配の方にはおすすめできません。なぜなら、振動が減衰しにくければ、それだけテニス肘になりやすいからです。


ニュートン(newton, 記号: N) 1ニュートンは、1キログラムの質量をもつ物体に1メートル毎秒毎秒(m/s2) の加速度を生じさせる力


ガットの張り替えは3ヶ月以内に


使用しないラケットであっても、張ってあるガットには引っ張り荷重がいつもかかっているので、クリープ現象が生じます。そのためテンションが低下します。そうなると高いときと同じパンチの迫力が感じられないため、ショットの快感が低下します。それを考えると、使用していれば、1ヶ月でガットを張り替えるのが理想です。長くとも3ヶ月以内には張り替えることをおすすめします。

ちなみにナチュラルガットは、時間的劣化が非常に少なく、ナイロンなどの化学繊維では両立できない反発力と弾力には素晴らしいものがあります。 このガットはボールを打つことによってガットに加重が更に加わったとき、ナイロンやポリエステルよりも柔らかいため、手首・肘などの故障がしにくく、しかも反発力のあるガットです。つまり、このガットは張り上げ張力を高めても伸長回復率が低下しにくいたいため反発力も落ちにくいことが工学的な実験でも確かめられています。しかし、価格が高く寿命が短いのが大きな欠点です。昔は羊の腸を材料として使用していたので「シープ」(sheep)と呼ばれていましたが、現在は供給が安定している牛の腸が使われています。なお「ガット(Gut)」は腸という意味です。


ハイブリッド・ガット


最近は縦ポリ/横ナチュラルというハイブリッドの張り方も増えていますが、錦織選手は縦ナチュラル/横ポリという張り方です。ポリの中でも「柔らかい打球感だけれど、パワーとスピードのあるショットが打てる」ということで『アル・パワー・フローロ』を使っているそうです。

科学的に考えれば、一定の荷重を受けたとき、縦は長いので固いガット、横は短いので柔らかいガットという張り方をすれば、同じようなたわみ方をするはずです。だから、縦ポリ/横ナチュラルは理にかなった張り方と言えるでしょう。

しかし、ハイブリッドした張り方は、それぞれのストリングが経過時間とともに伸び方が違ってきますので、使っているうちにラケットが変形していきます。そのため、張り替えは早めにすることをおすすめします。


 

 テンション維持率(ナイロンVSポリエステル)


ポリエステルの耐久性について気をつけなければならないのがテンション維持率です。ナイロンに比べテンション維持率は約10%くらい低いのです。性能を発揮できる時間は短く、性能の低下も大きいことが次の表から分かります。切れなくとも性能が落ちたものを使い続けることになるので注意が必要です。テンションの維持率の低下は、ガットが伸びるということです。だからラケットに加わる加重も少なくなります。ナチュラルはこの低下が少ないのです。もし、ハイブリットガットなら、ラケットにかかる荷重が時間経過とともに大きく違ってくると言うことですからラケットが変形しやすくなります。つまり応力緩和がポリエステルの方が大きいから、ポリエステルで張っている方向のラケットへの荷重が低下し、変形しやすくなります。

いずれにしても、次の表からガット張り上げ後、24時間でテンションは急激に低下し、その後は徐々に低下していくことが分かります。


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ボールのスピン

ボールのスピンはストリングの種類や張り方によって変わると思われていますが、シドニー大学のロッド・クロス先生はガットの影響はないと次のように述べておられます。

どんなストリングを使用してもスピンは同じようにかかる。ストリングが軟らかくても固くても、粘着性があってもなくても、太くても細くても全て同じである。スピンの強さは、唯一ストリング面と平行なラケットヘッドの速度に依存する。

この理由として、でこぼこしたストリング面をボールが滑らないからだと考えられます。


テンションは感じられるか


殆どのプレイヤーは、テンションの違いを区別できると思っている。しかし、実験すると識別できない人が多かったそうである。

上級プレイヤー41名を対象にした実験によると

11ボンド以下の違いを識別できたのは11名(27%)

22ポンドの違いを識別できなかったのは15名(37%)

この実験中、プレイヤーはストリング面に触れることは禁じられ、ラケットには振動止めがつけられた。

プレイヤーに耳栓をつけて、ストリングの振動音を聞きにくくすると、識別の正解率が低下したそうである。中にはテンションの強弱を実際とは逆に判断したプレイヤーもいた。ということは10ポンドくらいテンションが違っていても余程注意しないと分からないということだ。

テンションの違いを識別するのが困難な理由は、ストリングを離れるポールの速度とスピンの強さが、ストリングのテンションに大きく依存していないからである。ストリングを離れるボールの強さとスピンの強さは、殆どプレイヤーがラケットをスイングする速度に依存している。ストリングのテンションが10ポンド違っても、ボールの速度変化は1~2%にすぎない。

しかし、テンションの違いは、ラケットに加わる衝撃の強さに影響を与えるので、女性でしかも年配のプレイヤーが50ポンド以上のテンションで張ると故障の原因となりやすい。だから、力の衰えた人や故障がちの人には45ポンド以下で張ることをお勧めします。  


まとめ

1 テニスエルボーにならないためには

①柔らかいガットを張る

  ナイロン(mono) ナチュラル 

②テンションはゆるめにする(特に初心者の方は)

③振動止めをつける

④グリップテープを二重に巻く

⑤太めのグリップにする

⑥アイシングをする

2 ガットを3ヶ月以上使うと

①打球感が損なわれる

②ラケットが変形する(ハイブリッド)

③ボールコントロールが悪くなる

  たわみ方が大きくなることによって、ボールの飛び出し角度が

変わってくる。


追記

中年女性プレイヤーに、ポリエステルをすすめる勉強不足コーチにお目にかかったことがあります。つまりテニスエルボーになるように手助け?しているのと同じです。一般的に普通のコーチは自分の全盛時のプレイスタイルにあったもの、すなわち固いガットに高いテンションを勧める傾向にあります。しかし、女性や中年に固いポリエステルは向いていませんし、テンションを高めに張ることも避けるべきです。テンションは故障がちの中年女性には45ポンド以下がおすすめです。

ナチュラルの場合は、テンション維持率が高いのと、60ポンド以上の加重が加わったときに柔らかくなります。これらのことを考えれば、ナチュラルでも中年以上の方や女性はテンションは低めにした方が良いと思います。

殷の湯王は「まことに日に新たに 日々新たにして また日に新たなり」と、その文字を洗面器に刻んで、毎日自己啓発の誓いを新たにしたといいます。テニスコーチなら最低限のテニス用品の科学的な知識を学んで、スクール生を故障しないようにして欲しいと思います。


受付のOL(オバサンレディ)武居さんは、ヤング率を「若者の占める割合」と理解して、ドキッとしたそうです。                      

                                         (株)五日市テニスクラブ 土井和士


続編 ストリングの機械的性質 その2(学術論文より抜粋)