いつしか気付けば一本のボールペンが俺のふでばこにあった。


そのボールペンには


「東京大学」


の文字。


記憶の糸を手繰り寄せてはみたものの


日本の最高学府を卒業した記憶はないし


ましてや行った記憶すらなかった。


しかし、そんな理由は何時しかどうでもよくなり


ただそのボールペンを持っいるだけで頭が良くなった気がし


誇らしげに思えた。


ある日。


帰宅途中の電車の中でボーっと窓の外を眺めていると


クライアントから依頼されていた新商品のキャッチコピーを


突然思いついた。


忘れる前にメモを取るべく


そのボールペンを取り出した。


そして、手帳を広げペンを走らせ様とするもののインクが出ない。


激しく擦っても、振っても


一向にインクの出る気配はない。


代わりに真っ黒な陰部が出た。


おちんちんびろ~ん。


軽く苛立ちを覚え始めた時、


「良かったらこれ使ってください。」


突然、隣に座っていた24、5のエビちゃん風OLがボールペンを差し出した。


東大ボールペンマジックなのか


突然訪れた美女とのコミュニケーションチャンスに胸が躍った。


このチャンスを逃してなるまい。そう思った俺は急いでメモを取ると


「おかげ様で助かりました。


もしかしたらあなたにとって些細なことかもしれませんが、


僕にとっては大きな助けでした。ぜひこのお礼をさせて


頂きたいので今度食事でも。」


女性の目をまっすぐ見つめ俺は言った。


当然の事ながら、突然の申し出にその女性は驚き


「そんなお礼なんて・・・。」


と断られた。


もちろん断られて当然である。


計算通りである。


この申し出は断られるためにあえてした、


次の要求に対する布石。すなわち心理学用語で言うなら


ドアインザフェイスのテクニックである。


「そうですよね。いきなり食事だなんて失礼でしたよね。


でもここであなたとお話出来たのも何かの縁だと思います。


メールアドレスだけでも教えてもらえませんか?」


再度女性の目をまっすぐ見つめ俺は言った。


「あっはい・・・。」


少し戸惑いつつも彼女はメルアドを教えてくれた。


こんなチャンスに巡り会えたのも


きっと東京大学と記されたこのボールペンの魔力のおかげであろう。


帰宅後早速彼女にメールをすると後日食事に行く約束を取り付けた。



なんて事がこのボールペンを持っていたら起きないかなと


帰宅途中の電車の中、見てと言わんばかりに


一人ボールペンを手に取りくるくる廻しながら妄想していた。


数日経ってもそのボールペンは変わらず俺のお気に入りだった。


誰かに見せびらかせたくてしょうがなかった。


だからピアス代わりに耳に刺してみたり、


お箸代わりに使ってみたり、


携帯代わりにもしもしと言ってみたりしたが、


誰も気づいてくれなかった。



そんな中家庭教師のアルバイトに行った。


そこで俺は閃いた。


自慢する相手はもうこの生徒しかいないと。


きっと中学生の彼ならこれを見たら目を輝かせ、


俺を羨望の眼差しで見るに違いない。そう思った。


俺は颯爽とふでばこからボールペンを取り出し、


生徒に言った。


「すげーだろ!このボールペン。東京大学って書いてあるんだぜ。」


さぁ来い!すげーと言う大袈裟のリアクション。そして欲しがれ!


おもちゃ売場でひっくり返りながら駄々を捏ねる少年のように欲しがれ!


もしくはSEXの最中に愛撫だけでは我慢できなくなり、


「お願い、早く、はやくぅ~~~~!!!」


と懇願するメス豚のように欲しがれ!


でもあげないけどな。


俺はこころの中で呟いた。


しかし、生徒は思いの外、


キラキラ目を輝かせる事も


羨望の眼差しも


すげー!欲しい!の一言もなかった。


当然懇願する訳もなく、


ただただ冷静に一言こう言った。





「それ俺のなんだけど。」




What's happenぬ!




そのボールペンは前回指導に来た時に俺が借りたまま誤って


持ち帰ったものと言う事が判明した。


メス豚のように欲しいと懇願したが断られた。