「笑い」について考えてみる | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

人間は笑う。

笑うってなんだろうって考え出すとわからなくなってくる。

なんで笑うんだろうな。どうなったら笑うんだろう。

 

本屋で「漫才の教科書」という本を見つけた。

お笑い芸人養成学校で行なわれた特別授業を書籍化したものだそうだ。

漫才とは何か、漫才師になるには、漫才のネタを作るにはどうしたらいいか、から、売れるにはどうしたらいいか、までが書かれている。

漫才のネタの作り方は、芝居の脚本の書き方に通じるところがあって、なかなか勉強になった。

というかまあ、要するに「オハナシ」を作るという意味ではどちらも同じ道筋をたどるものなのだな。結果が「人を笑わせること」にあるのか、「それ以外のものも伝える」にあるのかの違い。

笑わせる、つまり面白いネタを作るには一定の法則がある。その法則を知ると、なるほど人はこういうことを面白いと思うものなのかということがわかってくる。

この本は主に初心者向けの話なので、作るネタも王道のものを例にあげている。

王道も面白いし、さらにはそこから外れたものも面白い。でも外れるためには王道を押さえなくてはならないし、はずし方にもなにかしらも法則や理由があるようだ。

 

子どもの頃はドリフターズを見ていた。ちょうど「8時だよ!全員集合」の時代だったから。

それ以前は、演芸番組を見ていても理解できず、大人たちが何を笑っているのか理解できなかった。あれはたぶん、背景やら文脈を知らない子どもだったからなのだろう。

その後「ひょうきん族」が始まり、私はそちらへ流れた。何がそんなに面白いのかわからないまま、けっこう夢中で見ていた気がする。

とんねるずが出てきた時も、最初は面白がって見ていた。ダウンタウンはよくわからなかった。

私はウッチャンナンチャン派だった。

でも、いつの間にかそれらの笑いから離れていった。

ドッキリと呼ばれる人を騙して面白がる番組が嫌いで、誰かを痛めつけたり困らせたりして笑っている番組は見ていられなくて見なくなった。

今、好きなのは「細かすぎて伝わらないものまね」で、あれの何を面白いと思うのか考えてみると、人が気づかないちょっとした違和感を取り上げるところに面白さを感じるのだと思う。

歌マネは、最初はすごいと思うものの、あまりにも似ていると次第に興ざめになってくるし、誇張したものまねは何を笑えばいいのかわからなくなってくる。

 

その一方で、東京03のコントのように、演技や関係性から生まれる落差はいつ見ても面白いと思う。

そう、落差、だ。何かしらのギャップだったり、価値観の差だったり、思いの差が生み出す落差が面白いと思う。

 

笑いは差別だという考え方もある。何かを差別して貶める。見下すことで優越感を持つとか、そういうことなのかもしれない。

「見下す」という観念を持ち出すと急に拒否感が湧いてくるんだが、たとえば幼い子の仕草を見て大人が笑うとき、そこには「こんな簡単なことができないのか」とか「拙いやり方だな」と思う気持ちがそこにあって、それでも懸命にやっている姿がそこはかとない優越感をもたらすから「可愛いわねえ」という笑いになるのではなかろうか。そんな意地悪な気持ちは自覚できないけれども。

 

芝居の台本を書いていると、どこかで「面白いやりとりを入れたい」という気持ちが湧く。

言葉を使った面白さなら、だじゃれを入れてみたり、突拍子もない言葉を言わせたりしたくなる。でも、私はそれが下手くそなので、たいていは諦める。もし入れたとしても、実際にやってみてうまくいかなければ削ってしまう。というか、だいたいはあんまり面白くならない。

言葉だけではだめなのかもしれない。最終的にはそれを言う人のキャラクターによるし、演技力にも依る。言葉だけで笑わせるのはたぶんものすごく難しい。

小説のように、言葉だけで構成されているものでさえ文中の一言や文章で笑ってしまうのは、そこまでの積み重ねがあるからだ。

 

とすれば、やはり「笑い」とは、関係性なのかもしれない。

落とし穴に落ちたり、何かを付着させたり(ドロドロの何かとかペンキとかクリームとか)、転ばされたり、叩かれたりして笑わせようとするテレビ番組は、視聴者とその演者との関係性を前提にして作られているのだろうか。(あのタレントがこんな目に遭ってるのが面白いとかリアクションが滑稽だとか)

他人を馬鹿にするとか、貶めることで笑いを取るという行動に、Noと言える雰囲気が少しずつ広がってきている。女性に対するセクシャルハラスメントにも抗議の声をあげることができるようになってきている(もちろん、激しく押しつぶされるけど)。

 

笑いってなんなんだろうな。

突拍子もないことを言ったりやったりすることに対する瞬間的な笑いって、つまりはびっくりしたことに対する反応に過ぎないような気がする。なんだそれ、っていう驚きを笑うことで緩和させているというか。

そういう笑いと、全編を通しての興味深さや面白さは違うんじゃないかと思う。

 

笑いって難しいなー。