ドラマ「幻鏡閣」
第3集
<第3集> 血色人魚(下)
司徒老爺を毒殺して居室に戻った楊尭鶴は、突然背後から襲われた。
ふり向くと婉児が壺を振り上げている。
「気でも狂ったか!?」
「そうよ、狂ったわ! こんな最低の畜生に騙されていたのよ、従兄が黙ってはいないわ! 父を返して!」
もみ合った挙句、激高した楊尭鶴は婉児を床に投げ、張り倒して首を絞める。婉児が手足をバタバタ動かして逃れようとする。
やがて、婉児は動かなくなる。そこまでして、やっと楊尭鶴は我に返った。
「…夫人、死んではダメだ! きみが死んだら、私は金を使えなくなる! …なにか方法を考えなくては」
呟きながらフラフラと居室を離れる。室内には婉児の遺体と、彼女が可愛がっていた金魚が残された。
街を歩いていた楊尭鶴は、いつの間にか幻鏡閣の店内に立っていた。
「あなたが老板娘か。私の願いを叶えてくれ」
楊尭鶴は婉児を生き返らせること、質屋の財産を自由に仕えるよう印章を手に入れることを望んだ。
曼珠は棚に置かれた金魚鉢をのぞき込む。
「分かりました。けれども、タダというわけには参りません」
鏡を覗き込んでいた浅夏は、疑惑の目でとなりの曼珠を見た。
「こんなヤツの金をふんだくったのか?」
「楊尭鶴のお金など、もらいませんよ」
婉児は一尾の金魚を可愛がっていた。実はその金魚には霊性があり、しばらくして鯉魚精と成る。
婉児が惨殺される場面を目撃した金魚は、楊尭鶴が幻鏡閣にたどり着くより前に曼珠に復讐の手助けを頼んだ。曼珠は、楊尭鶴の願いを叶えるふりをして鯉魚精を婉児の姿に変えたのである。
そう、司徒府でほほ笑む婉児も、夜中に浅夏と小七が目撃した女性も鯉魚精であり、楊尭鶴のそばに落ちていた鱗も鯉魚精のものだったのだ。
ところが、楊尭鶴に復讐したい鯉魚精は彼の言う事を聞かない。不満を覚えた楊尭鶴は幻鏡閣に苦情を言いに来た。
「申し訳ありませんが、契約は終了しております」
曼珠はきっぱり断ったが、楊尭鶴に詰め寄られる。
「金ならやる。鯉魚精を殺したら、おまえを私の妻にしてやる」
「危険はごめん被ります」
腕をひと振りして、曼珠は彼を幻鏡閣から追っ払った。
いきなり楊尭鶴はひと気のない夜の街に放り出された。
不意に赤と黒の霧があらわれ、追ってくる。楊尭鶴は恐怖のあまり必死に逃げ回った。
南街小路に入って、急に楊尭鶴が足を止めた。目の前で車いすに座った婉児、いや鯉魚精がほほ笑んでいる。彼女の下半身は赤い魚の尾だ。そして赤と黒の霧が彼女を取り巻いていた。
善悪終有報、天道好輪回。おまえの命運は尽きた!
「鯉魚精の敵討ちか。教えてくれ、幻鏡閣の由来は何だ? 善か悪か?」
「気になります?」
曼珠はにやっと笑った。
<第4集に続く>