別世界への扉はそこに~パンズ・ラビリンス | ひょうたんからこまッ・Part2

別世界への扉はそこに~パンズ・ラビリンス

「パンズ・ラビリンス」
PAN'S LABYRINTH
(2006年・スペイン・メキシコ・アメリカ/119分)PG-12

公式サイト

パンズラビリンス パンズラビリンス
2006年(第59回) カンヌ国際映画祭・コンペティション部門出品
2006年(第44回) ニューヨーク映画祭・クロージング作品
2006年(第22回) インディペンデント・スピリット賞(作品賞・撮影賞ノミネート)
2006年(第32回) LA批評家協会賞美術賞受賞
2006年(第73回) NY批評家協会賞 撮影賞受賞
2006年(第41回) 全米映画批評家協会賞 最優秀作品賞受賞
2006年 ボストン映画批評家協会賞外国語映画賞・撮影賞受賞
2006年 スペイン・ゴヤ賞 7部門受賞 
(脚本賞・新人女優賞・撮影賞・特殊効果賞・編集賞・音響賞・ヘアメイク賞)
2006年 ワシントンD.C.映画批評家協会賞 外国語映画賞受賞
2006年(第64回)  ゴールデン・グローブ賞(最優秀外国語作品賞ノミネート)
2006年 全米映画批評家協会賞最優秀作品賞
2007年(第79回) アカデミー賞
外国語映画賞・脚本賞・美術賞・撮影賞・メイクアップ賞・作曲賞ノミネート
うち3部門受賞
撮影賞(ギレルモ・ナヴァロ)
美術賞(エウヘニオ・カバレロ、ピラール・レブエタル)
メイクアップ賞(デビド・マルティ、モンセ・リベ)
2007年 メキシコ・アカデミー賞 9部門受賞
(作品賞・主演女優賞・監督賞・美術賞・撮影賞・衣装賞・メイクアップ賞・作曲賞・特殊効果賞)

<監督>ギレルモ・デル・トロ
<脚本>ギレルモ・デル・トロ
<撮影>ギレルモ・ナバロ
<美術>エウヘニオ・カバレロ
<音楽>ハビエル・ナバレテ
<音響>マルティン・エルナンデス
<特殊効果>カフェ FX
<特殊メイクアップ>ダビド・マルティ、モンセ・リベ
<キャスト>
ヴィダル: セルジ・ロペス
メルセデス:マリベル・ベルドゥ
オフェリア:イバナ・バケロ
パン/ペイルマン:ダグ・ジョーンズ
カルメン:アリアドナ・ヒル
ドクター:アレックス・アングロ
ペドロ:ロジャー・カサメジャー
カザレス:フレデリコ・ルピ
カーセス:マヌエル・ソロ


その世界を体験できるのは、悲しみを知った心だけ。

ダークに彩られた異色のファンタジー。
以下ネタバレ

自由に夢を描くことが許されなかった時代、
夢の
世界を冒険する者に与えられたのは、試練と痛みでした。

内戦の時代、暗く閉ざされた現実の中で少女が見たのはただの夢?
あるいは迷宮を照らす希望の灯火だったのでしょうか・・・。
1944年。
スペイン内戦後の時代は混沌としていました。

フランコ政権の圧制にあえぐ人々が今なお命がけのゲリラ活動を展開し、

その彼らを鎮圧すべくゲリラが潜む山間地へと赴いたビダル将軍

戦地で勇名を轟かせた父の名を誇りに、ビダル将軍の弾圧は冷酷を極め、

彼の前では人の命など紙切れほどの重みもありませんでした。

彼と実母カルメンとの再婚で、

残忍な男を義父に持つことになった少女オフェリア

この義父に憎しみしか感じないオフェリアでしたが、

皮肉なことに母の胎内には、

すでに憎い義父の血を受継いだ弟の命が宿っていました。

ある日オフェリアは不思議な姿の昆虫に誘われ

パン(牧神)と言う妖精の住む迷宮へ足を踏み入れることになります。

そこでパンから、

オフェリアは地底の魔法の王宮のプリンセスであると教えられます。

地上で記憶を失った地底の王国のプリンセス・・・。

幼い頃から親しんできた童話の主人公が自分だったとは!?

満月の夜までに3つの試練を耐え抜くことが出来れば、

オフェリアは地底の王宮に戻ることが出来るのです。
しかし、その試練はオフェリアにとって過酷なものでした。

さらに現実世界でも辛く恐ろしいことばかりがオフェリアを襲います。

闇の時代に突如姿を現したラビリンス。

それはファンタジーの世界への入り口、
辛い現実から異次元の世界へと続く脱出口。

白い兎ではなく、不気味な虫に誘われて迷宮に入り込んだオフェリア

彼女はダークサイドファンタジーの世界に住むアリスなのです・・・。

トランプの女王に首を切られそうになって目覚めたアリスよりも、

もっと理不尽な現実が、もっと非情な「結末」が、彼女を待ち構えているのです。

彼女が現実世界で迎えた結末を物語の最後と考えるなら、

この物語は悲しみに満ちたものになり、そこに救いはありません。
そしてそれがこの世の真実、

この世に厳然と横たわる無情なのかも知れません。


意識を失う寸前にオフェリアが見た世界は、

つかの間の夢、あるいは彼女が最後に見た幻だったのでしょうか。

せめて私は思いたいのです。

多くの苦痛と困難を乗り越えたオフェリアは、

ついに彼女が居るべき場所に帰ったのだと。


うっかり予告映像に騙され、勘違いするところでした。

これは決して子供向けにパステルカラーで彩られた物語ではありませんでした。

この世界で描かれている現実は痛いほど辛く、

迷い込んだ夢の世界にさえ、

主人公の少女の心が安らぐ場所はありません。

地底の王国のプリンセスが憧れた地上の世界は、

確かに明るい日差しに満ちてはいましたが、

人の心が生み出す闇はそれ以上に暗く濃かったのです。

自分の住む平和な地底の王国を飛び出し、

地上に潜む闇の世界に足を踏み入れてしまったプリンセス。

彼女が元の世界の記憶を失ってしまったとしたら、

もうこの世界の毒に半分汚染されてしまっていたのかも。

気の遠くなるような時を経て、

生まれ育った地底の国へ帰る為には、

その「汚れ」をぬぐい去る為にも、

人一倍恐ろしい試練を受けなくてはならないのかも知れません。

現実世界で彼女を待ち受けるのは、血塗られた日々です。

冷酷無比な義父の魔の手にかかり、

善良な人々・無実の人々が命を失ってきます。

ついには愛する母親さえも失い、

天涯孤独になった少女に残されたのは赤子の弟。

どう見ても外見が恐ろしいパンと、妖精たち、

彼らとの最後の取引の中で少女が勝ち得たものは何だったのか。

それは自己の利益・自分の命を捨てても、

愛すべき者の命を守ろうとする勇気だったのかもしれません。


個々の利益を守るために争いは起こります。

この世に争いが永遠に続く限り、

この作品のような血なまぐさい現実が今も何所かで繰り返されているのです。

作品の中に登場する痛々しいシーンの数々。
当初はそのシーンが存在するがゆえに鑑賞を躊躇いました。
悲しみと痛みに彩られたこの作品の描写・世界観は、
確かに切ないまでに強い胸の痛みを私に与えました。

それでも何故か、

オフェリアが最後に一瞬見せた勝利の微笑みの表情が、
この作品の中で最も強く私の印象に残りました。

生命の輝きが徐々に失われていく暗い瞳の中に、

圧制に屈しなかった大勢の人々の魂の勝利と歓喜の色が、

きらりと光って見えたような気がしたからです。


数々の賞を受賞した実力を物語る表現力が、そこにあります。

過激な描写よりも、

圧制に屈しないメルデセスや医師たちの凛とした姿勢、

ファンタジーを彩る切ないストーリーや、

ラストに描かれた世界がより心に印象を残しました。

同じように圧政下と言う時代背景で描かれたファンタジーに

『ブラザーズ・グリム』 がありますが、

作品としては、はるかにこちらが深いと思います。

DVDで観る前に、劇場で鑑賞しておきたい作品のひとつです。

最初は怖いだけだったパンが、最後はとても優しく見えました。

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