蛇性の婬02 | 陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

この部屋の中にいるヤツに会いたいのなら もっと、寿命をのばしてからおいで

安吾や谷崎において死体は桜の木の下に埋まっているように、龍之介において死体は水底に沈んでいるのである。

彼の身体は死んでいるから、濡れている


・にわか雨とともにどこからか現れる

・夢の中で豊雄と契りを交わす

・盗品の宝物を豊雄に与える


・真女児の屋敷が廃屋に変じている

廃屋を屋敷に見せかけるような幻想に豊雄を迷わせる

魅惑、蠱惑

変身、とりつき

「トリック」

けふはことになごりなく和たる海の。暴に東南の雲を生して。小雨そほふり來る。

しばしまどろむ暁の夢に

午時かたふくまで尋労ひたるに。かの了鬟東の方よりあゆみ來る。

鼠の糞ひりちらしたる中に。古き帳を立て。花の如くなる女ひとりぞ座る。くまかし女にむかひて。國の守の召つるぞ。急ぎまゐれといへど。答へもせであるを。近く進みて捕ふとせしに。忽地も裂るばかりの霹靂鳴響くに。許多の人迯る間もなくてそこに倒る。然見るに。女はいづち行けん見えずなりにけり。


豊雄をだます

驚きを与える



性、動物、エロス

身体の醜さ、グロテスクさ

異形、異なるもの、排除されるべきもの

人間ではないもの

魔性

虎としての真女児

人と共に生きることができない野生

水の底に引きずり込む力

異質な世界に入っていく


・役人が真女児を捕えようとすると、突然地が裂けんばかりの雷鳴がして、姿がかき消えてしまう


・結婚後、毎夜のごとく契りを交わす


・行者に正体を見破られるやいなや、真女児と下女のまろやはたちまち躍りあがって滝に飛び込んだかとみえたが、そのまま滝の水が沸騰して空に舞いあがったかと思うと、天は真っ暗になり凄まじい雨が降り始めた

翁渠二人をよくまもりて。あやし。此邪神。など人をまどはす。翁がまのあたりをかくても有やとつぶやくを聞て。此二人忽躍りたちて。瀧に飛入と見しが。水は大虚に湧あがりて見えずなるほどに。雲摺墨をうちこぼしたる如く。雨篠を乱してふり來る。


・富子の顔かたちのまま声だけが真女児となり脅迫をする

これはけっこう恐ろしい経験である


・払い鎮めようとしにきた鞍馬寺の僧がその毒気にあたり身体中が焼けたようになって死んでしまった

・法力によって封じられたのち、真女児は三尺ほどの、まろやは一尺ほどの白蛇の姿をあらわした



蛇の化身



天候の制御、毒、水神

脱皮、死と再生

鱗身と閉じられない瞳

丸呑み、貪欲、酒豪

這い回る

嫉妬


三竦みの一、蛞蝓、蛇、蛙


蘇生、吸血

殺人、亡霊

嫌悪、不吉、禁忌、祟り


雲が立ち上る

雨が降る

雷が落ちる

幻想とまやかし

幻視、錯覚

美、悪女、一途

とり殺す

憑依死

蛇の如く蛇行しつつ伸びてゆく線

境界、道


水、身体、毒


憑依、肉体、言語、生命の侵犯

同じ肉体別の精神


雨水滝

濡れている身体


神威的なもの

交尾脱皮

雷光、空かける蛇

稲の妻


異世界境界

異質さ

人間界からのはみ出しもの

異質なものとの共生

虎のようなもの


性を通じて幻視される力

呑み込む力


ひも、絞め殺す、結び合わせる

断ち切ること

黄金の太刀


蛇腹、まきつき、執念

追跡、因縁


失楽園

自由

家族を作る


不死、復活、永遠


女の視線

糸屋の娘は目で殺す

心を奪う

魅入られる

娼婦性と母性幻想


裏切りと復讐

マナゴは豊雄に裏切られてしまう

その復讐として追跡してくる


豊雄の正確

生長優し

都風たる事を好む

風流なことを好む

過活心なかりけり


上下の移動

水平移動

紀州三輪が崎

大和石榴市泊瀬寺

吉野

紀州


封じ込める

共生


蛇、なぜ蛇なのか

蛇は日本の古来からの幻想、印象が降り積もっている

その総合

連想


マナゴはその正体はじつは白蛇である

白蛇の化身がマナゴである

なぜ白蛇ではいけないんだろう

豊雄は親父から「徒者」と呼ばれてしまうくらい、親に依存しているパラサイトシングルであった

それが、学問の師のところへの帰り道に、あたりで見たことのない美人に出会う

マナゴは、トリックによって、豊雄に、幻影をみせる

白蛇が美女に見える

そのとき、その美女の姿、イメージは、豊雄にとって、都合のよいものであるにちがいない

豊雄は親への依存によって生きているのであって、肩身が狭かったのではないだろうか

だから、宝物を与える美女、それも若い未亡人でちょっと敷居が低い、後ろめたさが減じる

手が出しやすい女として、マナゴは演出するのである


マナゴはなぜ豊雄をねらったのだろう

自活している兄でもなく、ほかの男でもなく、パラサイトシングルとしての豊雄をねらった

翁は「かれなんじがかほよきにたはけてなんじをまとふ」つまり、きみがイケメンだからまとわりついたんだよという

この点、意外と純愛なのである


冒頭、なぜマナゴは豊雄に黄金の太刀をもたせるのだろうか

それがなければ、盗品としての太刀がなければ、豊雄が役人に逮捕されることもなかったわけだ

なぜだろう

前夫がこの上ない宝として愛玩した太刀であるからいつも身に付けよという

夫として認める証ということだろうか


断ち切ることをしない


マナゴの能力を考えよう

ひとつは天候を操る力

ひとつはひとにとり憑く霊的な力

ひとつは美女の姿をあらわす変身・幻影を見せる力

毒によって殺す力


また、結婚後のふたりの性行為を隠喩的に描写した箇所では、「葛城や高間の山に夜々ごとに立つ雲も、初瀬の寺の暁の鐘に雨収まりて」という表現がとられている

雲の隆起と降雨が性行為の隠喩とされている



異形なもの

異種混交譚


これが結局どういう話であるのかというと、

蛇に魅入られる話

豊雄というダメな男がいて、理想の女がやってくる

都合よく結婚したがじつは蛇だった

蛇によって幻想を魅せられた男

豊雄は結局、だめなままであったのか

結婚した相手も死んでしまう

マナゴも封じてしまう


豊雄はその世間的立場から、結局、マナゴを封じ込めるという決断をする

そうでなければ命が危ないと、法師にいわれるからだ

しかし、そもそも豊雄は、彼の属する世間という制度のなかにあって、従属的な位置に置かれている人間である

たしかに何不自由なく学問をさせてもらえるボンボンである、しかし、そこには自由がない

兄が家を継ぎ、お金をだしてもらっているが、兄も、これまで無駄遣いと思える学問の費用も、オヤジがだまっていればこそ出してやっていたが、という

依存していればこそ、いつそこから追放されるかわからない不安定な立場であることが宝物窃盗事件で判明する

彼らの住む世界においては、人様のものを盗ったら庇えないのである

太刀は、豊雄のじつは不安定だった生活の条件を露呈し断ち切ってしまう