龍之介10 | 陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

この部屋の中にいるヤツに会いたいのなら もっと、寿命をのばしてからおいで

「おれに何の罪があるか? おれは彼等よりも強かつた。が、強かつた事は罪ではない。罪は寧ろ彼等にある。嫉妬心の深い、陰険な、男らしくもない彼等にある。」


変心、棄教、転向
勿論彼が背盟の徒のために惜んだのは、単に会話の方向を転じたかったためばかりではない、彼としては、実際彼等の変心を遺憾とも不快とも思っていた。が、彼はそれらの不忠の侍をも、憐みこそすれ、憎いとは思っていない。人情の向背も、世故の転変も、つぶさに味って来た彼の眼から見れば、彼等の変心の多くは、自然すぎるほど自然であった。もし真率と云う語が許されるとすれば、気の毒なくらい真率であった。従って、彼は彼等に対しても、終始寛容の態度を改めなかった。まして、復讐の事の成った今になって見れば、彼等に与う可きものは、ただ憫笑が残っているだけである。それを世間は、殺しても猶飽き足らないように、思っているらしい。何故我々を忠義の士とするためには、彼等を人畜生としなければならないのであろう。我々と彼等との差は、存外大きなものではない。――江戸の町人に与えた妙な影響を、前に快からず思った内蔵助は、それとは稍ちがった意味で、今度は背盟の徒が蒙った影響を、伝右衛門によって代表された、天下の公論の中に看取した。彼が苦い顔をしたのも、決して偶然ではない。


放埒
如何に彼は、この記憶の中に出没するあらゆる放埓の生活を、思い切って受用した事であろう。そうしてまた、如何に彼は、その放埓の生活の中に、復讐の挙を全然忘却した駘蕩たる瞬間を、味った事であろう。彼は己を欺いて、この事実を否定するには、余りに正直な人間であった。勿論この事実が不道徳なものだなどと云う事も、人間性に明な彼にとって、夢想さえ出来ない所である。従って、彼の放埓のすべてを、彼の忠義を尽す手段として激賞されるのは、不快であると共に、うしろめたい。


このかすかな梅の匂につれて、冴さえ返る心の底へしみ透って来る寂しさは、この云いようのない寂しさは、一体どこから来るのであろう。――内蔵助は、青空に象嵌をしたような、堅く冷たい花を仰ぎながら、いつまでもじっと彳んでいた。

佇立、梅花


盗人
羅生門、偸盗、報恩記、鼠小僧次郎吉


永遠に超えんとするもの
ジャアナリズム?
野人生
出来上がった人
今昔物語鑑賞
点心


犀星、漱石、芭蕉、キリスト
狂人
自己解放、反逆の精神
謀反論
ピカレスク・ロマン
本是山中人
義仲論、羅生門、忠義、素戔鳴尊、将軍、河童、芸術その他
老いたる素戔嗚尊
交野平六
太郎と次郎


沙金
開化の良人、開化の殺人、袈裟と盛遠、疑惑、邪宗門


身体
面皰・手・足
疱瘡


老婆
猿・鴉・蟇
妖婆、奇妙な再会、妙な話、アグニの神、運


濡れる身体
芋粥、鼻、戯作三昧、河童

水死体幻想
沼、蜃気楼、尾生の信、大導寺信輔の半生、奇怪な再会、ひょっとこ、妖婆


狂気
分身
ドッペルゲンガー
二つの手紙、影、歯車、未定稿「凶」、西郷隆盛
路上
或阿呆の一生
幻覚、不安
蜃気楼、近頃の幽霊


病、老い
玄鶴山房、病床雑記、病中雑記
老狂人、老年、一塊の土、母、黒衣聖母