インペルダウンとドラムロック | 陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

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酒屋正面に設置された自販機の角を左折して、閉店したレストランの前の横断歩道を渡る。

自転車置き場の脇を抜けて自動ドアをくぐる。

うすぐらい階段を下って、本屋さん。

でも今日は急いでいたので横目で眺めただけ。


そういえばインペルダウンの…とワンピース話。

インペルダウンの第五階層って極寒地獄だったよね。

うん、で、ボンちゃんが瀕死のルフィを橇に乗せて凶暴なオオカミの住む森の中へと引きずっていく。

なんとかオオカミは退けるもののボンちゃんもダメージを負いすぎてダウンする。

極寒の地でついに進退が窮まる。

この絵ってどこかで見たよなーと引っかかっていたんだけど、やっとわかった。

これはドラム王国でルフィが気を失ったサンジとナミを運ぶシーンの反復なのだ。

ルフィはドラムロックをかろうじて乗り切るもののついに進退が窮まる。

これはなんなんだろうか。


マンガってなんだろう。

いろいろ説明できるだろうけれど、そのひとつの性質としてほとんど「なんでもアリ」な、自由な想像力が挙げられるだろう。

ワンピースにおいてはゴムゴムの実を食べたゴム人間だからゴムのように身体が伸び縮みするんだって、しないでしょ。

あるいはこれは目をつぶっても、もう60巻も話が続いているのだから、あんな無茶な戦闘を続けていたらいつか負けるでしょ。

こういうような元も子もないツッコミが来たらどうするか。

これはマンガだからこれでいいんだと言い返すだろう。

ゴム人間なんていないね、という突っ込みは、「いや、これはマンガだから」っていう抵抗を対置することによって退けられる。

現実世界ではありえないなんて知らないね、これはマンガなの。

うん。


けれども、これは諸刃の剣であるだろう。

マンガはマンガ、現実は現実、とかちっと分節してしまうと、マンガ世界内の言葉や出来事は、現実世界に住む読者に届かなくなってしまう。

ほんとうになんでもアリなら、困っている人を救わなくてもわるいやつをやっつけなくても、スイッチ一つで解決されてしまうだろう。

これはなんでも解決スイッチなんです。


インペルダウンとドラムに共通するのはいずれにも「医者」、現実との紐帯たるキャラクターの生身の身体に触れることのできる人物が登場する点である。

医者が登場するということは、医者がいなければその人物は助からないということである。

医者がいなくても助かるなら、医者が登場する必要がない。

エースの死は、少なくとも、医者としてのイワさんが登場したときに決定されたんじゃないかとぼくはおもうのである。

マンガ世界内にふたたび身体=現実界が侵入してきたからである。


もうひとつ、ワンピースにおける最果てとしての雪景色説。

なぜ第五階層が極寒地獄なのだろう。

べつに第四階層が極寒地獄で第五階層が砂漠地獄でもいいんじゃないだろうか。

たぶん、これには理由があるんだとおもう。

極寒=雪景色は背景が白い。

ワンピース世界では、死にかけると背景が白くなり辺りが静かになってくる。

具体的にはアラバスタでゾロがダズ・ボーネスに負けそうになったときだ。

世界がシンプルになり時間の流れがゆっくりと感じられるようになると死のボーダーが近づいている。


で、だからたぶんラフテルはすごくシンプルな島であるだろうとおもう。


もうひとつ。高さについて。

たぶんワンピース世界においては高さは権力の軸であって、距離の軸ではない。

いままでの「高いところ」は空島とマリージョアだけれどもいずれも寒くない。

寒くないってまあぼくが言ってるだけなんだけど、でも空島ってあんまり遠い感じがしないとおもうんです。

鐘を鳴らして音が届き、ブロッケン現象で影が届くんだからね。

それよりも、たった5000mのドラムロックやインペルダウンのほうがずっと遠く感じられる。

ああ、もう助けを呼ぼうにも仲間たちは遠すぎてメッセージがとどかねえなあと思いながら、ルフィとボンちゃんは倒れるのである。

高さは無化されるけれど遠さは無化されない。


書いていたらちょっと長くなったので久しぶりに読書テーマに分類してみる。