五里霧中という言葉がある。
…まあ、一寸先は闇でもいいんだけどさ。
君は操舵手だ。
君が乗る船はひどい目に遭って、
病気が蔓延し食料は底をつき、
ディテールはどうでもいいんだけど、
かろうじて君だけが動くことが出来る。
他の乗組員は使い物にならないんだよ。
全くあいつらったらって君は思うかもしれない。
それで、もう船はオロオロしてさ、どうしようもなくなる。
世界にはそういうことってあるんだよ。
どんなに万全を期しても、
そういうどうしようもなさみたいなものってさ、
どこからかほころびを見つけ出して、
もぐりこんでくる。
そういうものなんだ。
で、オロオロする。ちょっと泣く。
まあ仕方ない。な。
でもさ、君は運が良かった。
見えたんだよな、これがさ。
バカみたいなんだけど、一方ではそういうこともある
らしいんだ。
今度は「捨てる神あれば拾う神あり」っていう言葉でいいだろう。
昔の人はなんでももう用意しているらしい。
滲んだ君の瞳にはさ、
ハーバーライトの灯りが確かに見えた。
まさか。
でも、偶然が君をこの土地に導いてくれたなら、
俺は救われるだろうって。
言うんだよ。ハーバーライトは!
そして、そういうときって、傍からはきっと、
君の船はまっすぐに進むように見えるだろう。
まっすぐに進むように見えるだろう。
霧も、闇も、クソもないんだ。
決意と確信が船の舵を取るんだよ。
あたかも、見えない糸を手繰り寄せるかのように。
*
ねえ。
ぼくは、絶対自分が聞き間違えたと思ったんだよ。
まさか、そんなのってないぜ。
わからないな。ぜんぜん、わからない。
え、なんだって?
聞こえないんだよ。電波状況が最悪でさ。
まるでコートの衿を立てて話してるみたいなんだよ。
砂嵐…砂嵐?
でも、うん、ぼくは、雪かき仕事って言葉の重さを
痛感したな。
本当に、誰もやろうとしないんだぜ。
そうか。そういうものなのかもな。
ぜんぜん、ぼくが間違ってるんだろうな。
「本当は」、さ。
でもさ、ぼくたちは、そうやって続いてきたんだぜ。
500万年前から今日の日まで。
なあ。じゃあ、誰が、ハーバーライトを守るんだろう。
誰が、ぼくを呼んだんだろう。
聴こえたんだよ、ぼくの耳にはさ。
確かに誰かさんの声がさ。
仕方がないんだよ。
ぼくは聴いた、ぼくはふり向いた、ぼくは見た、
ぼくは選んだ。
そういうものなんだ。
物事はいろいろ移り変わるよ。
でも、ほら。
もしもし?
…なあ、切ってくれるなよ。