(自称)井戸ほりの穴熊さんと、シヤクショッポイノン。 | 陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

この部屋の中にいるヤツに会いたいのなら もっと、寿命をのばしてからおいで

「Congratulations!

あなたは帰りのチケットを手に入れました。」


機械っぽい、キンキンと硬質な響きの音声が流れた。

僕は、虹色の光の渦に包まれていて、とてもじゃないけれど

目を開けていられなかったんだ。


僕は、足元の紙切れについていた土を払って、拾い上げた。


「すばらしい!努力が報われる瞬間というものは、時空を超えて

美しいと思うよ。」


紙切れはボロボロで、ところどころ穴があいている。

黒いシミが虫の這ったようになっているのは、文字らしく思える

けれど、残念ながら全く読めなかった。


「君が文無しの片道切符、ぷらり自分探し旅でここに来て、

枯れ井戸にもぐりこんで穴を掘り出したときには、ついに「君」が

意味消失してしまったのだと思ったよ。」


僕は、これからどうすればいいのだろう、と言った。


「まず、喜ぶべきだ。」


僕はスコップを投げ捨てて、空を見上げた。

針のように小さな穴から、一筋の光が下がっている。


僕はそれに向って、腹の底から叫んだ。


うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


「素晴らしい!」


僕はひっくり返った。

腕で、額の汗をぬぐう。


「次に、そうだなあ。UFOをよぼう。」


僕は立ち上がって、空を見上げた。

針のように小さな穴から、一筋の光が下がっている。


僕はそれに向って、腹の底から叫んだ。


ディディディー!ディディディー!ディーディ、ディディ、ディディディー!


「やあ、呼んだかい?」


僕はひっくり返った。


「じゃあ、お疲れ、ヘンナノン。ばいばい~。」


まった!ばいばい~じゃない。


「なんだよ、もう眠いんだよ」


僕がヘンナノンだとすれば、お前なんかシヤクショッポイノンだ。


「なんでシヤクショッポイノンなの?」


親切かと思えば、急に冷たくなったりする。

お前は猫のめんたまか!

それに、僕はヘンナノンじゃない。

僕は、…そうだな、強いて言えば、井戸ほりの穴熊さんだ。


「わかったよ、ヘンナノン。僕はシヤクショッポイノンでいいよ」


そういうことじゃないんだけれど、僕はすぐに諦めがついた。

それというのは、初めから、一応手続き的にそういった抗議の言葉を

口にしてみただけであったからで、手続きとは一体どういう手続きで

あったのかというと、諦めるための儀式のようなものであった。

一応口に出してみることで、諦めもつくものだってことだ。


「で、君は今、まず第一にこの穴からの出方を知らない。もしかしたら

ここから二度と出られないんじゃないかと心配で心配で、禿げそうな

くらいである。」


そんなことはないよ。僕は人格が完成しているから、それしきのことで

驚いたり、悲しんだり、動揺することはない。

ただ、出られない、と言うんだ、と僕は言った。


「うん。大丈夫。別にそんなことは大した問題じゃない。穴から出ないのが

穴熊であって、穴から出られないのが穴熊というわけじゃないからだ。

ほら、ここはもう井戸の外。」


僕は荒涼とした大地の真ん中にいた。

そばには、枯れ井戸X。


「悪いことは全部終ったさ。全部、終ったんだ。」


僕は言った。

悪いことは全部、終った。大丈夫さ。大丈夫、大丈夫。