おばけの話し | 陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

この部屋の中にいるヤツに会いたいのなら もっと、寿命をのばしてからおいで


どうも、ひょろです。

毎日暑いですね、もうすっかり夏で。

夏まっさかさりですね。


なんだか今年は、例年と違って変な夏だそうです。


気圧配置って言うんですか、それがなにやら

おかしなことになってるそうで、何とか気団が

どうのって言って僕にはよくわからないけれども、

山口や九州北部では雨が滝のように降って、

ホントに心配なことになってますね。


でね、僕も、今年の初夏の頃のことですが、

通り雨がざざっと降った日の昼下がりに、

ちょっと涼しくなるような出来事にあったんです。


おばけ。


おばけというと、でろでろでろ~と、BGMがなって、

うらめしや~なんていうステロタイプなものを

想い起こします。

でも、こんなんじゃ僕は怖くないですよ。

もう対策知ってますからね。

裏が飯屋なら表は豆腐屋か?なんて言ったら、

もう笑い話ですから。怖さなんて飛んでいきますね。


じゃあどんなおばけなら怖いのか。

そうですね、やっぱり思いもかけないような、

予想を裏切るようなおばけなら怖いですね。

こっちは対応できませんからね、問答無用で、怖い。


しかし、でろでろでろ~と鳴り始めたら、もうね、あっ来たな、と。

ああ、そうですか、おばけが来る、なーるほど。

わかっちゃいますもんね。

おばけはさぞかし怖いのだろうとおもって、で、いざ出てくると

あら、そうでもないかもな、と肩透かしですよ。


だから思いもかけないような時に来ると、あれ、今来るのか?

となって、怖いんじゃないかと思うんです。

ちょっと待ってくれ。えぇ、今来ちゃったの、ってのが怖い。

普通じゃないですから。


真夜中にお墓の真ん中を歩いてたら、そりゃおばけも出ますよ。

向こうはもう、そこが生活圏ですから。ホームグラウンドですよ。

例えばね、動物園に行って、うわ虎だ、猛獣だ!となっても、

そりゃあズーですから。ズーだからアニマルいなくてどうするの。


だから、え、ここですか、今もう来てる、うそでしょってのが、

ゲリラで来られると、これはすごいことですよね。


で、僕はなんだかまぶたが重くなるような初夏の昼下がりに、

雨上がりのベンチに座ってたわけです。

それはいいんですが、近くにちょっと古い建物があった。

コンクリート作りの、どこにでもあるような、何の変哲もない

ような、こういっちゃなんですけど普通のビルですね。

ただ、ちょっと奥まったところにあって、廊下が少し暗い。


まだ梅雨ではないですから、なんていうんでしょうね、

あの、初夏独特のぼんやりとした感じというんですか、

あの雰囲気の中で、しかもお昼ですよ、いくらなんでも、

おばけはないだろうと。


夕暮れ時で、山奥のお寺にいるとかじゃないですからね、

お昼ですから、そういうものが入って来るような余地は、まるで

ないんですよね。


いや、さすがに、ちがうでしょう。

ここでは僕は安心してていいはずなんです。

もう完全に油断してるわけですよ。

いやー、ここでおばけはないでしょう、とかもう言ってる。


僕はそのすこし薄暗い廊下を通って、トイレに行きました。

けれども、なんだか誰もいない。誰にも会いません。


戸を開けて入ってみると、トイレもちょっと古い感じです。

これは夜に来たら、そりゃね、おばけも出るかもしれない。

もう十分に考えられますね。だから夜にはでろでろとか

BGMがかかってるかもしれません。


でも、昼ですから、ああ残念だな、会えなくてとか言って

それだけです。


僕は便器に向って、いや、うん、おばけじゃないな、とか、

ちょっとだけ言います。けどそろそろおばけにもちょっと

飽きてきて、もう黙る。油断も頂点にきています。



そして、ふり向いたら、うわぁっ!


と思ったら、気づかないうちに人がいたわけですよ。

こっちは、おばけおばけとずっとぐずぐず考えているわけだから、

ふり向いてそこにいるかもしれないのは、おばけなんですよ。


だから、ふり向いた瞬間、そこにはいきなり、真昼に、ゲリラ的に、

おばけだーーーー!ってなって。

こっちは、そんなバカな、そんな簡単におばけには引っかからないぞ、

と思い込んでますから、逆に、引っかかったら、それはもうおばけ。

でも、よくみるとただのおじさんで、あれ、足もある。


僕はホントにちょっと飛び上がってしまって、めちゃくちゃ決まりが悪い。

で、なんだか、ごめんなさいと謝ってしまいました。

それから、僕はちょっと待て、と自分に言い聞かせます。


いや、真昼におばけはないでしょう。


おばけの話し。