モン族の村
サンクラブリの町から徒歩で2、30分。
タイで一番長い、最古の木造橋だという橋を渡って対岸へと渡る。サンクラブリで生活する人々にとっても、毎日行き来する重要な橋。荷物を持った若者や大きな袋を持ったおばあちゃん、何やら楽しそうに騒ぎながら歩く子供たち。穏やかな湖と穏やかな人々の姿を見ながら、ゆっくりと橋を歩く。
対岸に渡ってしばらく奥の方へ歩いていくと、そこには小さな村があった。
未舗装の土の道の両脇に、数件の家々が並んだ小さな村。
少数民族モン族の村だ。
湖のほとりにあるその村の道はわずか100メートルくらいの一本道。道路脇では村のお母さんたちがお菓子を食べながら世間話をしたり、周囲では子供たちが走り回っている。
試しに村の中ほどへ足を踏み入れてみると。
「なんか変な人が来た・・・・・・」
怪訝そうな顔でちらちらとこちらを窺いながら笑顔を見せることもなく、近寄ってくるどころか、こちらがそこにいることさえ煩わしそうな様子に見える。
100メートル歩いて湖を少し眺めた後、振り返って今来た道をゆっくりと戻る。
ちょっと気まずかった。そのまま立ち去ることも考えたが、なんとなく気まずいままこの場所を離れるのが嫌だったので、僕は村人たちに思い切って話かけてみた。
「こんにちは。ニプン(日本)から来ました」
最初、眉間にしわのよった険しい顔をしていたお母さんたちと、家の玄関の淵に隠れていた子供たち。
一瞬、顔を寄せ合った後、プっと吹き出して、
「にぃっぷぅぅん」
日本だってぇ、といった感じで笑い始めた。
なぜ笑っているのかはわからないが、一人、二人が笑顔を見せてくれたのを機に、子供たちも、それまでちょっとした「恐怖」にも似た気持ちだったものが、今度は「興味」に変わったのか、みんな遠慮もないほどに僕に寄ってくるようになった。
たった100メートルの一本道、たった一言話しかけてみたことで、ガラっと展開が変わった。
それからはもう気持ちがひき込まれるばかりで、僕はこの村に何日も何日も遊びに来たくなった。
それもそのはず。
やっぱりこの村にも、きらきらと輝く目を持った子供たちがいたのだ。
いたずら坊主たちも。
村一番のやんちゃ娘、そして村一番のお嬢様も。
この小さなモン族の村の子供たちは、この僕をいとも簡単に打ちのめしてくれたのだった。