シーザーを殺した理由をローマ市民に向かってブルータスが演説します。それは群衆の理性に訴えるものでした。群衆は納得します。

その後で、暗殺者たちを悪く言わないという条件でアントニーが弔辞を述べることが許されています。ブルータスが許可したからです。キャシアスは反対でした。そんなことを許したら、節操の無い民衆はアントニーに口車に載せられると恐れたからです。それどころかキャシアスはアントニーもシーザーと一緒に葬りたかったのです。しかし、アントニーなんてシーザーの手足のような存在で、シーザーという頭が無ければ何もできないと、アントニーを侮ったブルータスが殺させませんでした。しかしキャシアスの考えは正しかったのです。この2点がブルータスの決定的な過ちであったと、直ぐにわかることになります。

 

壇上に立ちアントニーが語ります。この場面がこの劇のクライマックスなので、かなり長いですが、途中で入る市民1,2,3,4などの野次や合いの手は省略して全部載せますね。

 

第三幕第二場

Friends, Romans, countrymen, lend me your ears;

わが友人、ローマ市民、同胞諸君、耳を貸してくれ。
I come to bury Caesar, not to praise him.

わたくしはシーザーを葬るために来た、讃えるためではない。
The evil that men do lives after them;

人のなす悪事は、その者の死後も生き続け、
The good is oft interred with their bones;

善行はその者の骨と共に埋められるものだ。
So let it be with Caesar. The noble Brutus

だからシーザーの場合もそのようにしよう。高潔なブルータスは
Hath told you Caesar was ambitious:

諸君に語った、シーザーが野心を抱いていたと。
If it were so, it was a grievous fault,

もしそうなら、嘆かわしい過ちであった。
And grievously hath Caesar answer'd it.

そして嘆かわしいことに、シーザーはその代価を支払った。
Here, under leave of Brutus and the rest—

ここに、ブルータス及びその仲間の諸氏の許可を得て、ー
For Brutus is an honourable man;

と申すのも、ブルータスは清廉潔白な人物であり、
So are they all, all honourable men—

仲間の諸氏も全て清廉潔白な方々ばかりであるが故ー
Come I to speak in Caesar's funeral.

わたくしはシーザーの追悼の辞を述べるために来た。
He was my friend, faithful and just to me:

彼はわたくしの友であり、わたくしには誠実で公正であった。
But Brutus says he was ambitious;

だがブルータスは彼が野心を抱いていたと言う。
And Brutus is an honourable man.

そしてブルータスは清廉潔白な人物である。
He hath brought many captives home to Rome

彼は沢山の捕虜をローマに連れ帰り、
Whose ransoms did the general coffers fill:

その身代金は国庫を満たした。
Did this in Caesar seem ambitious?

このことでシーザーに野心があるように思えたか。
When that the poor have cried, Caesar hath wept:

貧しい者たちが泣き叫んだ時、シーザーも涙を流した。
Ambition should be made of sterner stuff:

野心とはもっと無情なものでできているはずだ。
Yet Brutus says he was ambitious;

だがブルータスは彼が野心を抱いていたと言う。
And Brutus is an honourable man.

そしてブルータスは清廉潔白な人物である。
You all did see that on the Lupercal

諸君は皆見たではないか、ルペルクスの祭日に
I thrice presented him a kingly crown,

わたくしは三度彼に王冠を捧げようとした
Which he did thrice refuse: was this ambition?

それを彼は三度拒否した。これが野心だったか。
Yet Brutus says he was ambitious;

だがブルータスは彼が野心を抱いていたと言う。
And, sure, he is an honourable man.

そして、もちろん、ブルータスは清廉潔白な人物である。
I speak not to disprove what Brutus spoke,

わたくしはブルータスの言葉に反駁せんがために申すのではない。
But here I am to speak what I do know.

しかしここで己が知っていることをわたくしは語らなければならないのだ。
You all did love him once, not without cause:

諸君は皆かつて彼を愛した、理由があってのことだ。
What cause withholds you then, to mourn for him?

それでは、いかなる理由があって諸君は彼を悼もうとしないのか。
O judgment! thou art fled to brutish beasts,

ああ、分別よ、お前は野獣のもとへ逃げて行き、
And men have lost their reason. Bear with me;

人間は理性を失ってしまった。許してくれ、
My heart is in the coffin there with Caesar,

わたくしの心はシーザーと共にそこの棺の中にある。
And I must pause till it come back to me.

だからわたくしの体に戻るまで、待たなければならないのだ。

 

(ここでアントニーは間を取ります。ブルータスの弁明に納得していたはずの市民たちは、シーザーが王冠を拒否したを思い出し、、確かにシーザーに野心はなかったと思い始めます。)

 

 But yesterday the word of Caesar might

つい昨日、シーザーの言葉が世界を相手に

Have stood against the world; now lies he there.

敢然と立ちはだかっていたものだった。それが今、彼はそこに横たわっている。

And none so poor to do him reverence.

卑しい者でさえ彼に敬意を払いもしない。
O masters, if I were disposed to stir

ああ、もしわたくしが諸君の精神を煽動し、
Your hearts and minds to mutiny and rage,

暴動や逆上の嵐の中に巻き込むつもりならば、
I should do Brutus wrong, and Cassius wrong,

ブルータスを悪し様に言い、キャシアスを悪し様に言うのだが。
Who, you all know, are honourable men:

二人は、ご存知のように、清廉潔白な人物だ。
I will not do them wrong; I rather choose

わたくしは二人を悪し様に言うつもりはない。
To wrong the dead, to wrong myself and you,

あのような清廉潔白な人物たちを辱めるぐらいなら、
Than I will wrong such honourable men.

わたくしは死者を、あるいはわたくし自身や諸君を辱めるだろう。
But here's a parchment with the seal of Caesar;

だが、ここにシーザーの印章が押された羊皮紙がある。
I found it in his closet, 'tis his will:

彼の部屋で見つけた、彼の遺言状だ。
Let but the commons hear this testament—

市民たちにこの遺言を聞かせたらー
Which, pardon me, I do not mean to read—

申し訳ない、わたくしはそれを読むつもりはないが、ー
And they would go and kiss dead Caesar's wounds

市民たちは駆け寄り、シーザーの傷にキスをし
And dip their napkins in his sacred blood,

彼の神聖な血に自分のハンカチを浸すだろう。
Yea, beg a hair of him for memory,

それどころか、記念として彼の一髪を求め、
And, dying, mention it within their wills,

更に、己の死に臨んでは、遺言状に記し、
Bequeathing it as a rich legacy

貴重な遺産として子孫に
Unto their issue.

遺すことだろう。

 

(市民たちはシーザーの遺言状を聞きたがります。)

 

Have patience, gentle friends, I must not read it;

我慢してくれ、友人諸君、読むわけにはいかないのだ。
It is not meet you know how Caesar loved you.

いかにシーザーが諸君を愛していたかを諸君は知らない方がいいのだ。
You are not wood, you are not stones, but men;

諸君は木石ならぬ人間だ。
And, being men, bearing the will of Caesar,

人間だからこそ、シーザーの遺言に接すれば、
It will inflame you, it will make you mad:

興奮し発狂するだろう。
'Tis good you know not that you are his heirs;

諸君が彼の遺産相続人であることなど知らない方がいいのだ。
For, if you should, O, what would come of it!

なぜなら、もし知れば、ああ、どうなる。

 

(読む訳にはいかないと言われた市民は、聞きたくて仕方がなくなります。)

 

Will you be patient? will you stay awhile?

我慢してくれないか。しばらく待ってくれないか。
I have o'ershot myself to tell you of it:

これを諸君に告げたのはやりすぎであった。
I fear I wrong the honourable men

清廉潔白な人物たちを中傷することにはなるまいか。
Whose daggers have stabb'd Caesar; I do fear it.

シーザーを刺した人たちを。わたくしはそれだけを怖れるのだ。

 

(市民たちは、じらされたうえ、繰り返される清廉潔白な人物という表現に反発し、ブルータスたちを悪く言い始めます。)

 

You will compel me, then, to read the will?

すると、どうしても遺言状を読めと言うのか。
Then make a ring about the corpse of Caesar,

ならば、シーザーの亡骸を囲むように輪になってくれ。
And let me show you him that made the will.

遺言状をしたためた人物を諸君に見せたい。
Shall I descend? and will you give me leave?

演壇から降りたいが、構わないか。

 

(演壇を降りたアントニーを市民は囲み、我先に遺言状を見ようともみくちゃになります。)

 

Nay, press not so upon me; stand far off. 

そう押さないで、もっと離れて立ってくれ。

 

(市民たちはちょっとだけ離れます。)

 

 If you have tears, prepare to shed them now.

もし諸君に涙があるなら、今こそ涙を流す準備をしてくれ。

You all do know this mantle: I remember

諸君は皆このマントを知っているだろう。わたくしは覚えている
The first time ever Caesar put it on;

これを初めてシーザーが身に着けたときのことを。
'Twas on a summer's evening, in his tent,

あれはある夏の夜、彼のテントであった。
That day he overcame the Nervii:

その日彼がネルヴィー族を制圧したのであった。
Look, in this place ran Cassius' dagger through:

見よ、ここをキャシアスの剣が貫いた。
See what a rent the envious Casca made:

妬み深いキャスカがどのような裂け目を作ったか見よ。
Through this the well-beloved Brutus stabb'd;

ここをあれほど愛されたブルータスが刺したのだ。
And as he pluck'd his cursed steel away,

そしてブルータスの呪われた剣が引き抜かれたとき
Mark how the blood of Caesar follow'd it,

シーザーの血がどのようにその剣を追って出たかに注目せよ。
As rushing out of doors, to be resolved

まるでドアから走り出て、ブルータスが無情に
If Brutus so unkindly knock'd, or no;

ノックしたのかどうか確かめたかのように。
For Brutus, as you know, was Caesar's angel:

なぜならブルータスは、ご存知のように、シーザーの天使であった。
Judge, O you gods, how dearly Caesar loved him!

ああ、神々よ判定し給え、どれほどシーザがブルータスを可愛がったかを。
This was the most unkindest cut of all;

これこそが最も無慈悲な刺し傷だ。
For when the noble Caesar saw him stab,

ブルータスが自分を突き刺すのを、あの高潔なシーザは見て
Ingratitude, more strong than traitors' arms,

反逆者たちの腕よりも強力な忘恩に、
Quite vanquish'd him: then burst his mighty heart;

すっかり打ちひしがれて、強靭なシーザーの胸も潰れてしまったのだ。
And, in his mantle muffling up his face,

そしてマントに顔を包んで、
Even at the base of Pompey's statua,

まさにポンペイ像の足元に
Which all the while ran blood, great Caesar fell.

全ての血潮を流して、偉大なるシーザーは崩れ落ちたのだ。
O, what a fall was there, my countrymen!

ああ、なんたる崩御があったことか、同胞諸君。
Then I, and you, and all of us fell down,

そしてわたくしも、諸君も、我々すべてが崩れ落ちたのだ。
Whilst bloody treason flourish'd over us.

血まみれの反逆に我々は剣を振り回されて。
O, now you weep; and, I perceive, you feel

ああ、諸君は泣いている、解るよ、諸君は
The dint of pity: these are gracious drops.

憐れみの情にかられている。尊い涙だ。
Kind souls, what, weep you when you but behold

優しい人たち、諸君は、我々のシーザーの傷ついた衣服を
Our Caesar's vesture wounded? Look you here,

見るだけですすり泣くのか。ならば、これを見よ。
Here is himself, marr'd, as you see, with traitors.

これこそ、ご覧の通り、反逆者たちに傷つけられた、シーザー本人だ。

 

(シーザーの死体を目の当たりにした市民たちは、激昂し、復讐だと言い出します。)

 

Stay, countrymen.

待ってくれ、同胞諸君。

 

(市民はアントニーの話の続きを聞くことにします。)

 

Good friends, sweet friends, let me not stir you up

良き友人、親愛なる友人よ、このような突然の暴動の嵐に
To such a sudden flood of mutiny.

巻き込もうと、諸君を煽動するつもりではないのだ。
They that have done this deed are honourable:

この件を行ったのは清廉潔白な人物たちだ。
What private griefs they have, alas, I know not,

彼らにどのような個人的な苦悩があっって、行ったのか、
That made them do it: they are wise and honourable,

悲しいかな、わたくしは知らない。彼らは賢く清廉潔白だ。
And will, no doubt, with reasons answer you.

だから、間違いなく、相応の理由を持って諸君に返答するだろう。
I come not, friends, to steal away your hearts:

友人諸君、わたくしは諸君の心を盗むために来たのではない。
I am no orator, as Brutus is;

わたくしは雄弁家ではない、ブルータスのような。
But, as you know me all, a plain blunt man,

諸君もご存知のように、友を愛する無骨者に過ぎず、
That love my friend; and that they know full well

彼らもそれをよく知っているから、わたくしが大衆の前で
That gave me public leave to speak of him:

シーザーについて語るのを許可したのだ。
For I have neither wit, nor words, nor worth,

わたくしは、人の血を沸き立たせる、知恵も、言葉も、価値も
Action, nor utterance, nor the power of speech,

動作も、口調も、演説力も何も持っていない。
To stir men's blood: I only speak right on;

正直に語るだけだ。
I tell you that which you yourselves do know;

わたくしは諸君自身がよく知っていることを告げ、
Show you sweet Caesar's wounds, poor poor dumb mouths,

親愛なるシーザーの傷を見せ、哀れな哀れな物言わぬ傷口に、
And bid them speak for me: but were I Brutus,

わたくしの代わりに語れと命じるだけだ。だがもしわたくしが
And Brutus Antony, there were an Antony

ブルータスで、ブルータスがアントニーならば、そのアントニーは
Would ruffle up your spirits and put a tongue

諸君の精神をかき乱し、シーザーの傷口
In every wound of Caesar that should move

ひとつひとつに口を与え、ローマの石にさえ、
The stones of Rome to rise and mutiny.

立ち上がって暴動を起こせと言わしめるだろう。

 

(最早市民たちは、暴動だ、ブルータスの家の焼きうちだと暴徒になりかかっています。)

 

Yet hear me, countrymen; yet hear me speak.

まだ聞いてくれ、同胞諸君、まだわたくしが話すのを聞いてくれ。

 

Why, friends, you go to do you know not what:

友人諸君、諸君は訳もわからず行動に移そうといている。
Wherein hath Caesar thus deserved your loves?

シーザーのどこに、これほど諸君の愛を受け取る価値があるのだ。
Alas, you know not: I must tell you then:

悲しいかな、諸君は知らないのだ。ならば、わたくしが教えよう。
You have forgot the will I told you of.

諸君はわたくしが教えた遺言状のことを忘れてしまっている。

 

Here is the will, and under Caesar's seal.

これがその遺言状だ、シーザーの印章が押されている。
To every Roman citizen he gives,

全てのローマ市民に対し
To every several man, seventy-five drachmas.

ひとり75ドラクマ贈る

 

(これを聞いて市民たちは、シーザーを讃えます。)

 

 Hear me with patience.

辛抱して聞いてくれ。

 

Moreover, he hath left you all his walks,

まだあるのだ。彼は諸君に、テベレ川のこちら岸の
His private arbours and new-planted orchards,

彼の散歩道全て、個人所有のあずまや、
On this side Tiber; he hath left them you,

新しく植樹した果樹園を、これらを諸君に遺している。
And to your heirs for ever, common pleasures,

更に諸君の子孫にも、逍遥し英気を養う公園を
To walk abroad, and recreate yourselves.

永遠に遺している。
Here was a Caesar! when comes such another?

これがシーザーだった。このような人物が再び現れるだろうか。

 

(二度とシーザーのような人物は現れない。そんなシーザーを殺した反逆者たちを皆殺しにしてやると市民たちは息巻き、動き出します。)

 

 キャシアスの恐れは現実となりました。アントニーの群集の感情に訴える演説は、ブルータスの理性に訴えるものよりも効果がありました。

 口では雄弁ではないと言いながら、実は雄弁さに自信を持っているアントニーにかかれば、軽佻な群衆の心理なんて簡単に変えさせることができるのでした。

 演説中nobleが2回、honourableが9回繰り返されますが、回数を重ねるに従い、聞く人に本当にそうか、違うだろうと思わせるのに成功しています。

 またシーザーの行った具体的な事実を挙げて、シーザーの素晴らしさを述べ、シーザーの死体の傷口を見せ、具体的に暗殺者の酷さを語るアントニーの手法に、抽象的な説明をしたブルータスは負けたのでした。

 アントニーのずる賢さを、ちょっと嫌だなと思いますが、この手腕を我々日本人は身につけるべきだと思います。ただ残念なことに、ペーパー試験のように一斉にできないため、あるいは教師自身がその能力を身につけていないため、公立の小・中・高等学校では学ぶ機会が与えられることはあまりないでしょう。しかし相手を説得する力は、ペーパーテストで点数を取ることより遥かに人生で役立つと思います。


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