AIロボットに心を持たせる・・・なんとも魅力的なテーマで書かれた小説です。
鉄腕アトムやドラえもん、ターミネーターなど、昔から漫画や映画の世界では心を持ったロボットが登場していますが、最近までそれは夢物語だと思われてきました。
しかし昨今のAI技術の飛躍的発展、ディープラーニングやChatGPTの実力を実際に目にすると、それはもう夢ではなく現実のテーマだと思われます。
本作の舞台も近未来ではなく、現在の日本でした。
東央大工学部特任教授・胡桃沢宙太は、交通事故で家族を失い、自身も半身に瑕疵を負って車椅子生活を余儀なくされている。 彼はAIロボットに心を持たせるべく、盟友の二ツ木教授と産学官共同の巨大研究開発プロジェクトを立ち上げ、世間の耳目を集めていた。
しかし、キックオフイベントとなる講演会でパネリストとして登壇した教授の一人が壇上で倒れ、帰らぬ人となってしまう。 その後、胡桃沢を含む他の三人の教授たちにも殺害予告が届く。 標的にされた胡桃沢たちは、AIの軍事利用に激しく異を唱えていた。 (BOOKデータベースより)
AIロボットに心を持たせる研究を行っている主人公・胡桃沢。 「AIに心を持たせる」ことの具体的方法論の話に話に入っていくのかと思ったら、話はAIの軍事利用の方に傾いていき、そして殺害予告が・・・・
実際に亡くなった教授がいて殺害予告が届いているのに警察は動いてくれず、胡桃沢の周囲の違和感が高まってきて・・・・
なるほど、そうきたかー! 謎解きとテーマが上手くリンクして、張り巡らされた伏線がすべて回収され、興奮させられました!
作者は専門家では無いようですが、巻末には10以上の参考文献が記されているように取材は十分で、チューリングテストやシンギュラリティのようなAI用語も違和感なく使われています。
ただし、本作は本質的には謎解きミステリなので、科学技術的なツッコミどころはいくつかあるんですが、これを言ってしまうとネタバレですね(^^;)
まあでも細かいことは言わず、ストーリーに身を任せて知的興奮とどんでん返しを味わい、ラストの横田のセリフ「あんたら人間かよ?」を噛みしめるのが良いでしょう。
AIテーマの謎解きミステリとして秀逸です。 お勧め。