外房(千葉県)の勝浦は海洋生物地理学上の特筆すべき地点 | ウッカリカサゴのブログ

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日本産魚類の仔稚魚のスケッチや標本写真、分類・同定等に関する文献情報、
趣味の沖釣り・油画などについての雑録です。

出典:海上保安庁 海洋速報&海流推測図
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/2018cal/cu0/qboc2018207cu0.html

 

外房の勝浦は、本州で黒潮本流が接岸する最東(北)の地点にあたる。

 

近辺のいくつかの漁港で40年近くに渡り稚魚採集を行ってきたが、やはり勝浦あたりが分岐点にあたる感じがする。

 

すなわち、勝浦港の海水はほとんどいつ行っても透明度が高く、黒潮の影響を受けている感じがするが、その北に位置する御宿・岩和田漁港より北方の漁港(岩船、大原、太東)では、沿岸の逆潮(南下流)の影響を受けて濁っていることが多い。

 

漁港内の稚魚・幼魚相を見ても、勝浦港とそれ以北で異なっていることが多く、前面海域で釣れる南方系の魚類の種類も、このあたりを境界に変わる感じがする。

 

海岸線の向きが勝浦ではおおむね東西方向であるのに対し、それより北に位置する大原では南北方向になっていることも影響しているのであろう。

 

勝浦は、学術的に海洋生物地理学上の特筆すべき地点といえると思う。

 

ちなみに「千葉県立中央博物館分館 海の博物館」がここ勝浦市にある。
http://www2.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/index.html

 

出典:海の天気図2017年9月27日
http://www.ifarc.metro.tokyo.jp/20,20542,48,485.html

 

↓元同僚の瀬戸熊さんの記事が出ていた。

朝日新聞デジタル>記事
千葉)ソリハシコモンエビ,県内で初採集 勝浦の研究家
稲田博一
2018年11月5日03時00分
https://www.asahi.com/articles/ASLC13CPJLC1UDCB005.html

 

●参照
Ito, T., Y. Iino, S. Nakai, S. Itoi, H. Sugita and N.Takai (2018)
Distribution patterns of settlement stage juveniles of Girella punctata and Girella leonina  on the rocky coast of the KantoIzu region, Japan
Fisheries Science;First Online: 09 May 2018
Open Access
https://doi.org/10.1007/s12562-018-1206-5

 

以下,Abstractの仮和訳:

 

日本の水域におけるメジナ科魚類の初期生活史は不明であり,種特異的な繁殖戦略についてはほとんど知られていない。
黒潮の影響を推定するため,関東と伊豆の岩礁海岸にあるメジナとクロメジナの着底期の稚魚の分布パターンの季節変化を調べた。
主に相模湾を中心に813個体の着底稚魚を採集し,遺伝的に同定した。
メジナ稚魚は相模湾の岩礁海岸で4月~8月,特に5月と6月に豊富に採集された。
このように,春から夏にかけて,メジナ稚魚が岩礁の海岸に普遍的に生息していると推測される。
対照的に,相模湾ではクロメジナ稚魚がほとんど採集されず,総採集数はわずか66個体であった。
特に,以前,1月から3月にかけて相模湾の相模灘では多量のクロメジナ稚魚の捕獲が報告されていたが,相模湾では冬季には捕獲されなかった。
この地域間の明確な違いは,黒潮の流れの近さの違いを反映していると推察される。
黒潮は,クロメジナの繁殖の成功に強く影響することが予想される。