続き…

 

それを目の当たりにした僕らは一瞬、無言となったが、何よりもまず状況把握を優先したことは、きっと、このようなわけのわからないもの、に何度も出会ってきた経験のおかげだろうか……?

 

僕らはその住居を目の前にして、それが、過去、何度も目にしてきた廃屋にしては綺麗すぎることに不信感を覚え、異質だと感じたのだ。

 

…これは……、こんな山奥では考えにくいが……、ここにはまだ誰かが住んでいるのかも…

 

そんなことが頭に浮かんでぞっとした僕だったが、皆で木々をかき分けるようにして、遠回りにその家の様相を眺めてみても、そこに人気などはなく、また、近日中に人が出入りしたような形跡も皆無だった。

 

周囲を回るようにして外壁を眺めた結果、窓という窓は全て、ペンキのようなもので塗りつぶされていて、内部を覗けるものが皆無だったこの家は、僕らに好奇心と、奇妙さ、そして、少しの恐怖を煽った。

 

その不自然な色をした住居の理由などわかるはずもなく、僕らに残されたのは……、この半開きの玄関のドアをくぐるか、くぐらないか……の選択だ。

 

廃屋である……のかはわからないが、その時、家の中が無人であることは、まず、間違いないように思えた。

 

念のため、呼び鈴を押すも何の反応も示さない。多分壊れていたのだろう……。

 

それよりも、その半開きになっている扉から垣間見えた内側は、外の世界とは打って変わったように真っ暗闇で、玄関から入る筋のような光によってかろうじて見えたその廊下も濃いピンク色……、それがまるで何か生物の体内のように見え、そのとき初めて僕らの好奇心を恐怖の方が上回り、気持ちを落ち着かせるためにも玄関から少し距離を取った。

 

「マジで……入んのか?」

 

僕は、「入れるのか?」という、可能の助動詞を交えた言葉を口に出したが、それはこのメンバーの顔触れからも、最初から答えのわかっていた疑問文でもあった。

 

少し落ち着いて、恐怖に対する心構えを整えた僕らは、今度は、少しでも外からの光が入るように玄関のドアを全開にして内部を仰ぎ見た。

 

姿勢を低く、隠れるようにして、入口の隅に屈んでいる下田をよそに、万が一、家内に人がいることも考慮に入れて、僕は再度、鳴らない呼び鈴を押し、大きな声で

 

「すいませ~ん!!誰かいますか!?」

 

と、大きな声を出して中の様子を伺ったが、やはり、内部に人のいる気配はない。

 

(満足か?)と、問うような下田のアイコンタクトに頷き、僕らは色彩によって区切られる世界、その境界線とも思える玄関の敷居を超えた。

 

慣れない目は別としても、玄関、薄暗い廊下と、どこかからわずかに漏れ入る光によってかろうじて視認できるその内部は、やはり全面的に薄気味悪いピンク色で、時折、反射してヌラヌラと輝く光が、余計にその生物の体内的な不気味さを増幅させる。

 

この暗闇は、外側から見た時に窓が全て塗りつぶされていたことから来る闇であることは、想像に容易かった。

 

恐らく、雨戸を閉めて、その上から色を塗ったのだろう……、あの『廃屋』(同和参照)を思わせる尋常ではない暗さだった。

 

足を踏み出すごとにギシギシと軋む廊下の音で、かろうじてそれが木造であることが認識できる。

 

廊下の片側にはピンク色の扉があり、日が射しているのか少し明るい二階に続く階段、そして、突き当たりにも開いたままの扉があり、廊下の扉はトイレ……ピンク色の、そして奥にはリビングのような大きめの部屋があった。 

そのリビングにはどこかの隙間からか、数本の筋のような光が射していて、中には大きなテーブル、その上には、ビニール紐で束ねられた書物の類、また何かが入った箱が積まれていて、別段、特筆することもないほど、綺麗なものだった。これが異常なのだ。

通常の廃屋においては、ガラスなどは割れ、机の上のものなどは床に散らばっていて、落書きなどが目立つのが当たり前のことだ。

…綺麗すぎる……。やはり……この家には今も誰か住んでいるのか…

そんな風に不安を感じた僕が廊下の床を指でなぞると、指にはべっとりと埃がついた。これと同じことを数ヵ所で繰り返したが、結果は同じだった。また、なっちゃんが部屋の電気のスイッチを入れようと、パチパチ押していたが、点く気配はない。

つまり『この家には長期間、人の出入りがない』そして、その上で『片付いている』ということだ。

…こんな山奥にある空き家だから、荒らす人間もいないってことか……。こんなところで死んでいても、誰も発見できないよな…


頭に浮かんだ自分の嫌な想像にぞっとした……、そんなとき、

「おい……」

と、なっちゃんの呼ぶ声で、僕は我に返った。

 

続く…