続き…

 

高校生の秋、僕はいつものように、いつもの仲間、下田、なっちゃんとともに、大阪府近隣の山を訪れていた。 

 

別に妙な噂話がそこにあったわけでもなかったのだが、ただ、サイクリングがてらの山道を通過中、小規模なトンネルに差し掛かったときだ。

 

その高さ10メートルほどの小規模のトンネルは、古く苔むしていて、またそのトンネルの上には鬱蒼とした木々が繁茂し、いかにも雰囲気のあるものだった。

 

そんな時、人並外れて目の良い下田が、トンネル上部の木々の間に、何か人工物のようなものが見える……と言い、それに興味を持った僕らは、どうにかしてそこに辿り着こうと画策していた。

 

車通りも疎らなトンネル脇に自転車を停め、もともとけもの道に耐性のある僕らは、迷わずその脇にある急角度の茂みに足を踏み入れた。斜めに生える木々を伝い、それほど時間もかけずに目的の場所に出ることが出来た。

 

確かにそこには下田の言うような人工物、石碑のようなものが建てられていて、また過去にそこが道であったことを示すような、薄っすらとした痕跡が見受けられた。それは、トンネルの上部を横切るようにして、山の方へと繋がっているようだ。

 

過去に人の手が入ったことが明らかであること、また気のせいかも知れない程度だが、古道の痕跡は、僕らにそれを辿らせるには十分な神秘だった。

 

だが、いつものような怪異に毎回出くわすわけもなく、そのけもの道の痕跡もわからなくなり、今回はハズレか……そろそろ戻ろうか、という空気が漂っていたころ、なっちゃんが、

 

「あれ、何や?」

 

と、遠く斜め上、空の方を指さした。

 

丘を下るように、前方の繁茂した木々に気を取られていた僕らは、そんなものに全く気が付かなかったのだが、一番後ろを歩くなっちゃんには、その余裕があったようだ。

 

「ん……?」

 

その方向には、何かのようなものが見える。

 

「柱や……。なんか柱みたいなんが建ってる」

 

下田の良い目をもってしてもそれが『柱のようなもの』とまでしか判別不可能であり、それが何であるかを見に行こう、と、僕らはそれを目印に進むことにした。

 

そのまましばらく進むにつれ、少しずつだが、辺りに気になることが目につき始めた。

 

具体的に言うと、比較的近日に折れた枝や、何かを堅いものを引きずったあとのような……、山中に荒々しく残る跡だった。

 

危険動物の可能性もあるのだが、イノシシはまだしも、そのあたりで熊が出たなど聞いたこともない。そんなこんなでたどり着いたその柱の正体は……、無骨で何の飾り気もない……灰色の電信柱だった。

 

「なんや、電信柱かよ……」

 

と、残念そうに言う下田だったが、僕はこの電信柱の存在に納得がいかなかった。

 

まず、その電信柱には電線などがついていなかった。これは使用されなくなったという理由で取り外されたのだろうと推測できるのだが、付近に他の電信柱のようなものが見当たらない。

 

そう、電信柱とは、電線を中継するためにあるはずなので、付近にも同じような裸の電信柱が残っていてもいいはずだと思ったのだ。

 

また、通常、電信柱には、その場所の住所などを示す記載があるもので、また反射板などが装備されていそうなものだが、これに関しては、文字通り、『裸』という表現がぴったりだった。

 

そして、この電信柱は比較的、新しいものにも思えた。誰が、何のために、という疑問は元より、工事の後も見られない薄暗い木々の繁茂する山中のど真ん中に、どのようにして……建てたのだろう?とも思った。

 

僕がそんなことを彼らに伝えると、下田が

 

「案外、近くに何本か立ってんじゃない?木で見えへんだけで……」

 

と、もっともな意見を言い、止める間もなく電信柱の杭に飛びつき、軽やかな動きでそれを上り始めた。

 

「あんまり高くは上るなよー」

 

と、心配した僕らの意見を聞き入れたのか聞き入れなかったのか、木の高さよりも高い位置で、彼はしばらく周りを目を凝らすようにして見回し、あ、っと声を上げた。

 

その声で、僕は、周りに他の電信柱を見つけたのだろう、と、察しがついたのだが、危なげなく地上に返ってきた彼の言葉により、僕の予想は覆させられた。

 

「電柱はない。結構見たけど、ないと思う。でも、なんか……、変な……家が見えた……

 

…変な…家…?

 

「ただの家じゃなくて、変な家なんやな?」

 

と、なっちゃんが僕より先に疑問を口にする。うなずく下田に

 

「どう変なん?」

 

と、彼に問う。

 

「なんかな……、日の当たり具合かも知れへんけど……、色がな……気持ち悪いねん。なんかピンク色みたいな……

 

…そんな目立つ色をした家が……山中にポツンと……建っている……?確かに変な感じがするが…

 

僕らの意見が、それを確かめに行こうと一致するまでに、そう時間はかからなかった。


 

その家は、鬱蒼とした木々の中に埋もれるように建っていた。

 

それは、その場に似つかわしくない洋風近代住宅であり、敷地を区切る垣根や門の類こそないものの、木々に阻まれて薄暗い玄関の扉の脇にはインターホンまでついている。

 

やはり下田の言う通り、屋根も玄関も、そして窓すらも、白みがかった薄汚れたピンク色で塗りつぶされ、この家だけが他の空間から切り取られているような錯覚を思わせた。

 

正直にいうと僕はそれを「気持ち悪い」としか思えなかった。

 

さらに、そのプラスチックを連想させるおもちゃのような玄関の扉は、

 

僕らを誘うように……、

 

少し開いていた。

 

続く…