いつものような


「なんか面白い話ない?」

という授業前の僕の質問に、当時、中学生の女子生徒が面白い答えを返してくれた。

「先生、ピンクの家って知ってる?」

「ピンクの家?何それ?」

意味が解らない僕が聞き返すと、

「まんまやで。玄関も屋根もみんなピンクやねん」

と返ってきた。

…言葉通り、色か…

と、頭に想像図を浮かべている僕にお構いなしに、

「そこに住んでたおっちゃんの服もな……、全部ピンクやねん……」

と、彼女は続けた。

…すべてがピンク色……、あれ、これって何か……、聞いたことがあるような…

「住んでた……ってことは、今はもういないのか……」

曖昧な受け答えを返しながら、僕は記憶を探っていた。

「そんな風体で、どんな仕事をしてはったんやろ……」

と、僕の呟くような疑問に

発明家やったらしいで……」

と、無邪気に笑った彼女とは対照的に

「発明家……!」

と、遠い記憶を触発された僕は絶句した。

「うん……。なんか急に引っ越したみたい。いきなりおらんくなって……、今はもう空き家でな……。そういや……」

 

…突然、いなくなった……?

と、彼女はある友人の話を語ってくれた。

彼女の通っていた小学校の、運動場に隣接するそのピンクの家、それは三人称である僕の耳には異様なものにも聞こえるのだが、近隣の人々には広く受け入れられていたようで、生徒たちにとっても違和感などはなかったようだ。

ある日、その廃屋になったピンクの家の敷地内に、サッカーボールを入れてしまった少年がいた。

 

何の気もなく垣根で区切られたその小さな庭に侵入してサッカーボールを回収し、その場を去ろうとしたのだが、その目に映ったのは、校庭からは見えない位置にあった窓だった。

突然沸き起こった好奇心は彼に、その窓を覗け、と誘導した。少しの葛藤後、恐る恐るその窓を覗くと……、そこには洗濯機があった……、ピンク色の

 

これだけでも、過去、その住民の、『色』に関しての徹底ぶりがよくわかるのだが、その近くに置かれていた半開きの粉洗剤の色、そして、その機能を果たせないほどに、鏡まで……ピンク色に塗りつぶされているという徹底ぶりだった……。

 

実際にはこれは、光の当たり方や、ピンク色である周囲の物体の色の反射の可能性も多分にあり得るのだが、僕には、それがそうではない可能性も多分に浮かんでいた。

そう……僕にはこの話に即する心当たりがあった。生徒から聞いた客観的な話では即座に思いつかなかったのだ。

 

僕はこの『ピンクの家』と似たものを、過去、この目で見たことがあったから……。