バイクで池小の前まで来たが、一つ、現実的に大きな問題がある事に気が付いた。

…卒業生でもない大人が勝手に小学校に入って良いものなのか…?

小学校の校門前辺りでそんな事を考えていた僕だったが、そんな心配はすぐに必要が無くなった。

 

学校内の晴海捜索を諦めて校門から出てきた恵斗とその仲間たちが僕を発見してくれたのだ。

「あ!先生!」

「お!恵斗!晴海は見つかったか!?」

「いや…。たぶん学校にはおらん…。今からもっかい家に行ってみようと思う…。」

僕は頭痛のせいか、重大な事を忘れていた事に気が付いた!

「そや!恵斗!携帯は?あいつスマホ持ってたやろ!!」

恵斗は無言で手に持っていた荷物を僕に突き付けた。

「これ…あいつの上着と携帯。サッカーする前に脱いでたみたい…。さっき見つけてん…」

…不吉な予感が強くなった…。携帯を忘れて何処かに行かなければならないほどの急用が…?

 

いや、それらを忘れて帰ったと考える方がまだ現実的だ。

「待て…。晴海の家には電話してみたが…誰も出なかった。」

「…」

無言で返す恵斗…。どうしたら良いのかわからないのは僕も同じだ…。だが

「…おい…。お前たちが居れば話は別や。恵斗、俺をその旧校舎に連れていってくれ。」

「…?」

「俺は大人やからな…。お前らとは違う考え方で何かわかるかも知れない…。だが小学校に入った不審者と思われたらあかんから、この小学校に関係のある誰かが必要なんや…。」

「わかった。行こう。」

と彼とその仲間たちに囲まれるように、僕は校内に足を踏み入れた。


その旧校舎は学校内の最奥にあり、その向こう側は木々が繁る丘、その奥にはフェンスがあり公道が見えている。

それはかなり古い校舎らしく、頑丈そうには見えるが、耐震基準などを満たしているかは不安な所だった。

「ここでな、センタリング上げて、走ってってやっててん」

「…なるほど…。最後に…晴海はどの位置にいた?」

彼は校舎の奥側…木々が繁る方の面を指した。

僕はそちらに足を進める…。校舎裏の土道には今はもう使われていないであろう荒れた花壇があった…。

…消える…か。

 

何かの弾みで消えたように見えるならば…この奥の…木が繁っている草むらか…?

「そっちの草むらは探した?」

と尋ねると

「軽く…」

と返ってきた。

「もうちょい深く探してみてくれへんか?」

「わかった!」

と彼らは草むらに入った…。

僕はその他の可能性…現実的な手掛かりを探した。

…旧校舎に人が入れるような穴はない。窓も全て閉まっているようだ。もちろん中に人の気配など無い。

…うーん…何も無いな…。

人が落ちるようなマンホールや排水溝の類いも無い。

草むら以外に隠れられそうな場所も無い感じだ…。

また、もしも晴海が急用等でこの場から離れたとしたならば、四面に散らばっている6つの目のどれかが彼を捕らえているだろう…。

つまり晴海が自分からその場を離れた可能性が低くなった。

 

そんな事を考えていた時、

ポーン…テン…テンテン…

とボールが転がって来た。ドッジボールで使うようなゴムボールだ。6ー6と書かれている。



僕はそれが飛んで来た方を見たが…誰もいなかった。と同時に

「先生!」

と呼ばれそちらに急いだ。

「居たか!?」

と期待を込めて尋ねたが

「いや…おらん。でも変なもん見つけた。

と恵斗がまだ草むらに居る二人を指差す。

目を凝らすと彼らが茂みの中で何かを囲んでいるのがわかった。

それは…一抱え程の小さな地蔵だった。

 

かなり長い年月の間、そこに置かれていたのだろう…目鼻口からは涙が流れているように黒ずみ…所々にひびか入っている…。

「…あ、これ…って…」

とそれを囲んで、まじまじと眺めていた二人が小さく呟いた後に、急に小刻みに震え始めた。

…確かに気味が悪い…だがこいつら…、他にも何かを知ってるな…

と見当が付いたが、二人とも顔色が尋常では無い。僕は彼らを茂みから広い場所に誘導し、

「おい。二人とも大丈夫か?とりあえず恵斗!」

と恵斗に彼らの介護を任せた。

顔面蒼白の二人は

「…あれや…晴海は…もう…」

と言った不吉な事を言いながら震えている。

 

『…いっちかけ、にーすみ、さんそーろ…』


僕はそれを少し離れた所から遠目に、学童から聞こえる子供たちの歌声を耳に流しながら…、校内で少々不謹慎だが、花壇脇の片隅で電子タバコをふかし、状況を再び頭で整理していた。

 

続く