プレイエル:弦楽五重奏曲ト短調 B.272 | 室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Pleyel : String Quintet in g minor, Ben.272

 コロナ環境下での2020年7月はそれでも1回だけ、合奏の機会を持つことができた。「感染防止対策を徹底して」とのことで、10数名が3室に分かれて演奏した。今までは何ということでもなかった弦楽合奏が、数カ月ぶりという感慨深さというか、響き合いの味わいというか、有難みのある貴重な経験となった。

 プレイエルの弦楽五重奏曲は、ヴィオラ2本の(モーツァルトやミヒャエル・ハイドン、ミスリヴェチェク、ガスマンなど)伝統的な編成で13曲ある。この曲は1785年の作曲で、かのモーツァルトの不朽の名曲 K.515, K.516 よりも2年前に書かれている。28歳の頃になる。

 プレイエルの作品は、ハイドン直系の古典的な様式に乗っ取ったしっかりした構成ではあるが、曲想に深みが欠けるというか、割りにあっさりした表現に留まっていることが多い。

この曲は短調ながらそれほど深刻ではないけれども、陰影がはっきりしているように思う。Youtube でイグナツ・プレイエル五重奏団 Ignaz Pleyel Quintet による演奏が聴ける。プレイエルの作品を取り上げているシリーズ Pleyel Edition のCD Vol.17 になる。
 

https://www.youtube.com/watch?v=kG0o-3pPv3E&list=PLHN1aQ5OLJAUj3MoEKmZyLHaFo6p3AKNJ&index=26&t=0s


引用譜例は、ショット社版(Schott)の印刷譜で、下記URLの「KMSA室内楽譜面倉庫」でパート譜を参照できる。
https://onedrive.live.com/?authkey=%21ACN8DNizjzp5md4&id=2C898DB920FC5C30%219141&cid=2C898DB920FC5C30


第1楽章 モデラート

静かで特徴のあるリズムのテーマで始まる。このテーマが何度も繰り返して現れる。抑制されてはいるが、ウィーン風の憂愁を所々に感じることができる。


第2楽章 アンダンテ・グラツィオーソ

4分の2拍子の後半から始まる弱起の曲で、ト長調の可愛らしい楽しい曲。モーツァルトの曲にもこの2/4拍子の後半から始まるパターンをよく見かける。当時の流行だったスタイルかもしれない。合わせる側はこの「弱起」を常に意識して注意を払う必要がある。


第3楽章 プレスト

8分の6拍子で6拍目のアウフタクト(弱起)から始まる。結構目まぐるしいので、乗り遅れない心がけが必要だ。

7月に合わせた時のメンバーの反応は、
①久々に合奏するのに勘を取り戻すには難所が少なく、最適の曲だった。
②素直にアンサンブルの楽しさがわかる曲で、意外といい。
などだった。



イグナツ・プレイエル(Ignaz Pleyel, 1757-1831) はモーツァルトと同世代の古典派の作曲家で、ウィーン近郊の村で生まれた。幼少の頃から音楽の才能を発揮し、青少年時代に5年間ハイドンの家に寄宿し指導を受けた。イタリア遊学の後、独仏国境のストラスブールに行き、約10年間大聖堂の楽長としての職務の傍ら作曲に精力を注ぎ、名声を獲得した。恩師のハイドンがロンドンに招かれた時期に、彼もロンドンで数年間演奏活動を続け、人気を博した。フランス大革命の混乱期を辛うじてしのいだ彼は、パリに出て音楽出版社とピアノ製造会社を立ち上げ、実業家としても成功した。
作品は交響曲、協奏曲、オペラ、宗教曲、室内楽曲と広範囲にわたるが、弦楽四重奏曲が70曲と一番数が多い。