４月に地学雑誌の回顧録21で「金沢大学地殻化学講座の1970年代」という坂野昇平先生称賛の文書が発表されて，間もなく，国際鉱物学関連学会から出されているElements誌に表題の特集が出され，それをみると変成岩研究の一頃の中心におられたBannoの文献は一件もなく，ちょっと奇異な感じも受けたが，最新の変成岩研究を理解したく，掲載７論文を一通り読んでみた．

読んだ印象としては，この30年余りの研究の進展はなかなか大したもので，特に五良津岩体のEclogiteが結構高圧（2.5GPa,80km深）でその変成年代がLu-Hf系で88.8±0.6Maと求まっていること．熱源にShear heatingがかなり効いていること，などなど，Short reviewでは引用論文も限られるのでMiyashiro（1961）から始まって，BannoグループのまとめとしてHigashino（1990）JMGが取り上げられているのは順当な処かも知れない．あと20‐30年経って，このElements誌の著者達の論文がどの程度生き残るかは判らない．

読んでも中身を直ぐ忘れるので，少し図を見返しながら７論文の印象．

(1) Wallis, Okudaira, Miyazaki, Paired metamorphism of SW Japan and implications for tectonics of convergent margins.

対の変成帯の概念がMiyashiro（1961，1965）によって提案され，沈み込み帯での沈み込みスラブと火山弧を代表するものと捉えられてきたが，その具体的な現時点での到達点がこの特集で示される．

(2) Endo, Kouketsu, Aoya, Sanbagawa subduction: what went in, how deep, and how hot did it get？

岩石温度計・圧力計が開発されより精度の高い温度―圧力経路が推定されるようになっている．特に五良津のエクロジャイトは2.0-2.5GPa（深さ60-80㎞）温度500-700℃となっており，三波川の他の主体と比べると少し飛んでいる．

(3) Okamoto, Nagaya, Endo, Mizukami, Ultramafic rocks from the Sanbagawa belt: records of mantle wedge processes.

三波川変成帯の主体は泥質片岩，砂質片岩が多いが，高変成度の部分では塩基性岩や超塩基性岩が多くなり沈み込み帯のマントルウエッジを見ている．特に四国中央部の東赤石岩体や白髪岩体をとりあげ塩基性岩石の変成・流動・交代作用についての成果を示している．

(4) Knittel, Tokiwa, Tsutsumi, Endo, Wallis, Geochronology of the Sanbagawa belt: Younger and faster than before.

瀬場のEclogite(深さ65ｋｍ）についてLu-Hf系により88.8±0.6Maという変成年代が求められ，そこからの上昇は最初比較的早く（＞2cm/y), 後に一桁遅い上昇速度であったと推定されている．Detrital zirconの年代のヒストグラムが示されており，1700-1800Maと70-80Maにピークがある．

(5) Okudaira, Kawakami, Ikeda, Skrzypek, Inside the Ryoke Magmatic Arc: Crustal deformation, high-T metamorphism, and magmatic pulses.

領家帯の変成作用，変形作用，マグマ活動について纏められている．基本高温の変成作用はマグマ活動による熱での地温勾配の上昇によるとされているが，Zircon U-Pb年代では幾つかのパルスがあったり，昔から言われているように西が古く東が新しい傾向がある．ただマグマ活動は最大40Maに及んでいる．

(6) Wu, Wu, Yamaoka, Linking Pacific plate motions to metamorphism and magmatism in Japan during Cretaceous to Paleogene times.

地震波トモグラフィ断面でイザナギスラブ，スラブギャップ，太平洋スラブ等が見えているのはなかなか面白い．白亜紀後期の火山活動はイザナギプレートの高速（15-25cm/yr)沈み込みによるらしい．ストレス条件にもよるだろうが，多量の水がスラブでマントルウエッジに供給されたというモデル．海嶺沈み込みモデルは火山岩のSr/Y比からは否定される．

(7) Miyazaki, Wallis, Ishii, Annen, Thermal modeling of the Sanbagawa and Ryoke belts.

島弧断面での熱シミュレーションにより，沈み込みスラブ上面でのShear heatingが重要であることを指摘している．宮崎さんは昨年秋の地質学会京都大会の私のポスターに来て下さったのだが，全然関係ない話をした．この原稿を纏められた頃で，印象深かったのは領家帯と云っても南側の高温変成岩に伴う花崗岩と北側の流紋岩に伴う花崗岩は全然違うものを見ているということをもっと考える必要があることが良く分かった．

図を貼り付けても良いのだが，字が細かくて眼が弱くなった私にはあまり有用でないので，5つほど．

Elements 20-2 Paired metamorphism in SW Japan