1年余り前に出版されてすぐに本屋で見たのだが,内容がチバニアン中心ではないように見えたので購入しなかった.先日,図書館の返却棚にあったので一応借りて読み始めたら,結構本格的な古地磁気学の研究史や最先端の研究内容が書かれていて面白く読むことができた.著者が中心になって申請・承認されたチバニアンについては全7章の最後の2章に書かれている.8割方読んだ処で著者に敬意を表して書店購入.

 

副題に「地球の磁場は,なぜ逆転するのか」とある.第1章:磁石が指す先には,第2章:地磁気の起源,第3章:地磁気逆転の発見,第4章:変動する地磁気,第5章:宇宙からの手紙,第6章:地磁気逆転のなぞは解けるのか,第7章:地磁気逆転とチバニアン.

 

幾つか,面白く読んだ点.伊能忠敬が日本地図を測量で作った1800-1815年頃は偶々偏角がほぼ零だった,とのこと.勘解由翁は幸運でもあった.口絵図4には人工衛星で観測された高度500kmでの地磁気強度が描かれているが,大西洋南西部にそれが弱い地域があり,その付近で人工衛星の故障が頻繁に起こっていて,地球磁場が宇宙線遮蔽になっていることを示している.地球磁場の始まりについては,古い岩石中のZirconの磁化の測定から議論されており,その技術開発が鎬をけずっている話は日本の研究者も係わっており面白い(第4章末尾).現在は地球磁場強度が減少しているが,松山―ブルンの時に当てはめると少なくともまだ逆転初期でありあと数100年以上は逆転にならないそうで,今生きている人類には切実な問題ではないとのこと.

 

堆積残留磁化獲得機構については,チバニアン認定でも重要な役割を果たしたようで,類似の図が3回出てくる(図4-4,図5-9,図5-13).ポイントは堆積物が定置した時点と堆積残留磁化が固定される時点にズレがあり,堆積後しばらく擾乱等があって後に堆積残留磁化が獲得されることが,堆積物の10Be濃度から確かめられた.チバニアンの始まりの境界は松山逆磁極期からブルン正磁極期の境に置かれるが,磁場の逆転に伴う地磁気強度が低い時期は地球大気への宇宙線量が多くなりそのため10Beの生成が多くなり堆積物にも多いが,それと堆積残留磁化強度のパターンが20㎝位ずれる.

 

チバニアン決定の経過も詳細に記されており,最初の働きかけは1990年にあったが,報告書が出されただけで国際誌への論文が出なかったために滞ったようだ.イタリアの2か所と房総の合計3カ所が俎上に挙げられたのが2013年.それからタスクチームが結成され著者を中心に多くの論文が書かれている.いろいろゴタゴタはあったが,3カ所のセクションについて,地磁気逆転の記録,古地磁気強度変化,ベリリウム10濃度変化,微化石からの古気候変動記録の評価があり,最終的に2020年1月17日(阪神大震災25周年)に房総のセクションが選定されている.この千葉セクションはまだまだ研究が深められるようだ.