困ったものである。藤井敏嗣火山噴火予知連会長や中田節也前IAVCEI会長、石原和弘元火山学会会長ら火山学・火山防災の第一線の人達がカルデラ噴火の予測の困難について警鐘を鳴らしているにも関わらず、原子力規制委員会は川内原発の再開を「安全は保証できるものではない」といいつつ実質的に認める方向で動いている。

いくつか大きな問題があると思うが、問題の一つはカルデラ噴火が数万年に一度で確率的に低いとされている点であるが、カルデラ噴火に伴う大規模火砕流が原発を襲うと取り返しのつかない大きな被害を生じる可能性が強いので、低い確率に被害の規模を乗じた場合、決して無視できるものではないこと。この点については、静岡大の小山真人さんが岩波科学に書かれている通り*で、極低頻度巨大噴火災害の評価の仕方をきちんと定式化して論じるべきだと思う。そうすれば、単に低頻度だからといって見過ごす訳にはいかない。

もう一つの問題は、カルデラ噴火前には前兆が必ずあるので、それが認められた場合に原発を停止して燃料の冷却・搬出をすれば良いという議論。火山噴火では確かに前兆が一般には認められるが、経験の積まれていない火山の場合、どの程度の変動(地震活動・地盤変動・火山ガス変化等)が生じた場合のどの程度の確率で噴火が生じるという定式化、あるいはモデル化が全然不十分である。つまり原発停止の定量的な閾値についての議論が全然できない状態で、漠然と対応可能というのは無責任すぎると思う。

以下、7月19日朝にTweetした文章(1)~(4)を並べます。

(1) 姶良カルデラで膨張や地震が起こったとして、具体的にどのような指標がいくつになったら噴火が迫ったと原発停止の判断をするのか、その閾値を決める事は火山学にとっては永遠に困難であろう。

(2) 噴火は多くの場合予兆はあるが、噴火の精密な定量的なモデルは従来の噴火でも出された例がない。2011年霧島新燃岳、1991ー1995年雲仙普賢岳。いわんや過去のカルデラ噴火をや。

(3) 噴火の大雑把なモデルは出されていても、その妥当性の検証は容易ではない。マグマ溜り圧・マグマ含水量・粘性係数等は大雑把には推定できたとしても、一番難しいのは火道の形成・発展の予測。

(4) カルデラ噴火の第一近似的なものはGeshi et al(2014) EPSLで提出されているが、規模が大きいほど噴出量/溜り量の比が小さいモデルとなっており噴火の停止が説明されない。火山科学の進展は期待されるが、噴火前に規模や時期を知ることはきわめて難しい。

関連する井村隆介鹿児島大准教授のツイートはこちら。

一応、原子力規制委員会の川内原発変更申請に対する審査書案についての意見公募が8月15日迄行われているので、なんとか具体的な意見を提出したいと思っています。