BINSON ECHOREC について | HOWL GUITARS

BINSON ECHOREC について

こんにちは、

HOWL GUITARSのhiroggyです。

今回は色々と本文が長そうになるので、いつものイントロ駄文は省きます(笑)

さてさて、さっそく本題に。

今回ご紹介するスーパーレアなヴィンテージエコーユニットは

Binson ECHORECです。



Echorec オールスターズ大集合!



Echorecの中でも完成形と言われているEchorec 2° T7Eです。



上からドイツ輸出仕様、イギリス輸出仕様、アメリカ輸出仕様。



小型ヴァージョンのベイビーとラックタイプのPE-603Tも!



やってまいりました、ヴィンテージ Binson Echorecです。ボンジョルノ!

いままで色々とマニアックなギター、アンプ、機材等を当ブログで紹介してきましたが、トップクラスにマニアックな機材の一つでございます。

Echorec 2°をメインに揃えました。

まず、Binson/ビンソンとは?

Pink FloydのDavid Gilmourが愛用していたことで有名なEchorecというエコーユニットの存在で、ご存知の方も多いかと思いますが、細かくご紹介していきます。

--- Binsonの始まり ---

Binsonはイタリア・ミラノにて1940年代にエンジニアであり企業家のDr Bonfiglio Biniにより "The Binson Amplifier Hi-Fi Company" として誕生しました。

初めのうちはRobersonというメーカー名のもと真空管ラジオを製作していたBinsonでしたが、1940年代後期にむけて小さなギターアンプを独自に作り始めていました。
そして1952年にBinson 3°という小型ギターアンプを完成させ、最初のヒット商品となりました (ちなみに3の後に着く小さな丸はイタリア語版の [第~] とか [~番] という意味です。英語なら1st、2nd、3rdなどにつくヤツです。つまりEchorec 2°はEchorec 2ndの意味)

その後半世紀以上にわたりBinsonはEchorec echo/delay Unitを始め、ギターアンプ、ミキサー、PAスピーカー、キーボード、はては時代を先取りしまくりワイヤレスマイク(!)等々、革新的なオーディオ機器を幅広く開発・製造しました。もちろんBinsonを一躍有名にしたのはDr Bini本人がデザインし作り上げたEchorecです。

--- Binson Echorec Unit [Ecorec to T7E]---

Echorecは1950年代半ばにマーケットに発表され、瞬く間に、最もパーフェクトな作動と音を得られる折紙付の技術を持ったエコーユニットとして地位を確定しました。いち早くイギリスでEchorecを使い始めたのはThe ShadowsのHank Marvinと言われており、あの名曲Apache (アパッチ) でもBinson Echorecが使用されています。その後彼のプレイスタイルやサウンドメイキングに大きな影響を受けたPink FloydのDavid GilmourやLed ZeppelinのJimmy Pageなどのロックレジェンドギタリストに愛用されたことがEchorecを有名にしたといって過言ではないですね。それほどBinsonにしか出せないサウンドがこのEchorecにあるというのは言うまでもありません。

最もBinson Echorecが成功した鍵となるのが "Memory Disc System" と呼ばれる独自開発の構造です。このMemory Disc Systemというのは大雑把に言うと、側面に0.1mmの極細コンスタンタンワイヤーを100回転ほど精密に巻きつけられたマグネティックドラムが回転し、その周りに配置された録音ヘッドと再生ヘッドを使ってディレイ・エコー音を生み出すシステムです。

このマグネティックドラムを使用したメモリーシステムは、当時の他のマグネティックテープを使用したEcho/Delayユニットよりも数段に持ちが良く安定しており、製造の精密さが要求され、いかに革新的だったかというのがわかります。
ちなみにどんだけ精巧かというと、ドラムとヘッドの理想距離は5ミクロンメートル=0.005mm。不可能だ!(笑)といいたくないりますが、さらにヘッドには5ダイレクションからの微調整が必要になります。

5方向、つまり、①ヘッド正面の平行角度 ②ヘッド上面垂直角度 ③ヘッド横面水平角度 ④ヘッド高さ ⑤ヘッドとドラムの距離・・そして4つある各ヘッド調整が同じでないと正確なエコー・ディレイ音を得られません (Vintageに正確さを求めるのもハテナと思いますが、ここでの正確さというのはProfessional Useの意で)。これがBinson Echorecはエンジニア泣かせのユニットといわせる所以ですね(笑)

50年代のEchorecにはゴールドプレキシパネルが使用され、最初の出荷ロットのEchorecには"h"が抜けたEcorecというスペルのヴァージョンも存在します。これらは1953/54に30台ほどしか製造されてなく、世界的にみても目にすることはない究極にレアな仕様。その後55年からは"h"が入ったEchorecのスペルで63年まで製造されます。

さて、今回HOWL GUITARSで入荷したEchorec 2°に話を進めます。
Echorecの進化版としてEchorec 2°が発表されたのは1960年のこと。これも極初期仕様でゴールドプレキシパネルが少数存在しますが、ブラックプレキシパネルに変更されます。

Echorec T5EからEchorec2° T7Eの主な変更点は、エコー音のトーンコントロールの追加と、それまでEcho/Bypass/Swellの切替コントロールが右側移りEcho/Repeat/Swellになりました。Echo=繰り返し1回のみ/Repeat=ずっと続く通常のエコー/Swell=常に4つのヘッドを使用

60年代の主なEchorec2° T7Eの仕様は、ECC83とECC82真空管を使用しており、全てポイント・トゥ・ポイント配線。電圧100V~240Vまでセレクトできます。3チャンネルをフロントのラジオ型プラスチックボタンで選べ 3input/3output あり、最も目をひくのが "Magic Eye" というフロントパネル中心にあるEM81真空管を使用した緑色に光るレベルインジケーターです。これはインプットドライシグナルとエコーウェットシグナルのレベル両方に反応し、視覚的にも楽しめる画期的なレベルメーターです。

シャーシ面にはトリムポットと呼ばれる各ヘッドのレベル調整機能もついています。それにより自分好みのカスタマイズができるという優れた面も持っています。特にSwellに切り替えた時のみに効く各プレイバックヘッドの4つのヴォリューム調整ポットはSwellに切り替えないと効果がわからない為、知らないと混乱します。

使用できるプラグも独特で、イタリアのGeloso社製3ピンプラグのみが使用可能 (エクスポートモデルを除く) このGelosoは別の機会で説明するとしますが、60年代までイタリア製オーディオ機器には使われていた廃番プラグで、現在非常に入手困難品です。なので現在出回っているEchorecは大半がTRSジャックにモディファイされています。

またBinsonはイギリスやアメリカなどにディストリビューターを持っており、イギリスではSound Cityが、アメリカではギターメーカーのGuildが代理店をしていました。その際に海外輸出用であるエクスポートモデルには若干の仕様変更があったりします。実はT7Eのフロントのプレキシパネルだけでも言語が数種類あり当店で確認できただけでも、

・英語Ver T7E
・イタリア語Ver T7E
・フランス語Ver T7E
・ドイツ語Ver T7E

と4種類の言語ヴァージョンが存在しています。合わせて右横のインアウトジャックの表記も言語別でそれぞれ違うという手のこりようです。

現在HOWL GUITARSには英語Ver Echorec2°、イギリスSoundcity Echoemaster2、米国Guild Echorec 2°、ドイツ語Ver Echorec 2°、と揃っています。というか地道に苦労して揃えました。それら個体別の紹介は追って当ブログで紹介致します。

実はEchorec 2° T7Eの中の基盤だけでも実は3パターン以上はヴァージョンがあり、確認できただけでも60年代初期ー60年代中期ー60年代後期とそれぞれ内部の構造が異なります。60年代中期のEchorec 2° T7Eのメンテナンスを覚えても60年代初頭のT7Eの個体とは構造のタイプが異なる為、混乱することがあります。

また使用されているACモーターも3種類以上は異なるタイプが確認されていて年代・個体によってモーターのスピードが微妙に異なったりします。70年代に入るとDCモーターが登場しDCモーターはモータースピードを可変できますが、ACモーターは基本的にはモータースピードを変えることができません。色々な個体を試して自分にあった個体を見つけるのが良いかと思います。

--- Binson その後---

ベストセラーモデルEchorec2°は1971年にソリッドステートに変更となったといわれていますが実際のところはその後も79年まで真空管バージョンも作っていたとも言われています。71年の前からSound Cityで発売していたEcho Master2はソリッドステートですし、そこらへんは曖昧。

60年代後半から70年代にかけBinsonはスタジオユーザーに向けた大きいラック型パワーアンプやエコーユニット内蔵P.A.ミキサーを製造し始めます。それまで再生ヘッドは最大でも4つでしたが、ソリッドステート化してからは6つ、終いには10個ついたデスクトップモデルも登場します。

世界的なシェアも広がり複数の工場をイタリア・ミランを中心に持っていたBinsonですが、テクノロジー全盛期の到来でチューブアンプは姿を消し、好まれるサウンドも変化して行ったことから1980年代半ばには製造を停止してしまいました。

しかしDr Biniは工場は手放さずに、一部の熱狂的なBinsonファンやミュージシャンのためにヴィンテージEchorecユニットなどの修理サービスやテクニカルサポートに使用したり、工場見学ツアーなどをして残していました。またレフトオーバーしたN.O.SのEchorecやアンプやミキサーやパーツが購入可能だったらしいです。う、うらやましい!新品状態のEchorecを一度でいいから試奏してみたいですね。



その後しばらくストアとして工場を使っていましたが、1996年についに工場を完全封鎖してしまいました。工場は現在でも変わらぬ姿のままミラノの郊外に残っているそうです。Binsonの生みの親であるDr Biniの死後も親族がBinsonの商標は所有しているそうです。

Binsonのスローガンは"Better than the best is BINSON"

真空管やプラグなどのパーツ以外は全てBinsonの自社製パーツで構成し、徹底的にハイクオリティーを貫いたBinson。Dr Biniの拘りがこのEchorec2°に詰まっています。

--- Echorec 狂気のメンテナンス---

しかし、しかしですよ、そんな完璧を謳ったBinsonにも弱点はあります。そして50年も前のヴィンテージ機材には宿命的に付いてまわる問題。メンテナンスです。

Echorecを所有の方、もしくは知識を持った方なら一度は聞いたことがあると思われる有名な話ですが、このEchorecに使われている配線を覆うヴィニールが、手の施し用が無いほど劣化しているのです。少し触っただけでポロリと崩れ落ちてしまうので、ほとんどのヴィンテージ物は修理が必要です。なにせ1960年代のエコーユニットが動くだけでも有難い話ですからね。

なにか特殊なヴィニール材質なのか、酸化が激しく、腐敗し、中の配線を錆びさせ、そこから発生したガスが周りのコンデンサーを傷つけ、故障させるのです。

Binsonはなぜわざわざこんなタタリ神みたいなヴィニールワイヤーを使ったのだ!?とリペアマンを発狂させたくなるほどほとんどのEchorecの内部配線はボロボロになっています。しかもそのワイヤーが本当に細かく細かく (そしてご丁寧に) ポイント・トゥ・ポイントで配線されています。例えば一部内部配線を交換しようと思っても、あまりにも細かく配線が入り組んでいるため、施工範囲が狭くハンダコテが当てられない。結局一度全部バラして慎重にハンダコテを当てる必要があり、場所によっては配線総取替えしないとリペア不可能になったりします。

Echorec2° を仕入れてフルオリジナルでメンテナンス不要の個体などほぼ存在しないと思っていいでしょう。たいがい故障して音が出ない、もしくは運良く音が出ても長年メンテされていない個体は本来の音がでません。

こちらがそのリペア画像です。



BEFORE

恐怖のゾンビワイヤー、虫歯ワイヤー、ガン細胞ワイヤー、たたり神ワイヤー、箱の中の腐ったリンゴ的ワイヤー。忌々しすぎていくらでも言えそうですが (笑) これが故障の原因になります。リペアマンの宿敵です。



AFTER

このように一本一本丁寧に取り外して、一本一本丁寧に交換します。手前側にカラーのついたシールド線も腐ってボロボロなのが良くわかるかと思います。この後全て交換することになります。

この細いリペア作業は根気のいる作業で、本当に泣かしてくれます。これだけではなく、さらに細いヘッド角調整などを含めると、Echorec一台にかけるオーバーホールのリペア時間は普通のエコーユニット (例えばWatkins Copicat など) の10倍はかかります。

こんな面倒のかかるじゃじゃ馬エコーユニット Binson Echorecですが、そのぶんフルメンテナンス後のサウンドは唯一無二です。聴けば一度で虜になってしまいます。他じゃ絶対に真似できない極上のエコー。まさしくOne and Onlyな存在です。

もしメンテナンスが必要なEchorecをお持ちでしたらHOWL GUITARSにお任せください。

正直かかるリペア日数は長く費用は安くないですが、完璧にメンテナンス/リペアをすれば聴き違えるほど変わります。



ではお待ちかねBinson Echorec2°のお写真を公開します!



Front view。パネル上部にある3つのプッシュボタンがChannel Selectorでコントロールレイアウトは左からPOWER ON.OFF & INPUT CONTROL / LENGTH OF SWELL / VOLUME / MAGIC EYE / BASS-TREBLE (TONE CONTROL) / ECHO, REPEAT, SWELL SELECTOR / SWITCH (PRESET HEAD)



フロントパネルは分厚いプレキシグラス製で真ん中にはEM81 Magic Eyeがエコー音に反応して緑色のインジケーターが動きます。弾きながら見ているととても和みます(笑)



上蓋を外した状態です。エコーの心臓部のドラムディスクはクリアプレキシカヴァーで覆われています。



マグネティックドラムディスクの周りを録音ヘッドと再生ヘッドが取り囲んでいます。この微調整がエコーレックのサウンドの決め手になります。



潤滑オイルとスペアのヒューズ。



磁気ディスクを3種類並べてみました。左から50〜60年代初め頃までの初期タイプ、Baby用、60年代中頃からのタイプです。



裏から見た図です。ご覧の通り左2個は中身までガッツリ鉄って感じでかなり重いですが60年代の途中で軽くする為に中が空洞の改良版に変更されました。初期の半分以下の軽さです。



back viewです。放熱用のベンチレーション。もちろんフルチューブなので真空管が発熱します。使用している真空管はECC83 x5、ECC82 x1、EM81(Magic Eye) x1です。



Lightのカバーを外した際の画像です。Echorec 2°のフロントパネルのライティングはとてもユニークな構造で、左右にヒューズのような形をした6.3V用のLightを使って横から透明なプレキシパネルの内側に光を届けるという構造になっています。こちらはUSA輸出仕様 Guild Echorec



これがコントロールパネル内部を照らす電球です。横から中を照らすというユニークな構造です。



ヒューズ型の小さな電球。



こちらはイギリス輸出仕様。Sound City Echomaster2



Sound city用の内部電球はさらに小さな電球が二つ。このように細いところでそれぞれの輸出仕様で違いがあったりします。



Original ON/OFF Foot Switch。このジャックピンも50〜60年代当時のイタリア国内のみで流通していた規格のピンで普通のSwitch Craftのジャックが使えると思ったら大間違い。探すのにとても苦労します。



オリジナルのフットスイッチ。BINSONの文字が確認できます。



OriginalのGeloso Plug。一部のエクスポートモデルや後年製造品を除き、ほぼ例外なく50~60年代Binson社製品にはGeloso社製のプラグが使用されているのですが、これがまた入手困難なクセモノパーツ。



パッと見は普通の3ピンプラグなので、問題なく普通のXLR(キャノンタイプ)プラグで使用可能だと思っちゃうのですが、それが勘違いの元です。くれぐれも無理矢理押し込まないように。間違いなく壊れます。

もし、中古で安くBinson本体を買ってもケーブルなどの付属品がついていないとGelosoプラグなしでは絶対に音が出せません。なので現在出回っているEchorecは大半が本体側をTRSジャックにモディファイされていますね。まぁモディファイして使いやすくするのもアリですが、どうせならオリジナルでキープしていたいものですからねぇ。



そのGelosoに加えて、もうひとつ厄介なのが、電源ケーブルです。これもGelosoと同様で60年代のイタリア家電のみに使用されていた形状のパーツで、現在見つけ出すことは非常に困難です。これもBinson本体側のインレットを使いやすい3ピン仕様にモディファイしてしまってあるのが多いです。



そこらへんにありそうな形状ですが、ありそうでない、むしろ全くない。そんなクセモノケーブル。





いやぁ~、長かった。ここまでEchorec2を揃えてリペアしてそれぞれ仕様の違いや内部構造の理解までして文章書くのに地味に1年以上かかりました。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

伝説のエコーユニットといって過言ではない、Binson Echorec。最上のパフォーマンスとサウンドを出すためには根気のいるメンテナンスやオリジナル度を重視すると入手困難なオリジナルパーツもあり、おそろしく手間のかかるエコーユニットですが、(イタリア車と同じ様に) なんともロマンあふれるヴィンテージマシンです。

次回からそれぞれ個体別に紹介させていただきますので、乞うご期待!!!


hiroggy
HOWL GUITARS